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新たな刺客は倒せない

 

「久々の学校は疲れたねぇ凛花ちゃん」

「…………」


 食堂で食べてから部屋に戻ったんだけど凛花ちゃんは黙ったままだ。まだ怒っているのか返事もしてくれない。

 さて、困ったぞ。


「ねぇ凛花ちゃん?」

「…………」


 ちょっと返事して欲しいんですけどねぇ……上着を脱いでチラリと見ても彼女は椅子に座って、無表情に一点を見つめていた。

 流石にワザとじゃないと思って心配になってきた。


「凛花ちゃん大丈夫?」


 俺は凛花ちゃんの側によって手を握った。手は冷んやりして冷たかったから、俺の両手で温めてやりますよ。


「やめて光ちゃん」

「どうして?俺はやめないよ」

「だって光ちゃん優しすぎるから、捨てられた時辛すぎます」


 手を離した凛花ちゃんは両手で顔を覆った。

 彼女は泣いていた。俺は良かれと思った行為が逆に、彼女の重荷になって泣かせてしまった。


 こんなにも女の子を泣かせたのは初めてかな?

 こうした時どうすればいいのか童貞の俺は分からない。完璧な美少女の姿になっても心は童貞不甲斐ないと心底思った。


 凛花ちゃんと同じ部屋で生活してきたけど、まだ一度たりとも契りを結んではいない。当たり前だ。俺達は健全な高校生だからな。


「ふ〜凛花ちゃんこんな時はさぁ寝よっか?」


 恋の重圧に苦しむ凛花ちゃんを救う言葉もかけずに俺は逃げ道を作った。言ってやればいいのに好きだと、いや、そんな無責任な覚悟で言えない。

 良かれと思って「好きだ」と言っても彼女には重荷になるかも知れないのだからさ。


 好きだ。

 そう気軽には言ってはいけないんだ。


 パジャマに着替えて俺はベッドに入った。凛花ちゃんはしばらく手を胸に当てて立っていたが黙って入ってきた。

 当たり前だ。ベッドは一つしかないのだからな。


「なあ、まだ、無責任なことは言えないけど、俺はいつも君の側にいるよ」

「…………」


 返事はなく彼女は寝返りをうって背中を向けた。まだ怒っているのかな?

 それでも構わない。だって凛花ちゃんは俺を必要としているし、俺も彼女を必要なんだ。だからケンカくらいで離れやしない。


 今夜は構わず寝ることにした。

 ぐっすり眠れば元に戻ると信じて電気スタンドを消した。



 朝になって目が覚めた。まだ微睡(まどろみ)のなか二度寝したい。だけどまだ火曜日。俺は仕方なく起き上がった。

 凛花ちゃんの姿が見えない。しばらく呆けてから時計の針を確認した。時刻は7時30分。始業時間は8時30分だ。


「参ったな凛花ちゃん先に行ったのかな?」


 俺はベッドから出て洗面所で顔を洗ってうがいをして髪をブラシで解いてから、髪を二つにまとめツインテールにした。

 女体化した俺の髪型はツインテールしか考えられない。大人になってもきっと変えることはないのだろう。


 部屋に戻ると二日前に買っておいたジャムパンをかじった。この時間だと食堂に行く時間がないからだ。

 パンが乾いた口の水分を持っていく。しまった。こんなことなら昨夜の大浴場で瓶牛乳をもらっていくべきだった。


 一人寂しくベッドの上でパンを食べ終えてから制服に着替えて部屋を後にした。

 教室に向かう途中他の生徒に囲まれたが、今はそれどころじゃなかった。教室に入ると凛花ちゃんが席についていて、文庫本を読んでいた。


「んっ…………」


 気を使った俺はあえて声はかけずに席ついて頬杖をついて外の景色を眺めた。

 始業のチャイムが鳴った。

 朝の挨拶が終わってから国語の授業が始まったのだけど、担当の先生が暴漢に襲われ緊急入院。その代わりに入ってきたのが非常勤講師の女の先生だ。


 栗色のセミロングの美人な先生だ。名は津田詩織(つだしおり)まだ20代の若い先生だ。


「こんにちは。ちょっと不慣れだけどよろしくねっ」


 津田先生はおどけた口調で言った。クラスの皆んなは和やかな雰囲気になった。


「では早速だけど、教科書の270ページから271ページまでの文章を誰かさんに読んでもらおうかしら?」


 津田先生はキョロキョロと生徒の顔を見回す。皆んなは当てられまいと下を向いた。

 はは、確かに嫌だけど真面目に授業受けようよ。


「仕方ないわねぇそれじゃ先生が決めるわ。んっそこのえーと誰だっけ、ああ、村越さんに立って読んでもらいましょうか?」


 なっ!?


 あろうことか津田先生はよりによって凛花ちゃんを指名した。ちょっと待て凛花ちゃんが喋る限界はたったの1分だ。それを2ページ分も朗読出来るはずがない。


「せっ先生っおっ俺が代わりに読みます!」


 俺はたまらず立ち上がって申し出た。


「あらっ駄目よ中島さん。せっかく村越さんが皆んなの前で読むのだから……」


 柔かな表情を浮かべた津田先生が俺の前に立って顔を近づけた。


「んふふ、駄目よぅ邪魔しちゃ中島光輝君いや、光ちゃん」

「なっ!?」


 思わず俺は後ろに下がった。背中が窓に当たった。津田先生は俺だけに邪悪な笑みを見せてからすぐに柔和な表情に戻った。

 だがそれよりもゾッとしたのは何故、新任の先生が凛花ちゃんが最近呼んでいる俺の呼び名を知っていた事実だ。


 まさか、津田先生は新咲が送り込んだ刺客?


「さあ、中島さん席について、ふふ、さて、村越さん。早速皆んなの前で、息継ぎなしで読んでもらいましょうかねぇふふ……」


 津田先生は丸眼鏡のテンプル(つる)を持ってレンズを光らせ、ニタニタ笑いながら俺を見下ろしていた。

 こいつ……まさか。


「津田…………」


 単純な輩だったら王子に頼んで、ぶっ飛ばしてもらえばいいけど今回の刺客は先生だ。一応相手はなにも悪いことしてこないから厄介だ。

 確かに正攻法。

 だけど、凛花ちゃんにとっては大ピンチだ。このままでは凛花ちゃんの能力で隠してきた障害が皆んなにバレてしまう。


 凛花ちゃんは泣きそうな顔で教科書を見つめついた。


 くそっくそくそっ!


 卑怯だぞっ津田先生いや、新咲が送り込んだ刺客。


 どうすればいい?


 ポケットの中に忍ばせた呼び出しボタンを押して王子を呼ぶか?


 いや、刺客はなにも悪いことはしていないから暴力で解決するのは、こちらが分が悪い。


 ならどうする考えろ俺。


 ああ、策が浮かばない。これまでとは一味違う新たな刺客に俺は戸惑いを覚えた。


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