負けず嫌い
宝くじスキルも同時投稿です。
クリスマスパーティーの翌日俺は凛花ちゃんと荷物の整理に追われていた。凛花ちゃんはまず初めにお気に入りのぬいぐるみ10体を、ダンボールから取り出しベッドの前に配置した。
試しにベッドに寝転がったらなんか背中がゾワゾワする。
「…………」
背後からの視線を感じた。それも一つや二つじゃない。複数の視線だ。俺は振り返った。
目が合った。もーぬいぐるみ達がこっち見てるよ。
10体は流石に多いなと俺は思った。
あとは衣類をタンスに収納して机に勉強道具を配置して、本棚に持ってきた本を入れて大体終わりかなぁ。
この部屋の家具は一通り揃ってるから、用意しなくても助かった。
「さて、あとは床掃除してひと段落だね凛花ちゃん」
「うん」
俺は凛花ちゃんと雑巾を絞って床を拭き始めた。雑巾がけなんて小学生以来かな?しゃがんで拭くのは大変だけど凛花ちゃんと一緒なら楽しいよ。
しゃがんで一生懸命雑巾がけしていると、凛花ちゃんは手を止めてじっと見つめていた。
「ちょっとなに見てんの?」
「パンツ見えてるよ光ちゃん」
「えっきゃっみ、見ないでっ!?」
慌ててスカートを押さえパンツを隠した。性に目覚めた小学生男子かよ!
「今の光ちゃんの仕草完全に女の子だったよ」
「え――?」
ちょっとショックだ。確かに可愛い悲鳴あげたけど、仕草が女の子になっていたのね。
意識しなくても女らしくなっていく不安。男のままで生きていいのか分からないんだ。
一通り床を拭き終わったので一休みしたいから、雑巾を洗って干してから手を洗って一息ついた。
お互い勉強机の椅子に座って向き合った。
「…………」
話のネタが思い浮かべられない。
さて、困ったぞ。凛花ちゃんは無口だし、俺から話さないといけないからな。
「困ったな、やることないね?」
凛花ちゃんはじっと座って俺を見つめていた。すると小さな口が開いた。
「…………じゃあ私部室に行きたい」
「えっ部室に?」
「盆栽について教えて下さい」
そう言えば、凛花ちゃんが盆栽部に入ってから一度も部活らしいことしてなかったな。
やることないし、この機会に盆栽と言うか初歩的な園芸を教えよう。
「分かりました。今から行こう」
俺は立ち上がって凛花ちゃんに手を差し伸べた。
「はいっ」
凛花ちゃんはにっこり笑ってから手を握ってくれた。
彼女にしては多分なんでもいいんだ。俺と一緒に行動するだけでね。
洋館から出て校舎に向かった。休校中の校舎は自由に入れるようになっていた。
年末だけあって誰もおらず校舎は閑散としていた。
「静かだね」
「うん」
俺は凛花ちゃんと手を握り、しんと静まりかえった廊下を見つめた。
◇ ◇ ◇
「あれっサボテンだけ教室の中に入れてある?」
部室に入ると凛花ちゃんはサボテンに指差し聞いた。
そう、松や紅葉と言った日本産の植物の盆栽は外に置いていた。外に置くのは植物にとってそれが自然だからね。
盆栽好きのお爺ちゃんは盆栽はいつも庭に置いていた。なんか和室に飾らているイメージだけど、それは間違い。有名な盆栽家は広大な庭で外置き栽培だ。外置きだと盗まれやしないか不安になるけど、
まあ、それが原因で1億の盆栽が盗まれた事件もあったね。
で、部の外置き盆栽は、竜神高校の生徒は行儀がいいから心配ないと思うね。
「サボテンは寒さに弱いから教室の中に入れてるんだ」
一部外に置いても冬を越せるサボテンもあるけど、枯らすリスクを冒すよりは中に入れていた方がいい。
「そうなんだ。でも……」
「でも?」
凛花ちゃんはためらうよに口を閉ざした。
「サボテンさん部室にポツンと置かれ寂しそう……」
「…………」
多分凛花ちゃんは、サボテンと自分との境遇を重ねていたのだと思う。サボテンは長年お爺ちゃんに大事に育てられていたから、そんな傷心に浸ることはないけどね。
凛花ちゃんは同じに感じたんだ。
「分かった。このサボテンだけ部屋に持ち帰って育てよう」
「本当?」
「うん」
凛花ちゃん笑顔になったな。でも持ち帰っても冬だから世話する必要がないんだよね。
サボテンは夏型と呼ばれる夏が成長期なんだ。その逆に冬は休眠期だから水やりは控える。
「じゃあ帰ろう」
凛花ちゃんが大きな丸サボテンを持ち上げようとしゃがんだ。
大きな丸サボテンは金鯱と言って金色の針が特徴の昔から親しまれてきたサボテンだ。
お爺ちゃんが三十年も育てたこの金鯱は20センチは超えていた。
「待って俺が持つよ」
「いいの?」
「女の子に重たいサボテンを持たす訳にはいかないよ」
「変なの、光ちゃんだって女の子だよ?」
「…………だよねぇ、だけどさぁ」
確かに良く考えたら今の俺は凛花ちゃんと同じか弱い女の子の身体。でも、気持ちは男の子だよ。
だから、気持ちなら俺の方がたくましい。
「大丈夫持つよ。うんっしょっははっまるで赤子を持ったみたいだ!」
結構ズッシリくる重さだ。両手は塞がったけど持ち歩けない重さではない。
「光ちゃん」
「んっ?」
気付いたら凛花ちゃんが俺の両肩を掴んでいた。こっこのシチェーションはまさかっ!
凛花ちゃんは瞳を閉じて小さな口を開いた。
「ま、待って凛花ちゃん!」
凛花ちゃんの顔が近づくが拒むことが出来ない。それはサボテンを持つ手が使えないからだ。
お爺ちゃんが大事に育てたサボテンを落とす訳にもいかないから、凛花ちゃんから逃げられない。
「だ、駄目だよ凛花ちゃん、そんなことしたら……」
俺が言っても凛花ちゃんは顔を近づける。俺は後ずさりして部室のドアに背中をぶつけた。
凛花ちゃんはパッと目を見開いて俺と目を合わせた。
「ズルイ……私にもして」
「そ、それはどう言う意味かな?」
「本気で言ってるの?」
「だから、なにが?」
「もう、鈍感」
凛花ちゃんはムッとした。
いや、分かってますよしたいんでしょ?
だけど、面と向かって言えませんよ。
「光ちゃんの初めてが私じゃなくなったのが悔しい」
「あ…………ごめん」
「謝らなくていいんだよ。別に光ちゃんが悪いんじゃないから」
凛花ちゃんがなにを言いたいのか不満なのか良く分かった。原因は白王子か、要するに凛花ちゃんは先をこされて悔しいんだね。全く負けず嫌いなんだな。
「しょうがないなぁ一回だけだよ」
一回ってのを強調した。
俺は凛花ちゃんとはまだ友達の関係でいたいから……。
俺は目を閉じて口を開いた。
本当は凛花ちゃんのアゴを持ち上げてエスコートしたいけど、両手はサボテンで塞がってるから出来ません。
「…………」
凛花ちゃんは無言で唇を重ねた。
「はむっ」
「んっ……」
静まり返った部室で女の子同士の唇が繋がってしばらく離れることはなかった。




