表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第1章ー1 僕の神様は御神木に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/43

第7話 僕は神様と生活を始める

 少し坂を上った住宅街に僕の家はある。

 小学6年生の時にお父さんとお母さんは亡くなってから、僕はこの家に1人で住み続けていた。


 割と広い庭に今は使っていない小さな畑もあり、時々ご近所の人が庭の手入れなどを手伝いに来てくれる。

 お隣は美優の家だ。


 玄関に足を踏み入れたほたるは、左右を見回してあからさまに警戒心を強める。

 視覚と嗅覚を頼りに、ここは安全なのかと調査を始めているかのようだ。

 三毛猫のチッチが行儀よく玄関で出迎えていた。僕の飼い猫だ。

 ほたるは何者だこいつと言うような眼でチッチをじっと見つめた。


「それじゃあ、あたしはご飯食べて、その子の着られそうな服を探してくるから……」


 美優はほたるに視線を向け、


「まずはお風呂に入りなさい。綺麗にしてからご飯ね。あとで髪梳かしてあげるから」

「……」


 ほたるは否定も肯定もせず、僕たちから少し離れた距離にいる。

 美優は肩を竦め、僕に下着が入った袋を渡してお隣の自分の家へと帰っていく。



 僕が話しかけないとただただ無言の時間が流れそうだ。


「えっと、それじゃあお風呂沸かすから先に入って」

「……」


 聞こえていないかのように、ハンバーガーが入った僕の左手の袋に鼻を近づける。


「入ってる間に全部食べちゃうなんてことはしないよ」

「……」


「それとも食べてからがいい? ほたるの好きな食べ物なに?」

「……」


 プイっと視線を外される。

 好きな食べ物も教えてくれないとは悲しくなるな。

 意思疎通が上手く出来ない。

 なるべく不自由なく生活させてあげたいんだけど。

 緊張してるんだなとポジティブに、気を取り直して行こう。



 美優が頻繁に出入りしているため、清潔感のあるリビングとキッチン。

 僕はリビングにあるチッチが爪を研ぎまくっているソファでよくお昼寝をする。

 ランニングマシンとバランスボールが端っこにおいてあり、雨の日などは朝から使用することが多い。

 バランスボールの方は体幹を鍛えるために使っている。


 台所のテーブルに夕食を置いてから、線香には火を付けずに、仏壇に手を合わせる。

 心の中でほたるのことを2人に報告した。

 その日あった良いことだけ伝えることにしている。

 天国にいる2人に心配かけたくないからね。


「お風呂はこっちだよ」


 ほたるは距離を置いているが、ついてきてくれる。

 明日の天気をスマホにて確認。晴れか……

 画面を覗き込んでくるほたるがそこに居た。


「どうかした?」

「別に……」

「なんか必要な物とかあったら言ってね。僕に言いにくかったら美優にでも」

「……」


 喋ってくれるのかと思えばすぐ無言。


「えっと、部屋はあとで案内するから。お風呂のお湯入れておくから入って」

「……」


 僕を見上げているチッチに目で合図してここに居てくれと頼んだ。


「僕は栄養バランスのために、サラダでも作っておくから。ほたる、嫌いな野菜とかある?」

「……」


 尻尾が左右に揺れている。好き嫌いはないのかな?

 ドレッシングは自分で作ろうと思い、スマホで美味しそうなものを捜す。


「しょうゆベースのこれ美味しそうだな。んっ?」


じーっという視線を感じる。

 スマホが気になるのだろうか?

 一方通行の気がしているから、出来ればそちらからの言葉が欲しいんだけど。


 お風呂の扉は鍵かけられるからと伝え、その場を離れる。

 もっと色々世話を焼きたいしお喋りしたいけど――

 僕1人っ子だしどう接していいのかちょっと迷ってしまうな。





 ドレッシング作りは上手くいったようだ。

 やってきた美優に味見してもらったら、美味しい評価をいただいた。


 お風呂から上がり、ふてくされたような顔で台所へとやってきたほたるはさきほどとは見違えていた。

 血行が良くなったためか顔色もよく、頬も赤みがさし、長い銀髪も艶が蘇ったように輝いている。

 少し汚れていた左耳と尻尾も生え変わったように綺麗になっていた。


「あら、颯太の昔のTシャツ似合ってるじゃない。ほら、梳かしてあげるからこっちにいらっしゃい」

「……」


 威嚇して、美優が持っていたブラシとドライヤーをひったくり、手は借りないというように自分で整え始める。


「可愛くない子」


 慣れてくれるまではしょうがないだろうな。


 恐る恐るドライヤーを扱い、風量調節のボタンなど興味本位なのか押したり戻したり、温かい風が出たり、冷たい風が当たるのを不思議がったり、少し楽しんでいたように感じる。

 整えられた銀髪ストレートのほたるは、ほんとにお人形さんのようだった。


 いつからあそこにいたのかはわからないけど、ドライヤーがどういう物か忘れていたのか、知らなかったのか?

 見た目の年齢が実際の年齢と思ったら大間違いかもしれないな。ほたるは神様だし。



 少し沈黙して椅子に触れ、隅に移動させてそこに腰を下ろす。

 そこまで警戒されているのか、または嫌われている――


 僕が用意しておいたほたる用の小さなサラダをこっちによこして、特大サイズの方を当たり前のように目の前に持って行った。


「そんなに食べられるの?」

「……」


 早く毒味して見せろ、もう食べる準備は出来ていると訴えられているようだな。

 サラダとハンバーガーに齧り付いた僕の姿を見て、まずは匂いを嗅いでほたるは食事を始めた。

 ピーンと左耳が立つ。それは美味しいという表現なのだろう。


 用意した新しいお箸を使えるか心配したが、上手に扱えるのにビックリした。


 食欲はあるな。ここまで見る限り、病気にかかっている感じはしない。

 そもそもあそこにいて何を食べていたんだろうか?





 夕食後はソファでテレビを見ながら、レンジなどの電化製品の使い方を何回も忘れないように教えてあげた。

 特にガスは気を付けるように何度も繰り返して。

 心配の方が勝りついつい説明じみてしまった。




 2階の部屋の1つを自由に使っていいと話、ベッドと本棚しかないそこに案内する。

 ベッドには猫のぬいぐるみが何体か置かれ、本棚には漫画が収納されていて、ほたるはそのどちらにも少なからず興味を持ったようだ。

 尻尾が揺れていたから、そういうことだと思う。


「ベッドで寝るのが嫌だったら下に布団ひけるからね。なんかほしい物があったら遠慮なく」

「それ、どうやって使うの?」


 ほたるは僕が手にしていたスマホを指さす。


「スマホ。興味あるの?」

「あるの」


 ほたるは唇を噛み、少し悔しそうな顔になる。


「使い方を教えてほしいの」


 仲良くなりたいけど、どうしたらいいかと悩んでいた僕にはまさに助け船だった。

 興味を持ってくれて、話しかけてくれたことが嬉しかった。




 この後、僕はほたるにスマホの使い方を約3時間にわたって説明した。

 食事中と歩いているときはスマホの使用は禁止だよとやんわりと伝える。

 その後、パソコンの使い方も約1時間。


「スマホはこれ自由に使っていいから」


 僕が予備に使っていた物を手渡す。


「パソコンは僕の部屋と下にあるから、それも自由に。わからないことがあれば……」

「これで調べて、理解できなかったらあなたに訊くの」


 なぜかこの数時間だけほたるは僕に質問を浴びせてきた。



 少し機嫌は良くなったようだ。

 ほたると一緒の生活――

 何とかやっていけるかな?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ