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正月とおモチとクイーン様

 

 初詣が終わってからファミレスでお茶してから、学園まで送ってもらい副部長と別れた。オカマな針無先輩はムキになってついて来そうになったので、強引に副部長に押し付けて逃げた。


 さて、三学期はなにかと不安はあるが、今は凛花ちゃんとの正月休みを楽しみたいと思った。

 洋館までの道のりで凛花ちゃんと、なにを会話していいのか正直分からない。だから、無難なネタ振りしすることにした。


「凛花ちゃん正月なにしたい?」

「光ちゃんとモチ食べたい」


 ちょっ……なんつう地味な願望ですか?

 でも気おつけな、おモチはノドにつまりやすい。特に凛花ちゃんみたいなドジっ子は危ないから、俺が側に見てやらないと駄目だな。


 凛花ちゃんって施設に入居していた時期はモチなんか食べなかったのかな?

 だよなぁ一人でモチ食べても楽しくないもんね。分かった。正月は二人でモチを食べよう。それに、おせち料理なんかも食べたな。ちょっとわがままだげど、食堂で出してくれるかな?


 そんな訳で俺と凛花ちゃんは部屋に戻らず食堂に向かった。えっと、洋館で生活するようになってからどこで食べているかと言うと、洋館裏にある従業員用の食堂で食事してる。


 朝昼晩と食事を出してくれるから楽だ。凛花ちゃんはちょっと不満らしい。なんでかと言うと、俺と楽しく料理を作りたかったそうだ。いや、それもいいけど、学校が始まったら毎日朝晩と食事を作るのは大変ですよ。


 実はここだけの話、食費代はタダなんだ。現クイーン様が費用を全て負担してくれているから、どうしてそこまでしてくれているかと言うと矢張り、クイーン様は俺を次期クイーンになってほしいからなんだ。

 ありがたいけど、今のところクイーンになる気はない。


 何度も断ってそれでも負担してくれて大丈夫なのですか?とクイーン様に尋ねると、「大丈夫です。あなたなら」と微笑んでくれる。そう、彼女は決して俺達を洋館から追い出すことはしない優しい人なんだ。


「クイーン様いるかな?」


 食堂に入って中を覗き込んで凛花ちゃんが言った。

 そう、俺は食堂でクイーン様と何度かお会いしていたんだ。確かに戦闘メイド達に守られてはいるけど、庶民的なこの食堂でしょっ中食事している。

 クイーンにはこんなことを言っていた。


「望めば毎日お屋敷にいながら高級フレンチのディナー毎晩食べることが出来るけど、それよりも私は庶民的な食事の方が好きです」


 あのクイーン様がと意外に思ったけど、高級フレンチなんか毎日食べていたら一週間で飽きると思う。そんでもって味噌汁が無性に飲みたくなるんだ。だって俺達は日本人だからね。


 食堂の中を覗くとまだ誰も利用してなかった。ただし、この食堂は休日でも深夜意外営業してるんだ。休日なんか大して利用者が少ないのに営業している。しかも、朝昼晩何度来ても無料で食事を提供してくれるんだ。

 いやーありがたい。タダだから何度も行きたくなるけど太るから我慢な。


 食堂内に入った。


「凛花ちゃん今日の昼飯なに食べたい?」


 壁に貼られたメニュー表を険しい顔で見上げる凛花ちゃんに聞いた。すると凛花ちゃんはクールな顔をこちらに向けた。


「モチが食べたい」

「いやーモチは流石に出るかな?」

「出るよ!」


 凛花ちゃんは両手を握りしめ真剣な顔で言った。この子って心を許した相手だと、こんなにも積極的になるんだ。

 なんだか子供みたいにはしゃぐ凛花ちゃんを見て俺は守ってやらなくちゃなと、そう思うのであった。


 ああ、分かっているよ。


 俺自身王子様に守られる、か弱い女の子になっちゃったのは重々承知だけど、それでも自身の手で俺より弱い凛花ちゃんを守っていきたいと思った。


 そうさ、まだ心だけは男なんだぜ凛花ちゃん。俺はメニュー表を見つめる凛花ちゃんの肩にそっと手を添えた。


「どうしたの光ちゃん?」


 不思議そうに振り返る凛花ちゃん。


「あっいや、モチあるかなぁ?」

「あるよ!」

「いやーメニューにはないみたいだけど……」


 ガンとして譲らない凛花ちゃんにタジタジになってしまった俺はつい後ずさりしてしまった。

 モチはメニューにない方が俺は良かったんだ。だってもしもだよ。凛花ちゃんおっちょこちょいっぽいから、モチ喉に詰まらせそうで怖いんだ。だからむしろない方がいい。


「おモチありますよ」


 えっ!?


 急に後ろから声をかけられ振り返ると、そこには食堂のお盆を抱いたクイーン様が微笑んでいた。水色のフワッとした感じのロングヘアに、お人形さんみたいな整った顔に見とれてしまった。

 その隣りには黒王子様もいて、いつものようにニヒルな雰囲気を醸し出していた。


 休日中の彼女は制服姿だった。ただ、金の刺繍が各部に施されていて豪華仕様で他の生徒との差別化はされていた。

 まあ、俺達も制服姿なんだな、だって毎日ファッション考えるのなら制服着て過ごした方が楽だし、住んでいる場所がさぁ学校だから私服だとこう、なんか、心がムズムズする。

 特に休日出勤中の先生と会うと怒られそうでね。だから凛花ちゃんと相談して休日中の普段着も制服でいようって。


 そんな理由をクイーン様に報告したら、しばらくして休日仕様の黄緑色の制服をプレゼントされて今着用してる。

 しかも三着も渡された。これなら汚れても変えがあるから洗濯出来るから助かってます。


 ちょっと脱線した。話に戻る。


「クイーン様っおモチ出るんですか?」

「ええ、今日は元旦ですからねぇ特別におモチが提供されます」

「そうですか、なにモチですか?」


 何度かお会いしていてもクイーン様と会話するのは緊張する。だからテンパってよりによって黒王子に質問をしてしまった。


「…………あ」


 終わった俺。


「俺に聞くか?」

「はは、ですよねぇ……」


 聞いた俺もうかつだったけど、もう少しコミニケーションとれる気の利いた返事して欲しかった。

 この人なに考えているか分からないなぁ、まあ、一番頼りになるのは間違いないのだけどね。なんつうか、この人だけ住む場所を間違えた孤独なダークヒーローみたいだ。


「俺はあんころモチだ……」

「ぷっ!」


 失礼っニヒルな黒王子があんころモチって呟いたら吹くでしょう。ちょっと意外性すぎますよ。

 あんこを絡めたモチは確かにあんころモチと呼ぶ。いや、普通はあんこモチだよね?あんころって言うとなんか可愛い。

 俺はそのギャップ(男には萌えない)に思わず拭いたんだ。


「では私は砂糖醤油モチにしましょう」


 クイーン様までもまた妙なモチのチョイスした。

 砂糖醤油モチとは焼いたおモチに砂糖を入れた醤油を付けて食べるシンプルな食べ方。まあ、どこの家庭もやっているかも知れないけど、あのクイーン様が注文すると意外過ぎた。


「光輝様はなんのおモチにしますのでしょうか?」

「えっ俺ですか……」


 クイーン様に聞かれて正直困った。だって俺別におモチ食べなくても生きていけるならなぁ結構ほら、現代っ子なんだ。

 うーんでも、断るのは失礼だからモチは食べないとなぁ、んっ?


 おい……なんで食堂に来てさっきからおモチのこと真剣に考えているんだ?

 いやいや、こんなにおモチのこと真剣に考えたのは後にも今日だけだろう。ああ、頭の中はおモチで一杯だ。


「凛花ちゃんはなにモチ食べたい?」


 なにモチって自分で言っておいてだけど、ふふっ妙な笑みが溢れてきた。


「納豆モチ食べたい」

「えっ!?」


 またよりによって癖のあるチョイスしてきたなぁ凛花ちゃん。


 ねぇ凛花ちゃんまさかとは思うが、ワザとボケたの?


「…………じゃあ俺も凛花ちゃんと一緒でいいよ」


 かぁ――主体性ないな――俺。別になんでもいいんだよモチなんて、あっモチファンの方ゴメンね。


 そんな訳で今日のお昼はおモチとなんと豪華おせち料理が提供された。お重に伊勢エビとか入ってなんとも豪華だけどお昼はラーメン食べたかったなぁ。


 しかしおせちもタダってこの学園どんだけ儲かっているんだ?

 まあ、タダと言うなら学園の台所事情気にせずに頂きますよ。


 ◇ ◇ ◇


 俺と凛花ちゃんはクイーン様と食堂で会うとこうして一緒に向い合って食事するのだけど、友達にそのこと話すと驚かれる。

 まあそうだね。クイーン様は生徒の中で一番の権力者だからさ。

 だけど当の本人は威張ったりしないからこうして話すことが出来るんだ。


「あのう、クイーン様……」


 俺はモチを食べながら上目がちに視線を送って声をかけた。


「なんでしょうか光輝様」

「あ、えーとですねぇ新咲のことでご相談が……」

「新咲さんですか、存じております。それでなにか?」

「あっえ……」


 困ったなぁいい雰囲気だったから、気前よく相談に乗ってくれると思っていたけど急に張り詰めた雰囲気になった。

 嫌がらせ、いやそれ以上に危害を加えてくる新咲をなんとかして欲しかった。だから話題を振ったんだ。


 しかし、頼みのクイーン様は微笑んではくれなかった。


「光輝様が新咲さんの嫌がらせを受けているのは当然知っておりましが、ですがあえて私は断わりまます」


 モチを食べ終えたクイーン様は立ち上がってお盆を持った。側に寄り添うメイドが気を使ってお盆に手を出すと、クイーン様は手を払い除けて返却口に向かった。


「ちょっと待って下さいクイーン様ぁ!」


 俺も一歩も引けない。立ち上がってクイーン様の背中を追った。

 クイーンの特権で新咲をなんとかして欲しいと藁にもすがる気持ちだった。本当のこと俺のことはどうでもいいんだ。

 俺より凛花ちゃんのことが心配なんだ。だから、黒王子がガードしても必死に食い下がった。


「お友達を思いやる光輝様のお気持ちは、分かりました」


 クイーン様は振り向いた。


「ではっ!」

「しかし、私は手は貸しません」


 クイーン様は瞳を閉じて言った。

 俺は一瞬頭の中が真っ白になった。だって、なんでもしてくれたから、新咲の対処もしてくれると思ってた。

 たけど、アテが外れた。


「そんなっ頼みますっクイーン様っ俺と凛花ちゃんは新咲(アイツ)のせいで死ぬ思いをしたんですっ!」


 しかし、俺の必死の訴えにクイーン様は背中を向けた。


「なんとかしたかったら光輝様がクイーンになって問題を解決しなさい。それが私の答えです」

「あっ……」


 食器を片付けたクイーン様は俺を冷たく引き離して、立ち去って行った。優しい彼女がだ、ああ、分かっている。

 俺に立ち上がって欲しいんだろクイーン様。次期クイーンになって欲しいから心を鬼にしたんだね。


 俺は心配そうに肩を掴む凛花ちゃんの顔を見つめた。


次三学期編です。

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