第8話 僕は神様に懐いてもらいたい
それは赤と白の記憶。
「白に気を付けて!」
目の前で殺される両親の記憶。
真っ白が突然真っ赤に染まるそんなイメージの悪夢。
見始めた当初は、どうしようもない無力感が僕を縛り付けていた。
あの時は何も出来なかった。
でも今は――
朝の静寂を僕の大きな声が壊す。
「うわあぁ!」
思わず飛び起きた。
数秒して気づくんだ。またあの夢かと……
わかっていても、やはり叫び声は出してしまうな。
カーテンの隙間から日差しが入ってきている。
漫画や雑誌が本棚から溢れ、本の山がいくつかできている僕の部屋。
「お父さんとお母さんが夢に出るのは嬉しいんだけどな」
あの夢を見ると手が震える。
怒りと悲しみからだろう。
でも、おかげで何度でも思い出すよ。
ぼやけてよくは見えない白い怪異。
あれを調伏しなくっちゃいけない。
もう二度と大切な人を失いたくないからな。絶対に。
大きく深呼吸した。
「神降ろしも出来るようになった。少しはあの人に近づけたかな。んっ?」
指先にくすぐったい耳のようなものが当たっていた。
「なんだ、これ?」
チッチの毛にしては少し違う気が。こっちの毛は思わず触れたくなる極上の毛。
す~す~と気持ちよさそうな寝息も聞こえます……
この時点で想像は出来たが、あり得ないだろうが僕の思考の大半を占める。
恐る恐る視線を向けると、長い銀髪のロリ狐っ子ほたるが隣で就寝していた。
「なっ!」
「お姉ちゃん……」
カプリと手首を甘噛みされる。
幸せそうな顔で寝る子だ。
けど、その顔には泣き疲れた跡が窺える。
それだけで、この子も胸が張り裂けてしまうような体験と悲しいことに見舞われてきたことは容易に想像ができた。
移動させた指先にまたもくすぐったく何かが当たる。
「今度はなに?」
尻尾か。どうもこのフリフリが気になっていたんだ。
再度、指が振れそうになったところで、はっと目を覚ましたほたる。
それは尻尾が敏感ポイントで、握られそうになると覚醒するような感じだった。
ビクンっと飛び起きたかと思ったら、彼女は僕に大嫌いとでもいいたそうな、きつい視線を向ける。
本棚がほたるの心に反応するかのように揺れた。
「……っう」
今にも噛みついてきそうな野生じみた視線を僕に向けたかと思ったら、枕を両手でつかみ僕に振り下ろした。
ばしっ、ばしっ、ばしんっ。
「ちょ、待って! 僕なにもしてないから! 誤解だ、誤解!」
聞く耳を持たず、さらに枕で叩かれた。
ほたるが僕に何度目かの攻撃をしようとしたとき、階段を駆け上がってくる足音が聞こえる。
「おはよう。起きなさい、颯太」
いつものように僕を起こしに来た幼馴染は、ほたるがいる光景にボー然としているように見えた。
「おはようございます、美優」
その顔があまりに怖かったので敬語になってしまった。
朝から眉間に皺を寄せるとはもったいない。
もしかして、小学生相手に嫉妬してくれているとかないよね?
「けだもの……」
ほたるは枕を胸に寄せながら、ぼそっと意味深なことを口走った。
「そぉおぉたぁーああ!」
「いや、僕、なんにもしてない。誤解だぁ」
あまりにも理不尽すぎです、神さま。
その神さまはチッチが寄っていくと優しくなではじめ、もはやこちらに興味を失っている。
この状況を常識的に考えるなら、ほたるは住む場所が変わった。
だから、寝ぼけて僕の部屋に来てしまったとか。
そんな理由だと思う。
幼女でクール、それから無口で無表情な狐っ子。何かの神様、ほたる。
幼馴染の自称お姉ちゃん。エリート調伏師の笹木美優。
そして、追放されたけどそのおかげで調伏師としての道を踏み出した、僕、牧颯太。
まずは僕の神様にもう少し懐いてもらいたい。




