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怒る凛花ちゃん

 

 新咲が生徒会長になったら、理不尽な校則を提案する可能性がある。

 だから新咲の当選だけは阻止したい。それには対抗馬が必要だった。俺が生徒会選挙に立候補する案もあったけど、そんなに頭の良くないんで無理だ。


 そこで今、俺に告白してきた現生徒会長の角田須先輩が、今年度も選挙に立候補すると言ったので、ヤル気を出させて勝たせるため褒美に付き合うと出まかせの約束した。


 彼の去年の実績と人望があれば当選は確実だ。そう思うと一安心した俺は、額に滲んだ汗をハンカチで拭った。

 始業開始5分前のチャイムがなったので俺は振り向いて凛花ちゃんの顔を見た。


「凛花ちゃ……」

「むう…………」


 あちゃっ、口を尖らせ怒ってらっしゃる。だから俺は子供をあやすようにしゃがみ込んだ。


「あっあのねっさっきの付き合うってのは……」

「むぅ――――」


 今度は目つきが悪くなってまだお怒りの様子。


「新咲が生徒会長に当選したら俺も凛花ちゃんに危害が及ぶから、唯一の対抗馬の角田須先輩にやる気をおこさせるために付き合うって言ったんだ。いっ痛っ!」


 訳を言っても納得いかないのか凛花ちゃんは、俺のほっぺをつねった。


「痛っひっり、凛花ちゃん。たっ例え角田須先輩が当選してもっなんとか誤魔化すからっ許してっ!」

「本当?」


 ひいっ指が離れた。もうっ最近ちょっと暴力的になってない?

 まあ、感情を素直に表現出来るようになったのは喜ばしいことだけど。


「うんっ大体付き合うと言っても、まず角田須先輩が当選しないと契約が成立しないから」

「でも、光ちゃんは角田須先輩を勝せたいんでしょ?」

「……うんっ」

「む、…………」

「イテッ!」


 またつねった。

 凛花ちゃんは、俺が条件付きで角田須先輩と付き合うのが気に入らないらしい。

 もちろん俺は凛花ちゃんを裏切るつもりもないし、当選させた角田須先輩と付き合うつもりはない。


「大丈夫だから聞いて、角田須先輩が当選してもなんか理由つけて付き合うの断るから」

「光ちゃん騙すのは良くない」


 確かにそうだけど真面目だなぁ凛花ちゃん。

 俺は何故か凛花ちゃんの頭を撫でてから、手を繋いで教室に向かった。凛花ちゃんは依然口を尖らせて怒っているみたいだけど、うやむなやにしたんだ。


 教室に入ると皆んな俺の元に集まって来たから俺って、注目浴びてんだなぁと実感した。その後すぐに先生が来て、全生徒集会があるからと体育館に誘導された。


 新年度の校長の退屈な挨拶そして長いスピーチが始まって眠くなって大変だった。まあ、いつものことだけど。

 ようやく校長先生の挨拶が終わって、教頭先生から重要な報告があった。なんでも一年を担当する国語の先生が暴漢に襲われたとの話。

 幸い命に別状はなかったけど、しばらく入院するとのことで代わりとして特別(とくべつ)非常勤講師(ひじょうきんこうし)の20代くらいの女の先生が壇上に上がった。


 臨時に派遣されて来た先生は、栗色のセミロングに丸眼鏡と地味な印象だったけど、かなり美人さんだった。

 国語の先生が暴漢に襲われたのはちょっと負に落ちなかったけれど、まあ、代わりに来た先生が美人さんだったから良しとしよう。



 ◇ ◇ ◇



 それから授業が全て終わってから俺は凛花ちゃんを連れて部室に向かった。部室には全員揃っていて部長が副部長と将棋をさしていた。ちょっとここは将棋部ですか?


「ところで副部長、ビニールハウスの件はどうなった?」


 ビシリと王手をかけた桃野部長が聞いた。


「今生徒会に申請してますが、今月中に申請が通るのは難しいとのこと」

「そうか、仕方ないなぁとなると、次の新しい生徒会に申請を継続することになるよな?」


 いつもはしゃいでいる部長が腕を組んで、珍しく真面目な話しをしていた。

 そうか、この時期だとビニールハウスの申請は次期生徒会にするをだ。となると、もし新咲が当選したらその申請は却下されるな。


 それにどんな理不尽な仕打ちを仕掛けてくるか分からない。

 新咲という女は人気はあるけど、裏では気に入らない生徒を金の力で潰してきたんだ。

 今回生徒会長を目指すのは単純に権力が欲しいだけのこと、生徒会は本来そういうところじゃないんだけどね。


「やることないね凛花ちゃん?」

「うん」


 冬だから植物に水やりも出来ないし、先輩達は雑談しているから俺と凛花ちゃんは椅子に座ってボーっとしていた。

 それに暖房がない部室は凄く寒かった。俺は太ももを摩って身震いしていた。


「寒いね凛花ちゃん?」

「うん」

「……アレ?」


 もー凛花ちゃんさっきから言葉少なげでまだ怒ってるの?


 すると凛花ちゃんは目をまるくして入り口の方を凝視していた。なにかいるのかと思って振り返ったら、そこに人がいた。


 白のブレザーの制服に、ウエーブがかった背中まで伸びた金髪の端正な顔立ちの美少女がこちらを見て微笑んでいた。

 んっこの少女どこかであった気がする……。


 やけに寒かったのはこの少女が戸を開けていたからだ。


「あのっどなたですか?すみませんが寒いので戸を閉めて下さい」

「クローズ?」


 んっ少女は英語で答えた。

 見た目もバリバリの外国人だけど俺はその口調にある人物を思い出した。


「失礼とは思いますが、貴女は白王子ですか?」

「…………」


 俺が聞くと少女は歩き出して俺の前に立った。相変わらず口元は上がっていた。なんか言えよ!


「ワタシ今日からボンサーイ部に入部シマシテ来ましたシンディーでぇす」

「はあ……どうも」


 謎の美少女が入部希望?

 とは言えなんで俺に言うんだ。部長はあっちだぞ。


「お風呂で一緒になって以来ですねぇ?」


 少女は俺に指差してとんでもないこと言った。

 ちょっと待って、ああ、あの時の女か?だけどそれを今言うか?

 横を見ると凛花ちゃんはうつむいて震えていた。


「あのっ凛花ちゃん寒いの?」

「どう言うこと?」

「へっ……?」


 凛花ちゃんは膝に乗せた手を強く握っていた。

 あちゃっ怒ってらっしゃる。今日は凛花ちゃんが怒る日だなぁと一言みたいに思っていたら、気付いたら少女は俺の間近に来ていた。


「ちょっとなんですかっ部長はあっち!」

「アイラブユー」

「はあっ?」


 いきなりなに言ってる?

 状況を把握出来なくなった俺は凛花ちゃんと少女の顔を交互に見てうかがった。

 焦る俺の心を知ってか知らずか少女はクスクスと笑っていた。


 いやいや、おかしくないよ君、笑えない。


 殺気を感じて隣を振り返ったら、顔を赤くした凛花ちゃんが俺を睨んでいた。思わず顔をそらしたら太ももをつねった。


「痛っ!」

「光ちゃんお風呂で会ったってどう言うこと?」


 やっぱり怒る理由はソレか。

 どう言うことって風呂場で偶然会っただけ。でも正直に話したけど凛花ちゃんはまだ怒っていた。


 今日は色々あった。生徒会長の告白と約束。国語の先生が暴漢に襲われたこと。そして急に現れた正体不明の謎の生徒シンディー。


 もー怖いなぁこれ以上なにもないといいけどシンディーがなぁ、外国人だしなにするか分からん。


「キュートガール」


 んっ俺のこと?

 俺は凛花の顔とシンディーの顔をうかがった。シンディーは俺を見つめていた。顔が近い。距離は5センチにも満たない。

 ちょっと待て唇に当たる。


 チュッ


「あっ!!」


 シンディーは俺のほっぺにキスした。唇じゃないがキスはキスだ。そして驚きの声を上げたのは凛花ちゃんだった。

 不味い泥沼だ。

 怒る凛花ちゃんを沈めるためにとっさに抱きついた。苦肉の策だが機嫌を良くしてもらうには、ラブアピールしかない。


「凛花ちゃん違うよ」


 なにがちがうんだ。自分で言っておいておかしくなって苦笑いを浮かべた。

 しかしそんな誤魔化し凛花ちゃんに通用するはずもなく、両方のほっぺをつねられた。


「光ちゃん言い訳なら部屋で聞きますよ……」

「はっはがっ……はひゃい……」


 えらいこっちゃ凛花ちゃんは笑顔で怒っていた。三学期そうそう波乱の学園生活が始まった。


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