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力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第2章-2 僕の幼馴染は本気を出してない

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第5話 僕の幼馴染をもっと知るために

 怪異の研究室。

 僕たちは午前中から呼び出しを受け、朝食後すぐに支度をしてやってきた。


 ほたるは出された珈琲ゼリーをご苦労というふうに、日和さんの助手に小さく頷く。

 完璧に餌付けされているような――


 日和さんの表情はいつになく、真面目で怖いくらいだった。

 眉間に皺が寄っているのを始めて目にしている。

 僕の位置から見えるパソコンの画面はアニメのスクリーンセイバーから猫の画像になっていた。


「こんな朝早くから呼び出さなくてもいいでしょ」

「日和さん、ごめんなさい」

「……」


「はあ~」

 日和さんは足を組み、肩ひじをソファについた。


「謝罪するのは颯太君だけ。美優ちゃんは文句、ほたるちゃんは無言」

「な、なによ。反省はしてるわよ」

「どんなふうに?」

「それはその……もっと瞬時に判断して二人に指示するべきだったわ」


 じっと睨むような眼で美優を見る日和さん。


「たしかにあの怪異のレベルは高かったかもしれない。でも、私は3人なら調伏出来ると思ったから任務レベルを上げたんだけどな」


 美優はそれを聞いて、僕とほたるに視線を向けバツの悪そうな顔をする。




「そのことあんまり言えないんだけどね……こっちも逃走された」



 何の話かと思ったんだけど――

 怪異症候群を発症し、隔離していた元チームリーダー。

 潜伏期間も過ぎ連日聴取を行っていたらしい。


 夜はこのホテルの地下にある、中からは解錠できない部屋。

 昨夜だけ我慢すれば監視付ではあるが、日常生活に戻れたのに、御堂進は中から錠を壊し、見張りを倒して逃走したということ。


「なぜ御堂進が逃走したのかはわからない。ただ……対面したとき嫌な雰囲気はあった。颯太君ごめん、ほんとにごめんなさい。名のある調伏師を付けておくべきだった」

「えっ、なんで僕に謝るの?」

「あんたが狙われる可能性が高いからでしょうが。逆恨みされてるだろうし」


 そうなるのか――

 チラリと僕の神様を見る。

 ああ、あいつか――

 やはりあれは倒しておいた方がよかったの。

 まあでも、あの事がなければそうたを信じていなかったかもしれないからまあいいか。


 そんな声が聴こえてくる。


 目の前に現れたら返り討ちにしてやるの。

 なんとも頼もしい。


「捜索してるのよね? それでも見つからないの?」

「ええ……すでに3人を病院送りにしてる。一人は重傷よ」


「えっ!」

 僕と美優は思わず顔を見合わせた。


 選りすぐられた調伏師の追跡者に傷を負わせ、逃げおおせ続けることが出来るだろうか?


「協力者は?」

「今のところいないみたい」

「それ、最重要でどうにかしなきゃいけないように思えるんだけど」

「わかってる。こっちで早急に対応してる。何とかするから……」


 腕組みをし、情報を頭の中で整理すると――


 元リーダーが監視していたのに逃げた。

 それも追跡した調伏師を倒して。


「ねえ、あの人開示してない強い神様と契約してたの?」


 美優の質問はもっともだ。

 いくらリーダーとはいえ、病院送りにできるとは思えない。

 確かリーダーの段位は美優よりも下だったはずだし。


 そんな僕たちの考えをお見通しとでも言うように……


「理性を失い、欲望に支配されたと仮定するなら、契約した神様も主の意思に引っ張られるように乱したと考えられる。神霊なら尚更。善の神が悪に染まったら、力は増加するの」


 小さな声でほたるは呟くように僕にだけ説明をしてくれているみたいだ。


「そんな事例今までない。ほたるちゃん、怪異症候群のこととそれは関係があるの?」

「……」


 そうた以外とは口を聞きたくない。

 そんな拒絶の表情が見え隠れしている。

 日和さんが視線をそらさないことにうんざりしたのだろう。

 助けてくれというように僕のシャツの袖を引く。


「話したらここにある資料をいつでも閲覧していいかほたるは聞いてます」

「私か彼女が居るときなら、いつでもどうぞ」


 上手い交渉をするの。

 ほたるの声が心に届く。


「あなたたちがいう怪異症候群とは、欲望を刺激され感情制御ができにくくなることと認識しているの。それと神の感情変化はもちろん関係がある。人間は信じるに値しない。平気で裏切る。一人以外は……情をかけずにそのことを認識しておいた方がいいの」

「見抜けなかった周りの大人の責任を感じてる」

「本人の問題。責任を感じることはない。ここにいる私とそうたが何とかする」


 ほたるは気に入ったのか、僕の前に置かれていたプリンに手を伸ばす。


「いいぞ、食べて」

「……」

 無言で手を合わせ、蓋をぱかっと開け中身を食べ始める神様。


「2人に甘えるわけには行かないから、こちらでも手を打つ……で、話を戻すけど。3人が逃がしてしまった怪異をどうするか?」


 ここで引いて尻ぬぐいをしてもらうのはいやだな。


「もちろんあたしたちで調伏する」


 幼馴染は間を開けずに宣言した。


「今のままじゃ無理。わかるでしょ。だから、降りないのならこちらからの提案を受けてもらう」

「なによ、提案って?」


 日和さんはふっと口元を緩め、


「お互いを知り、尊重できるように、しばらく行動を共にしてもらう」


「はあ?」

「えっ……」

「……」


 ほたるは唇を窄め、同時に眉間に皺を寄せた。

 心底嫌だと感じているんだろう。


「颯太と一緒に暮らせってこと?」

「違う。颯太君とだけじゃない、ほたるちゃんとも」


「その子と一緒に居たくらいで連携がスムーズになると思ってるなら……」

「別に強制してるわけじゃないし、嫌なら降りていいのよ。私が見る限り颯太君とほたるちゃん二人だけなら何とかなったんじゃないかなと思ってる」

「つまり、あたしが悪いと言いたいわけ!」


「えっ、そう聞こえる? もしかしてほたるちゃんに認めてもらう自信ないの?」


 煽るなあ。

 そんなこと言われたら美優は――


「やってやろうじゃない。みてなさいよ」


僕の幼馴染は勢いよく立ち上がり、右こぶしを握り締めた。


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