部活動
「悪いけど、俺はクイーンには興味ありませんから、申し出を辞退するよ」
現クイーンの申し出に俺は丁重に断った。
確かにほっとけば来期のクイーンは新咲に決まって恐怖政治が始まるかも知れない。
だけど、俺は冷たいけどそこまで学園を救う気もないし、英雄になるつもりもない。
「なら、良いです。ですが、気が変わったらいつでもいらっしゃい」
断られたのにクイーン様は優しく微笑んだ。器が広いと言うか余裕があるね。
「では、そろそろ帰っていいですか?」
「ええ、いいですよ。あっちょっと待ちなさい。コレを肌身離さずお持ちになって」
クイーン様は立ち去る俺を呼び止め、マッチ箱サイズの赤いボタンが付いたスイッチを渡した。
んっまさか自爆スイッチ? まさかねぇ ……。
「コレはなにかあった時の4王子の呼び出しボタンですわ」
「んっ4王子?」
「あ、え――、コレは外でなにかあった時用の呼び出しボタンでして、訳あってながら白王子だけは学園の外に出ることが出来ないのです」
「えっ白王子が?」
それを聞いて俺が白王子の顔を向けると、彼はプイと気まずそうに横を向いた。
「ちょっと白王子?」
「………… ソーリー用事を思い出した。失礼します」
と、白王子はクイーンに頭を下げると、スタスタと応接間から出て行った。
………… ますます怪しい。
今度会った時は絶対化けの皮暴いてやるよ!
俺はそう心に違って呼び出しスイッチをブレザーの右ポケットに入れた。
こうして俺は解放されて洋館を後にしたのだけど、まだ時間があったので盆栽部に向かった。
一階にある部室に入ると部員が全員揃っていた。
「待ってたよ光輝君、しかし、見ない間にずいぶんと変わったね?」
「 ………… 」
笑えない冗談を言ってその場を凍りつかせたのは、盆栽部の副部長を務める青山 海斗二年生の男子。
顔は整っているけど、ボサボサ髪に野暮ったい黒ぶち眼鏡が足を引っ張っているかんじだ。
ちなみに副部長は紅葉の栽培が得意だ。
「どわっはっは――――ちょっと海斗のダンナァその冗談きついでしょう? まあ、光輝もその毛があったかも知れんけど ………… あ、それ言っちゃ不味かったかな?」
「………… 別になんと思っても構わないですよ部長」
「そうか。なら今日から光輝ちゃんと呼んでも良いか?」
「………… どうぞ、ご自由に …………」
ちょっと無神経で暑苦し部長の名は桃野 和也三年男子だ。彼は残念ながら美形ではなく、程遠い痩せ型の顔だ。
だけど話は面白いし明るいし頼れる部長だ。彼の得意とする盆栽は松。定番だけど、難しく奥が深い。
「羨ましいわね …………」
盆栽部二年の棘無 司が言った。口調の通り女の子に憧れるぱっつん前髪のオカマちゃんだ。
ただ、残念なことにそんなに綺麗な顔じゃない。だから、美少女になった俺を恨めしげに見て言ったんだ。
「針無先輩っ別に好きで女体化した訳じゃ ……」
「だったらアタシに頂戴よっ!」
ははっそりゃ無理ですって。それにしても棘無先輩は俺に対して嫉妬心むき出しだな。
ああ、針無先輩の得意分野は薔薇の盆栽だ。名前の通り性格にとげがなければ良いんですけどねぇ。
「遅かったな光輝君、あっ光輝ちゃん!」
部長がガハハと笑って俺の肩をたたい。ウッザ!
「丁度良かった。新入部員を紹介するよ」
部長は小柄でかしこまる少女を紹介した。
「あっ知ってます部長」
「ぐわ――っなんだってえ!?」
部長はのけ反ってから、額に手を押さえて叫んだ。
「………… 」
オタク特有の内輪にだけに見せるオーバーリアクションだ。かなりウザいし、見ているだけで疲れる。
まあ、このノリは場が明るくなるから嫌いじゃないよ。
「この子は俺のクラスメイトで朝部室であって話ました」
少女はコクリとうなずいた。彼女の名は村越 凛花だ。黒髪ボブカットに眼鏡をかけた、口数少ない美少女だ。
彼女が得意な植物はなにかな? 後で聞いてみよう。
「改めて紹介するよ凛花ちゃん。彼はいや、彼女かな? どわはははっ!」
「…………部長、いい加減怒りますよ …………」
「いやっ悪かった光輝君。彼はは我が部の期待の星。得意分野はサボテンだからよろしく頼むよ!」
「むう…………」
俺はジト目で部長を睨んだ。
「おっと水やらんとな …………」
気まずくなって誤魔化すためか部長はジョウロを手に取って、盆栽に水を上げようとしていた。
「部長っ冬の夕方に水やりはご法度です。後、サボテンは月一回他の植物は週一で良いです」
「あははっそうだったなぁすまんな娘よ」
「…………誰がアンタの娘だ …………」
「とりあえず凛花ちゃんの指導は光輝ちゃんに託した」
部長は苦し紛れに誤魔化して何故か、ズングリ太ったサボテンを俺に渡して言った。
「ちょっと部長っ後輩の俺に押し付けます?」
「んっ女の子同士良いんじゃないか? なんなら針無でも良いんだぞ?」
と言って部長はオカマ先輩の顔をチラ見した。針無先輩は刺すわよとばかりに小指を立てた。
…………あんな厄介な先輩に凛花ちゃんを任せておけないよ!
「分かりました。凛花ちゃんちょっとこっち来て」
「はい …………」
「サボテンの手入れだけど …………」
俺は早速、凛花ちゃんにサボテンについて指導した。
「サボテンを持つ時はこう、痛っ!?」
やっちまった。鉢を持つ時にサボテンに触れて人差し指に針が刺さった。
「痛つつ、参ったなぁ中々針が抜けないんだよね ……」
「 ……………… 大丈夫?」
凛花ちゃんが心配して俺の針が刺さった右手に触れる。ふふっ優しいんだね。
「あ、応急処置に絆創膏貼れば大丈夫だから凛花ちゃん」
俺は心配かけまいと手で制してからブレザーの右ポケットを探った。んっ色々と小物が入ってたんで、いったん全部机の上に出してから絆創膏を手に取った。
「ふうっとりあえず絆創膏貼っとけば良いか、んっ?」
貼ってから横を見ると凛花ちゃんが心配そうに見つめていた。
本当に物静かで優しい子なんだね。
今日の部活は凛花ちゃんの自己紹介で終わった。
ふと気づくと外は真っ暗だ、冬の昼は短い。俺と凛花ちゃんは一緒に帰る事になった。
「さっ方向が一緒だと良いんだけど?」
俺が言うと凛花ちゃんは明後日の方向に指を指した。あーなるほど。
「んっ駅前の方なの? なら、一緒だ帰ろ」
「…………うん」
言葉少なげに返事して小首を振った。かっわいいなぁ♡ 自分もか弱い少女だと忘れて思わず守りたくなった。
「なら、僕も一緒に行くよ」
以外にも副部長が申し出た。でも、副部長の家は、
「えっ副部長の家は駅とは反対だよね?」
「言わせないでくれよ光輝君。こんな夜道に女の子二人を帰宅させないよ」
「あっありがとうございます副部長!」
俺は副部長にお辞儀した。ちょっと頼りないけど助かるよ。
「良いよ別に、じゃっ部長っ後の戸締り頼みますね?」
「おうっ任せておきなさいっ海斗氏、いや、しかし、ダブルデートは羨ましいなぁ」
「違いますよ部長。では」
「あ、お、おうっ任せなさい!」
副部長は真顔で否定したので、部長はちょっと焦り気味で言葉を返した。うん? 副部長ってなに考えてるか、ますます分からなくなったよ。
◇ ◇ ◇
いつもの通学路を三人で歩いている。ただ今日に限って言えばいつもと雰囲気が違った。
夜道だからか? いや、違う。ただらならぬ視線をさっきから感じているんだ。
「副部長っ凛花ちゃんのために心配してくれてありがとうございます」
「 ………… 」
俺は副部長に声をかけると彼は無言でうなずいた。
アレ? どうしたのかな副部長?
「むしろ僕が心配しているのは君の方なのだが ……」
「えっ?」
副部長が意味深な言葉を発したけど、その真意を確かめようと表情を見たけど、眼鏡のレンズが街灯の光に反射して読み取れなかった。
キキッィィィ――――ィッ!
すると程なくして黒いバンが横に止まった。
バンバンッ!
ドアが開いて五人の黒い帽子とジャンバーを身につけていた男達が現れ、俺達を囲み腕を掴んだ!
「痛いっちょっと誰っ!?」
「大人しくしろっ!」
女子供の俺達は数人の大人に抵抗出来る訳がなく、バンに押し込められて拉致された。
まさか、こんなに早く俺が狙われるとは思いもしなかった。
犯人の目的はなんだ? レイプ目的か? それとも、新咲の差し金か?
いや、まだ新咲の指示とは思いたくない。だってあんな女でもウチの生徒だから信じたい。
隣では凛花ちゃんが震えている。ごめんなさい。俺のせいで巻き込んじまって …………。
「凛花ちゃん大丈夫だから」
「 ? 」
俺はそっと小声で言って右ポケットに手を入れた。ポケットにはクイーンから貰った4王子呼び出しスイッチが入っている。
「 …………ちょっとなんでっ!」
「んっ黙っていろ!」
俺がポケットをまさぐって声を出すと犯人の一人が言った。
やばい。入れたはずの呼び出しスイッチがない。あっそうか!
俺はサボテンの針が刺さった人差し指を見た。指の先には絆創膏が貼られていた。絆創膏は右ポケットに入っていた物で、絆創膏を取り出すために全部中身を机の上に置いて来ちゃったんだ。
その中に呼び出しスイッチが入っていた訳だ。
ああ、俺はなんて馬鹿やったんだ。せっかくクイーン様が心配してくれたのに、その行為が無駄になる。
しかも、凛花ちゃんと頼りない副部長まで巻き込んでしまった。
「くうっ …………本当にごめんなさい二人共」
「………… 」
「なんで君が謝るのさ?」
「だって副部長っ奴等の狙いはっ!」
キキッ!
バンがどこかで止まった。
「出ろ!」
チッ俺達は犯人に腕を掴まれ、どこかの廃工場の中に連れ込まれた。想像したくないけど、犯人達はここでナニするつもりか?
「殺す前に楽しもうじゃねぇか?」
犯人達は帽子を取って姿をさらし下卑た笑みを浮かべ、ペロリと舌舐めずりをした。
………… いけない。最悪の展開だ。コイツらレイプ犯。
「心配ないよ光輝君」
「えっ副部長?」
妙に落ち着いた副部長は珍しく左手をズボンのポケットに入れ、眼鏡のツルに手をかけて言った。