第4話 僕の根底にある誓い
僕のすぐ後ろには女の子が。痛みがないことを不思議に思ったように目を開けた。
僕を見て表情が変化している。
両腕を抱きかかえるようにして震えていた。
「お姉ちゃん!」
それは彼女が初めて出した大きな声。
どうやらお姉ちゃんがいるようだ。
僕が庇ったことに対して、そんなことはあり得ないとでも言うように――
貴方はそんな人じゃないと否定的な感情も混じって出た言葉かもしれないが、僕にはその言葉にいろんなものが詰め込まれている気がしてならない。
よかった。あと一歩でも遅かったら……
「なんで?」
人が心底嫌いらしい。
僕を見る目が嫌悪感に満ちているのもそのためだろう。
「ごめん、僕のせいで。しなくてもいい怖い想いさせちゃったね」
怪異が前足の爪という刃を、僕から引き抜くと地面を鮮血に染めた。
気を抜くと倒れてしまいそうだ。意識を強くもつんだ。
僕が倒れてしまったら、この子はどうなる?
また血を流したせいで仲間を呼んでしまったか。
3……4……5体とは大量に湧いて出たな。
囲まれる――
怪異に自分が見えてしまっている。
安全だったはずの結界は壊れてしまった。
でも、この子はまるでそれを望んでいたかのように、逃げもせず受け入れたような姿勢で……
今、どんな心境かはわからないけど、幼女は体を震わせていた。
この子、なんて悲しい目をしているんだ。
あの頃の僕と同じような……
昔、無謀にも生身で怪異に立ち向かったことがある。
あの時は本当に死んでも良いと思っていて――
そしてすぐさま後悔した。
そんな愚かなボクを救ってくれた人がいた。
その人が言ったんだ。
『この先、助けを求めている子がいたなら、君は手を差し伸べる。誰かを救える人に君ならなれるよ』
目を閉じるとあの笑顔が浮かぶ。
誰かを救える人に!
『また会うことがあったら、今度は君の幸せそうな顔を見せてね』
生きていれば、頑張っていればいいことがあるよ。
あれこれ考えるのは精いっぱいやってからにしようよ。
そんなことも言われた気がする。
あの指切りは、その約束は僕の中に今でも強く、強く残っている。
ふらつきながらも女の子の正面に立ち、怪異の攻撃に備える。
「あなたは……」
あの人みたいになりたい。
その想いがあるから、諦めないでここに居られる。
この子はあの時の僕を見ているみたいだ。
その瞳は助けを求めているような気がしてならない。
それに応えずに、さっきみたいに逃げたら、僕はなりたい自分になれない。
助けてあげたい、この子を。
あの時、僕を救ってくれたあの人みたいに!
「あっ!」
そうか、僕は悲しい目をした子を――
同じような境遇の子を助けたくて――
ヒーローになりたかったんだ!
「僕は君の英雄になる」
そのセリフは自然と口から出ていた。
「……」
女の子は即答するかのような首振り。
無理だと確信しているような、自信を持っているような気さえする。
「生憎と誓ったんだ――あの時の僕と、あの人に……ッ!」
だからチームを追放されても、僕は1人でもこうして対峙していられる。
笑ってしまいそうな強い言葉も吐けるんだ。
「あなたを動かす根底にある誓い、もしかして……」
幼女はハッとして表情を作った。
「今の悲しそうな顔じゃなく、君の幸せそうな顔を見てみたいしね」
僕はあの人見たいな安心するような笑顔を作ったつもりだ。
「……」
女の子は、無表情になり二頭犬怪異を指さす。
なら、まずはあれを何とかして見せろ。とでも言いたいのか。
僕は頷いて、敵に目を定めた。
傷は負っているが、なんだか不思議と力が湧いてきている。
この力の正体はわからないけど、今の僕なら何とかなるんじゃないかとさえ思ってしまう。
視界に映っていた花びらの炎が消え、ただの桜吹雪になっている。
その代わりに、握りしめた僕の拳が桜色の炎に包まれていた。




