飾り付けの手伝い
竜神学園に戻って校舎裏にある洋館に向かった。洋館はパーティー会場でもあり、クイーン様の住居でもある。
パーティーを行うのは一階の食堂だ。二階にもあったけど、アニメでしか見たことない長テーブルの上にグラスやお皿が置かれていた。
「おおっ光輝氏っ私をクリスマスパーティーに呼んでくれて感謝感激です!」
会場の飾り付けの手伝いをしていた盆栽部の桃野部長が言った。相変わらず騒がしいけど場が楽しくなるからいいね。
「部長を誘うのは当たり前じゃないですか?」
「そうかっありがたいねー今日は楽しくしよう!」
「はいっそうですね」
さて、俺も手伝いしないといけないかな?
「ちょっと光輝っボサっと突っ立ってないで手伝いなさいよ」
あちゃあ、今手伝おうと仕事探していたのに棘無先輩に絡まれちゃったよ。棘無先輩は女の子に憧れるオカマちゃんで、性転換して美少女になった俺に嫉妬してくる困った先輩だ。
「アレ、先輩も呼ばれたんですか?」
ちょっとからかって見ることにした。
「………… ちょっとアナタなんてこと言うの? アタシは先輩よぉ皆んな呼ばれているのに、一人だけ呼ばれないなんてあり得ないわ!」
「ははっ冗談ですよ棘無先輩」
「ムカつくわねっ! それよりアンタ女になった心境はどうなの?」
「どうなのって別にいつもと変わりませんが?」
「あり得ない! 女体になったらどんなに足掻いてもいずれは心まで女になると断言出来る。そう、時間の問題よ」
ぐっ……痛いところ突きますねぇ分かってますよ、なんかのキッカケで女言葉使うようになって、心まで女に侵食される不安がね。
「予言してやるわよっ光輝は半年以内に女言葉使うようになるわよっ!」
「ぐっ …………」
棘無先輩は不吉な予言を言い放つて立ち去って行った。あながちあり得ないから俺は笑えなかった。
言われたら一生呪われる言霊ってあるからなぁ、後で棘無先輩に直接否定しないとだめだね。
「あっ光輝君コレ運んでくれる?」
ダンボールを抱えて俺に命令したのはウチのクラスの学級委員長の柊 智恵子さんだ。
「委員長こないだ助けてくれてありがとう」
「あ、うんっそれよりコレ持って出来れば飾り付けして!」
「分かった …………」
委員長はダンボールを俺に渡して、荷物を取りに行くと言って食堂を出て行った。相変わらず忙しい委員長だ。
「光輝君 …………」
「んっ! ひやんっ!?」
凛花ちゃんが背中をツンツンした。ビックリしたよもう。
「あっごめん凛花ちゃん忘れてた」
「もうっ」
凛花ちゃんは珍しくほっぺを膨らませてムッとした。んーなんだか感情表現出すようになったね。
やっぱり俺と話すようになってからだよね?
「じゃっ一緒に飾り付けの手伝いしましょう凛花ちゃん」
「うん」
なにか仕事ないかなぁと思って周りを見ると杉の木があって、まだ飾り付けはしてないみたいだ。
とりあえず飾り付けするか? 星とかサンタの人形どこに配置するか考えるのも結構楽しいからね。
「やってるね君達」
「あっ副部長」
盆栽部の副部長が一人で声をかけた。副部長の正体は青王子だった。しかも滅茶苦茶強くてかなりエグかった。
目の当たりにした凛花ちゃんは俺の背中に隠れた。
「はは、仕方ないか――ゴメンね凛花さん驚かして、でもねぇ全力で戦わないと君達危なかったからね」
「……助けてくれたのに怯えてゴメンなさい」
「あっ良いよ気にしてないから」
「はい」
凛花ちゃんは俺の脇から顔を出して笑顔で返事した。すると副部長は手を振って微笑んで眼鏡を輝かせてから俺を見つめた。ちょっと待て、急にシリアス顔になると怖いんですけど。
「光輝君。一月に生徒会選挙が始まるのは分かっているね?」
「はい それがなにか?」
「ふうっ想像力が低いね君は」
副部長は額に指を突いてため息まじりで呟いた。なんだよ幻滅することか?
「一年で立候補する新咲 麗奈に敵はいない。つまり、次期生徒会長は新咲で決まるだろう。君は何故新咲さんが生徒会を目指すのか分かるか?」
「また質問か? それって新咲のことだ、人の上に立ちたいんだろ?」
「まあ、大体合ってるね。新咲さんは生徒会長になって権力者になりたいんだ」
「ちょっと待って権力ってクイーンが上にいるのに生徒会長の権力って有効なのか?」
生徒会長とクイーンの権力の違いってなんだ? クイーンは学園内ならなんでも許される滅茶苦茶なルールがあるけど、よく分からないなぁそんなトンデモルールが許されているのは都内の四つの高校だけなんだ。
朱雀高校、白虎高校、玄武高校と俺が通う竜神高校 ( 正式名称は青龍高校だ ) で偶然の一致か、四つの高校の名前は東西南北を守る四神と言う神獣の名がついて東西南北に建てられているのがなにか守っていると噂されている。
その四つの高校に各一人クイーンがいるのも偶然だとは思えない。とにかく日本を守護する高校だからクイーンの権限とかトンデモルールが許されているのかも知れない。
知らないよっ俺はっあくまでも臆測に過ぎない。
「確かに生徒会長はクイーン様みたいになんでも許されないけど、校則を変更する権限は生徒会長にあってクイーンがなにも言わなければ無茶な校則も通ってしまう」
「……それじゃ独裁だよ」
「多分クイーン様は君に危害を与える校則変更でなければ、見て見ぬ振りするかもね?」
マジか、あの性悪女が生徒会長に当選して一体どんな嫌がらせしてくるのか想像出来なかった。てか、今夜は楽しいクリスマスパーティーだ。想像したくなかった。
「どうするんだっ青王子っ?」
「シッ」
部長と棘無先輩と学級委員長の三人には正体を隠しているらしくて、人差し指を口元に付けた。
「あっごめん副部長」
「生徒会長に当選した新咲さんを止められるのはクイーンしかいない。だから分かるね?」
「 …………分かっているけど俺はクイーンになるつもりはないよ」
クイーンになるために、いわゆる美人コンテストで優勝する必要があるんだ。だけど水着審査は当然あるだろぅ? やだよ恥ずかしい。
「そうか、僕も君がクイーンを目指す事態にならないことを願っているよ」
ちょっと意味深な言葉を残して副部長は立ち去ってしまった。なんだよ、不安になるじゃんかよぉ? 新咲が生徒会長になったら嫌がらせしてくるのは予想出来る。
だけど、俺は男を捨ててまでクイーンになるつもりはないよ。