新たな刺客は倒せない2
クラスの皆んながざわつき始めた。
原因は津田先生に指名されて一向に朗読しない。いや、出来ない凛花ちゃんの異変に気づいたからだ。
国語の教科書2ページを読む。それが凛花ちゃんにとっては困難なことは俺以外知らない。ああ、津田先生もその一人だったね。
なにも出来ない俺は津田先生を睨むことしか出来なかった。
「あら、中島さんなにか?」
津田先生は振り向き無言の抗議をする俺に声をかけ牽制する。俺は立ち上がって策を練った。
「いやっその……凛花ちゃんいや、凛花さんの様子がおかしいと思います。ですから、俺が保健室に連れて行きたいのですが」
津田先生に聞かれ、とっさに思いついた凛花ちゃんの局地から救う手立てだ。ピンチをチャンスにするとはこのことさ。
上手くいくに決まっている。
「あら、そうですか、ただその前に本人に聞いてみないと分かりませんわふふ……」
「なっそんな悠長なこと先生っ!」
「黙なさいっ中島さんっ!」
「ぐっ」
一喝されて俺は力なく席に座った。
津田先生は俺より一にも二も上手だった。先生にあれこれ言う資格がない俺は従うしかなかった。せめてクイーンだったらすぐに先生の嫌がらせを止められた。
俺はもどかしさのあまり下唇を噛んだ。
「では村越さん。朗読出来ますか?」
「……出来ません」
チッまだ聞くかっあんなに苦しそうなのに。
「分かりました。では1ページだけで結構です。声を出して読んでもらえますか?」
「……はい……分かりました」
くっ駄目だっ1ページに減らされたって読むのに3分以上かかる。凛花ちゃんが1分以上声を出したら激しく苦しむ。それを見越して津田先生いや、刺客が突いてくるに違いない。
断言出来ないけど、村越新を送り込み卑怯な手を考えたのも新咲だったら許さない。狙うなら俺だけを狙えばいいのにそれを、友達だからって凛花ちゃんに危害を与えている。
大体新咲は執拗に俺に危害を与える理由はなんだ?
……考えられるのは嫉妬。性転換したあの日から俺は一躍人気者になった。それに悪いけど新咲より美少女だ。
この二つが主な理由だと思う。
俺は男の心だから分からないけど女の嫉妬は怖い。
「……は、……になり、けほっ……は立ち止まってけほっけほっひぐっ……もうっ駄目っ光ちゃん助けて……」
「!!」
限界に達した凛花ちゃんは、咳き込み胸を押さえ思わず俺に助けを求める言葉を残して着席した。
くっごめんなにも出来なくて……。
「あらっ村越さんっ大丈夫っ!?」
津田はワザとらしく言って背中をさすった。くそっその汚い手で彼女に触るな。
「…………だっけほっ」
「大丈夫じゃないじゃないの大変?保護者に連絡しませんとねぇ」
津田の狙いはそれかっ!!
両親に捨てられ最近まで施設のお世話になっていた凛花ちゃん。学校側は承知の事実だったけど、なにも身体的に問題ないと決定権があるクイーン様の判断で入学を許可された。
竜神高校は差別と言われようが、障害のある生徒は入れない方針だ。声帯に障害がある凛花ちゃんは1分だけ喋れる能力で誤魔化すことが出来た。
でも、俺との会話を盗聴され新咲に知られた。
くそっくそくそっ俺が関わらなかったら凛花ちゃんがこんな目に合わなくて済んだんだ。ごめんなさいっ凛花ちゃん。
俺は心から謝った。すると凛花ちゃんは俺を見て涙を流しながら笑った。
「大丈夫だ、か、ら……」
「ああ、駄目だ凛花ちゃん……」
俺はふらっと立ち上がり涙を流した。その光景を見ていたクラスの皆んなは不思議そうに見ていた。
「あらっ」
津田は保護者の連絡帳をめくるとワザとらしく言った。
「村越さんの保護者って障害者施設ねぇ確か、この高校は健常者しか入学出来ないのよ?」
クラスの皆んながざわつき始めた。くそっ津田の仕打ちは想像以上だ。今ここで凛花ちゃんの秘密をバラす気だ。くそっ!
「どう言うことかしら村越さん?説明してもらえますか?」
まだ言うかっどこまで卑劣なんだっ!!
「中島さんっ着席しなさいっ今大事なことですから」
「くっ……」
完全に俺の動きを封じられた。
完敗なのか?
問い詰められ下を向いた凛花ちゃんが口を開いた。駄目だっ正直に話してはっ!
「……私は声の障害を持って本来なら喋ることは出来ません」
「あらっまあ、そうなの?」
クラスの皆んながさらにどよめく。くそっ津田めっワザとらしくぬかしやがって!
「ですが、中学の時、1分だけ喋ることが出来るようになりました。能力のおかげで……」
「あら、では村越さんは学校側に偽って入学したことになりますね?」
「…………は、い…………」
くっ……これでは公開尋問じゃないかっ、どこまで卑劣なんだ津田いやっ新咲っ貴様はこのシナリオを考えたのか?
去年から計画されていたなら、それを知らずにぬくぬくと正月をむかえた俺は馬鹿だっ!
なにが美少女だっ浮かれやがって、目の前の大切な友達の危機を何故気づいてやらなかった?
津田の卑劣な尋問が終わりに差しかかった。
「これは重大な校則違反ですね。すみませんが皆さん。緊急ですが、この時間は自習にします」
「おいっ待てよっ津田っ!」
たまらず俺は立ち上がった。
「中島さんなにか?何度も注意を聞かないのであれば、あなたも職員室に連れて行きますよ」
「くっ……」
俺までも処分を受けたら、凛花ちゃんを救うことは出来ないから仕方なく座った。
「では村越さん。詳しい話は職員室で聞きますから今からご同行願います」
「はい…………」
駄目だ凛花ちゃんついて行っちゃ駄目だ。
新咲による最悪の嫌がらせだ。俺はなす術なく事態を見守るしかなかった。
◇ ◇ ◇
それから一限目が終わっても凛花ちゃんは教室に戻らなかった。放課後になっていてもたってもいられなくなった俺はすぐさま部屋に戻った。
ベッドに凛花ちゃんがうつむいて座っていた。酷く落ち込んでいるみたいだ。こういう時女の子にどう声をかけていいのか分からなかった。
ああっこの時ほど童貞だった(現在進行形だが)自分を恨んだ日はなかった。
声をかけることが出来ないからせめて彼女の肩を触れた。
「大丈夫だから……なんとか退学になることはないって先生に言われたから……」
「そ、そうか、それならよかった……」
いい訳ねーだろ自分。津田は新咲の手先だ。奴の言うことなんて信じてはいけない。
今は退学を免れても新咲のシナリオはまだ途中とみて間違いない。だから予断は許さない。
「あとね、津田先生が気になること言った」
「んっなっなんて言った凛花ちゃん?」
俺は思わず凛花ちゃんの肩を掴んで聞いた。
「痛いっ光ちゃん痛いってば!」
「あっご、ごめん凛花ちゃん」
肩を掴む手を離した。
「んでねっ先生がね、生徒会選挙の結果が楽しみですね。だって変なの?」
「…………」
新咲ぃ俺達をジワジワとなぶり殺す気かっ!?
「ごめん凛花ちゃんちょっと用事を思い出した」
俺は凛花ちゃんを残し、部屋を飛び出しクイーン様の元へと向かった。




