表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

第3話 僕の疑問・君の疑問

 その子が目覚めたことによって、心なしか散る花びらも多くなった感じさえする。


「だれなの?」


 幼女の小動物のような可愛らしい細長い瞳が僕を捕えた。

 だが悲しいな、その瞳は警戒の色に彩られている。


 片方だけの極上毛並みの二等辺三角形のような尖った左耳。

 左右に揺れるふわふわの尻尾。

 首からお守りを下げていた。

 桜の花びらを象ったものでなぜか視線がそこに行く。


 見た目は女の子。だけど、狐の耳と尻尾が付いている!

 こんな森の中で幼女が何を――

 あり得ない光景だが、受け入れざるを得ないか。

 念のために頬をつねってみた。


「夢じゃない……」


 なぜ? どうして?

 疑問だけが次々に浮かんでくる。


「まさか人型の怪異?」

「ちがうの」


 無駄な労力は使用しないという小さな声で軽く否定だけされた。

 ですよね。ごめんなさい。

 僕の観察を終え、キッと攻撃的な視線を投げかけられた。

 落ちてくる花びらの炎がぼっと火力を増した様に思えた。


「ねえ、どうしたの、その耳?」


 右耳は斬られたか、食いちぎられたように先端がないのが目立ち、特に気になった。

 でも、返答してくれないか。

 無言、無回答。

 瞳には警戒の色が濃く出ている。

 だけど、言葉は通じるぞ。


 服装はずっと寝ころんでいたというように、土と草が付着していてひどく汚れが目立った。

 数日間この場にいるのではなく、長い間この場から動いていないみたいだ。

 年齢は10歳前後かな? 身長はその年齢の平均身長くらいに思える。

 実年齢よりなんとなく幼く見てしまうが。


 大きな桜の木はそれが使命だと言わんばかりに、花を散らし火の粉をまき散らしている。


「にんげん」


 それは独り言のようだった。

 目を合わせてくれないな。


「うん、見ての通り」

「みえるの?」


 差すような睨みのまま、またも僕をじろじろと観察される。

 妙なことを聞くものだ。

 揺らめき炎を宿す花びらは、強く燃えようか弱めに火力を落とした方が良いか迷っている様子。


「君が目に見えるってことなら、バッチリと見え――」


『グルォオオオオオンッ!!』


 怪異のおたけびが鼓膜に届いた。


 近くの木々が揺れている……

 すぐ傍まで来てる。


「……」

 小さい声だけど何か聞こえた。

「ごめんなさい……」


 何だかよくわからないけど、あの怪異の代わりに謝っておこう。

 

 どうやら僕の血の匂いを追ってきたらしいな。

 標的を見つけたというように、血走った怪異の目が一層大きくなった。

 大きさだけなら、あのケルベロスとほとんど変わらない。頭1つ分背は低いか。



「……」

「ここには幼馴染たちとチームで調査にきたんだ。今はもう僕1人だけど」


 聞かれていないのに、調伏師見習いの証明バッヂを見せる。

 怪異の存在を知っていそうなこの子ならこれで十分。


「ちょうぶくし……」


 か細い声だけど、何とか耳に届いた。

 神霊は降ろせないから、偽物みたいなものだけど。


「君が何者かわかんないけど、逃げた方がいいよ。あれ、かなり強いから」

「……」


 ちらっと後ろを振り向く。

 彼女はよろけながらも立ち上がって、興味なさそうに大あくびをしていた。

 逃げようとしない――


 困ったな。とても僕では守りながら戦うなんてことできないぞ。

 表情に脅えがない。

 桜の花が散る速度がゆっくりになった気がする。



 すでに目の前に攻撃態勢に入っていた二頭犬がいた。

 躊躇したら、僕もただでは済まない。

 刃渡りが30センチくらいあるだろう爪。

 その振り回し攻撃は上半身をそらしながらかろうじて避け、背後へと回り込む。


 怪異は幼女の方には目もくれず、こちらに向きなおろうと体勢をかえようとしたときだ。

 後ろ足が注連縄に触れ、高圧電流が流れたように怪異を攻撃した。


「結界。だから逃げなかったのか」

「……」


 その表情は違うと答えている気がして、正解は怪異を見ていればピンときた。

 攻撃したのがまるで僕だと言っているようなさらに激高した視線が飛んできたからだ。

 僕が見えている女の子を怪異は見えていない。

 みえるの? て確認したのはそういうことか。




 二頭犬の怪異による、前足での攻撃、噛みつきをギリギリのところで避けていく。

 何度かダメージを与えるために結界を利用させてもらった。


 わけのわからない攻撃を受けた怪異は、御神木桜から距離を取る。

 御神木を守るための強い結界かな? 

 それとも彼女とも何か関係が……


 この子はそこに居れば大丈夫か。むしろ僕の方が危険。

 万が一を想定して、怪異をつれて何処か遠くに引き離すのが最善策。

 


 それは僕の油断だった、結界に気を取られていたと言うのがあるかもしれない。

 怪異を引きつれここから遠くへ行こうとしたとき、今まで爪と牙だけだった攻撃にくわえ、体当たりをしてきた。


「ぐっ!」


 咄嗟にガードはしたものの体勢が崩れる。

 受身を取り、立ち上がるときにそれはおこった。


「え?」


 結界に触れてしまった左手が結界を通り抜けた! 

 いや、というより、


 ピシっ――

 何やら亀裂が入ったような音がして――

 それは瞬く間に周囲に広がっていき、怪異をも退けたその壁はあっさり崩れ落ちた!


「……」


 彼女はこれでも声を漏らさない。

 ただ状況を整理しているかのように口元に触れていた。


「えっー!」


 今、なんか僕、結界破った?

 結界を破れる力なんてあるわけがないのに。


「僕は敵じゃないからね。壊そうと思って壊したんじゃない」



 彼女は糾弾したり、咎めてきたりもしてこなかった。

 話す存在価値もないと言われている気さえする。

 お願いだ。

 何か言ってくれ!


 視界が陰になる。

 怪異がゆっくりと話もさせてはくれない状況だ。


「空気読めよ!」


 女の子はじっと真っ直ぐに怪異を見ている。

 なんてことをしちゃったんだ、僕は。

 この子が危険にさらされてしまうじゃないか。

 怪異の攻撃射程から離れようと死角に回り込むが、二頭犬は僕を見ていなかった。


「嘘だと言ってくれ!」


 結界を壊したことで、怪異は女の子の姿を捉えている。

 女の子もそれがわかっていたのだろう。

 あろうことか、ノーガードの構えで静かに目を閉じた。


 なんだよ、それ!

 馬鹿野郎!


「うぐっ!」


 鋭利な数本の刃が、僕の腹部に突き刺さっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ