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力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第2章ー3 僕の幼馴染は答えを見つける

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第12話 僕と神様は幼馴染のお膳立てをする

 数日後の夕方

 太陽が沈みかけたころ、僕たちは怪異の出現予測地点の工場跡地にやってきていた。



 微風が吹き、細かな砂が舞う。

 使われなくなった工場。鉄筋はさび付き、屋根は抜け落ちているところも見受けられる。


「あそこならどんなに壊してもいいから。倒すことだけに集中できるよ」


 ここに来る前に協会に顔を出した。

 その時に日和さんはそんなことを言っていたっけ。



 軽く準備運動しながらその時を待つ。


 美優は随分と緊張している様子だった。

 先ほどから気合を入れるように拳を打ち付けたり、顔を軽く叩いたりして落ち着きがない。


 あの硬い怪異を一度逃がしてしまっているからな。

 特別編成されたチームでのことはわからないけど、元チームで怪異を取り逃がしたことはない。

 その辺もプレッシャーになっているのかもしれない。


「……追放を恐れてるの……」


 僕の心の声に反応したかのようにほたるが呟いた。


 ほたるがその様子を見て近づいていく。

 結局、数日で二人が打ち解けることはなかった。

 関係が悪化している可能性も十分にあり得る。


「体が硬すぎる。それじゃあ神様は力を貸してくれないの」

「うるさい」


 美優の背中に助言をするほたる。それを拒絶する美優。

 その態度を見ても怒らないとは……

 なんだかんだ言っても、僕の神様は優しい。



 こっちも余裕があるわけじゃない。神降ろしをやっとできたルーキーなんだ。

 もっともっと強くなってあの人に追いついて、両親の仇を調伏しなくちゃいけない。


「颯太がアタッカー。ほたるとあたしはバックアップ。いいわね?」


 素っ気なく美優は伝えてくるが――


「美優、アタッカーやらないの?」

「わかってるでしょ。あたしじゃあの硬さは貫通出来ない」

「それでも……」


 ギロリっ!


 食い下がろうとする僕に本気の睨みが飛んでくる。


 こわっ!


「その策ではだめなの」


 僕の袖を引き、説明してくれというような目を神様は向けた。


「この前みたいに2体に分離するっていいたいんだろ?」

「そうなの。あれは相手によって戦闘スタイルを変化させるタイプだとおもう」

「颯太とだけはよくお喋りするようになったわね」


 それを聞き、ほたるは大げさに目を見開き、

「もしかして喋ってほしいの?」

「どうせ文句だけでしょ。喋ってくれないでしょ」


 美優はほたるの挑発行為とも取れる言葉をシャットアウトし気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いた。


 僕が美優に一言伝えようとしたとき、小さな砂嵐と共に怪異が出現した。

 二階建てくらいの大きさは変わらないけど、横幅が少し大きくなっている気がするな。

 ほたるの力を神降ろしして身構える。


「颯太、逃げるって選択肢は?」

「えっ?」

「調伏師はあたしたちだけじゃないわ。この怪異に相性のいい調伏師で討伐隊を組んでもらえば……」

「ダメだよ。その選択はない。この怪異はこの場で倒さないと、次は住宅街に出る可能性が高い。この場で必ず調伏する」

「わかってるわよ。言ってみただけだし」


 美優も神降ろしをしたようで全身が雷で覆われる。


「余計なおせっかいだけどさ、怖がらなくても、不安にならなくても大丈夫だよ。今まで守ってもらっていた分、いざとなったら、美優も僕が絶対に守るからさ」

「颯太があたしを守る……」


 思ってもみなかったという表情で、美優は怪異の前だというのに僕を見つめてくる。


 間近に迫った攻撃は僕が避けて空を切らせる。

 普通の攻撃ではらちが明かないと思ったのだろう。

 僕の周りを砂が覆い始める。


「その攻撃も一度見た」


 桜火を全身で覆い、覆われた砂を吹き飛ばした。

 その瞬間にほたるが炎を落下させる。


「桜花の3花【落火】」


 僕は距離を詰め、左手に桜火を目いっぱいに集める。


「桜火の一振り」


 至近距離から今できる目いっぱいの攻撃。どこまでも吹き飛ばすつもりで拳を撃った。


 息を整え間近に大の字に倒れこんでいる怪異を眺める。

 調伏出来ていない。2体じゃない今がチャンスかと思ったけど……


 この状態での最大火力でも調伏出来ないのか。


「やっぱり硬すぎる。たしかに討伐ランク上げ過ぎかも」


 緑の目が暗い色から明るくなっていき、同時にその姿が分離を始める。


 どうする、どうすればいい?

 この怪異は絶対ここで討伐しなきゃならない。

 そしてもう一つ僕は信じてることが、やっておきたいことが――


 やっぱりこれっきゃない!


 美優は戦闘に集中していないのか、何かぶつぶつ呪文を唱えているような気がする。

 ほたるは僕の視線を受け、呆れたようにため息をついた。


「1人で1体をやれるの?」

「やれる。いざとなったらあれをやるし」

「わたしは颯太の神様。なんであの人を助けないといけないのか教えてなの?」

「チームだから、美優だからだよ。それに助けたいと思ってるだろ」

「……」


 認めるのが恥ずかしいのか、ぶすっとした顔で俯く。


「それでこそ僕の自慢の神様」

「何も言ってないの。嫌だと拒否したいけど、わたしは颯太を信じてるの。だから言うことには従う」

「ありがとう。最後のもう一押しを頼むよ。そして身の危険を感じたら、どうしてもだめだと思ったら、もう一体も僕がやるから。ほたるは僕が死んでも守る」

「そうはさせないの。そうたは死なせない」


 僕とほたるは頷くと、桜火の炎を2体に落下させた。

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