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力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第2章ー3 僕の幼馴染は答えを見つける

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第13話 僕の幼馴染は素直になる

 戦闘中なのに頭が何かに飲み込まれたように集中できない。

 颯太は言った。

 あたしを守ってくれると。



 違う! 颯太を守るのはお姉ちゃんのあたしの役目。

 あたしは颯太より強い。調伏師としては颯太より上。

 なのにあたしは――

 なんでそれを嬉しいと思うの?



「あーあ。水泳の記録抜かれた」

「裁縫、上手くなってた。あれ、相当練習したな」

「調伏師か……今度ばっかりは絶対に抜かれたりしないわよ。うーん、何か毎回それを思い出すようにして気持ち入れたいな」


 弟。颯太のことそう思うことにしよう。決して追い越せないお姉ちゃんというあたしは壁。



 そうだ。小さい頃のあたしはそんなこと考えてたんだ。

 あたしは颯太を誰よりも認めてたけど、同時に少し見下してた……

 だから弟って。



 調伏師の見習いになって、前提条件である神降ろしが出来なかった颯太。

 周りはそれを面白がったり、馬鹿にしたりした。

 そのことにどうしようもなく腹が立ったのは事実だ。


 あんたたちに颯太の何がわかる。

 毎日毎日、変わらず努力して、でも出来なくて――

 それでも諦めない――


 もし同じ立場で、それを出来る?


 あたしには出来ない!

 出来ないよ!


 どうして諦めないの? もう無理なんだから、諦めてしまえばいいのに。


 それを何度も口にしようととして言葉を飲み込んだ。

 勘のいい颯太はそれに気が付くと、前以上に努力する。


 颯太は努力できる天才なんだ。

 あたしじゃ絶対に勝てない。でも、あたしはそれを認めたくない。



 だって…………

 


 負けたくないんだもん!


 颯太が凄くても、抜かれてしまうかもしれないけど、傍に居たいんだもん。


 調伏師は危険な職業だ。

 常に危険と隣り合わせ。命の危険もあるし、現に颯太のご両親は――


 颯太は強くなる。でもそれに比例して危険と立ち向かう。

 誰が颯太を守るの?




「僕、調伏師になるよ」




 おじさんとおばさんのお葬式の日。

 思いつめたように河川敷でそれを聞いた。


 あの時、あたしは何て言葉をかけたんだっけ?

 たしか……


「だったらあたしもなるわ、調伏師に」

「危ないよ……」

「心配してくれるなら、強くなってあたしを守ってよ」


 そうだ。あたしが守ってって言ったんだ。



 誰かがあたしの手首を掴んだ。

 その瞬間に思考がいったん停止する。


「ほたる……」

「あなた、なぜここに居るの?」


 いつの間にか2体に別れていた片方の攻撃をほたるが桜火の盾で防ぐ。


「なんのつもりよ?」

「そうたの言いつけだから守っているだけ。何を迷ってるの? もっとあなたは世話焼きで、いつでも全力で立ち向かう人だと思ってた」

「……あたしは全力よ。颯太の神様だからってあたしにまで偉そうにしないでよ!」


 子狐のくせして。

 颯太とべたべたして。

 心まで通じ合ってるみたいな顔して――


 あれ?


 これじゃあただの……


 あれっ?


「……」


 戦いに集中しなければいけないにもかかわらず、あたしの視線はほたるへと向く。


 彼女は見つめられ、意味が分からないと眉間に皺を寄せた。


 傍で戦っている颯太にも視線を向ける。

 気づかなかったけど、いつも通り一生懸命なのはわかった。

 劣勢でなく五分の戦いをしているのも。


 見た目幼く見えて可愛いほたる。颯太とだけ楽しそう。

 あたしはそれを見て気に入らない……


 なんで?

 なんでっ!?


 ……

 …………

 ………………


 自然と口元が緩む。


「あはは……そうか、そうだったんだ。あたし」


 力が湧いてくるのを実感していた。



 敵の片割れは周りの土を全身へと吸収し、琥珀色へと変化を始める。

 明らかにパワーアップを果たしたようだ。

 土を硬化し、大岩のように変化させあたしたちに放ってくる。



「桜火の二花!」


 

 ほたるの炎の盾が敵とあたしたちの中間で攻撃を止めた。

 バチバチと押し合う音が辺りに轟く。


 だが、炎の盾は徐々に砕かれ、押し負けてくる。


「っ! 仕方ないの。少しあれを」


 さらなる力を隠しているのか……でもそれは必要ない。

 ほたるの肩をポンと叩いて、


 あたしは炎に雷を流し込み、盾を強化する。

 今度は盾の方が敵の方へ向かって行き、途中で大岩のようなものを粉砕し、辺りに飛び散った。


「あなた……」

「属性の融合。このくらいは当然。あたし強いのよ」

「そう……」


 ほたるは何か気に入らないという顔で睨むようにあたしを見てくる。


「なによ?」


「……あなたの気持ちはわかるの。身近にとんでもなく才能を持った人がいると、どうしても自分と比べ劣っていることを自覚してしまう。吸収力が凄くてその場でなくて、あとでそれが一気に噴き出し追い抜かれてしまう。応援してるはずなのに、でもそこに嫉妬心が生まれてしまう。それは正常なことなの。わたしもそうだったの。おそらくそうたもそう」


「一緒にしないでほしいわね。そりゃあ颯太は凄いけど、あたしにだって凄いところくらいあるでしょ」

「自信戻ったの。なら、見せてほしいの。そこに気づけたなら、その答えを」


 もう、なによ!

 それは煽ってくれてるんでしょ! 不甲斐ないこのあたしを!

 優しいじゃない。

 ほんとにいい子じゃない。



「よぉく見てなさい!」



 何を迷ってるの? ほたるはそう言った。

 先輩に至っては、自分の気持ちに素直になりな……だって。


 たしかに色んなことに迷っていた。

 颯太の隣にはほたるがいる。

 それが一番いいのかもしれない。

 だって、だからこそ神降ろしが出来るようになったんだし。



 でも、全然それじゃあよくないから!



 あたし素直じゃなかった。


「あたしは颯太の傍に、隣に居たい。その為に強さが必要なら、手に入れればいいだけのこと。方法なんてそこらへんにいくらでも転がっている。何を迷ってたんだ、あたしは!」


 この感情は異性ってことを意識している。

 弟と思うようにしているから、心配なんじゃない。

 あいつが他の女の子と仲良くしているのが気に入らないのは――



 好き……

 あっー、はいはい。もう大好きなの、

 颯太のことがいつの間にか大好きになってたんだ、あたし。



 そのことだけは誰にも負けない。ほたるにもだ。

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