幕間 僕の神様の告白
4月に入り、桜の見頃を迎えていた。
調伏師面談室の隣にある怪異研究室の窓からも満開の桜が見られる。
私はお兄ちゃん、おほん――
そうたと午前中から罰というお掃除をしていた。
研究者の人と助手の人はお昼に行くと言って部屋を出ていき、残された私たち。
お昼、お昼――
今日は何を食べさせてくれるかな?
掃除の方は最初の数十分ほど真面目にやっていたが、途中から研究室にあった資料に目を走らせていた。
今なら堂々と見られる。
「何事にも興味を持つのはいいことだと思うけど、お掃除を終えてからに――」
「私にはお姉ちゃんがいるの」
この人にはもう話してもいいだろう。
気づいているだろうし。
「えっ……うん」
そうたは本棚を整理していたがその手を止めた。
「居なくなったお姉ちゃんを捜すために、あなたの申し出を受けたの」
なんだか少し嬉しそうな顔で、ソファに座るように促がされた。
テーブルの上には、少し馴れ馴れしい女の人が用意したお菓子が大量に置かれている。
ゴクリっ。
「スマホやパソコンに熱心だったのは、情報を集めるためだったのか」
「そうなの」
並べられたお菓子を眺めながら、食べていいだろうか確認を取る。
「少し休憩しよう。どれでも食べていいよ」
動物ビスケットにチョコがコーティングされたものを口に入れた。
歯ごたえと塩気とチョコがなんともたまらない。
また耳がピンと立ってしまっている。
お昼が控えているので、ほどほどにしておかないと。
「スマートフォン、これはほんとに便利なの」
「人間がお姉ちゃんを奪ったって言っていたけど、その情報は?」
「まだわからないの。もしかしたらここに何か手掛かりがあるかもしれないの」
そうたが訓練しているときに、スキを見てここには何回か忍び込もうとした。
その度に、あの女の人に笑顔で阻止されたんだけど――
ここの責任者だろうその人は言った。
『悩みがあるなら、颯太君が一緒に考えてくれるよ』
今ならわかる。この人がどうしようもなくお人よしで馬鹿だってことが。
「私が覚えているのは、そいつは片腕に隻眼で、顔に大きな傷跡。それだけ特徴があればすぐ見つかると思ったんだけど……」
「見つからないのか……うーん、何かに隠されているのかも。僕も一緒に調べるよ」
「ありがと……これを持っていてなの」
「ほたるが持っているお守り?」
「少し違うの。私のそれはお姉ちゃんが作ったお守り、それは私が作ったものなの」
お守りについて彼に説明を始める。
私が一人で外出していたのはそれを作りたかったこと。
あなたはすぐ無茶をするからそれを止める効果があると嘘を言った。
これはついていい嘘だと思うの。
ほんとはお姉ちゃんのために作ったものだけど――
この人にならいいよね、お姉ちゃん。
「白い怪異を捜しているんでしょ。私もそれを手伝う」
この人は悲しみを知っている。
それを心の奥にしまい、前を向いて周りに認められたいと頑張っている。
私の抱えている苦痛を背負い、覆って和らげてくれる不思議な人。
信じるに値する人物。
ここまでの行動がそれを物語っている。
「ありがとう」
「こっちのセリフなの」
お兄ちゃんはこぶしを握り、こちらに突き出してくる。
私はそれに拳でタッチして答えた。
「おにぃ……じゃなくて……そうた、今日はあんみつを食べてみたいの」
「それじゃあ、これが終わったら食べに行こう」
窓の外を見ると、桜の花びらが踊るように舞い、私を祝福しているように思えた。
◇◆ここまで読んでくださった方へ◆◇
いつもお読みいただきありがとうございます。
この幕間にて第1章は完結です。
なるべくはやく2章を開始できればと思っています。
ではでは、また2章でお会い出来ればうれしいです。




