第20話 僕の自慢の神様です
僕は気を失ってしまい、目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
日和さんがお見舞いに来てくれてあの後の説明をしてくれた。
その話によると――
ほたるが元に戻ったとき、黒焦げになっていた大量の瘴気が実体化したそれは粒子になり、輝石を残したらしい。
あの場で行動をしたことは物凄く叱られた。
今回の場合、第1討伐部隊は調査。第2討伐部隊が調伏を担っていたらしい。
「いや、でもあの場にはまだ第2部隊は居なかったよ! 仕事遅いよ」
と、心から叫んだ。
本来なら謹慎だが、あれを調伏したのが僕たちであると証明されたため、日和さんの使っている研究室の掃除を命じられることで罰は済んだ。
美優はというと、すでに退院していたみたいで、知らせを聞いて慌ててきたことをりえ先輩が内緒で教えてくれた。
「ほんと馬鹿なんだから。ほたると二人であれを調伏したですって。どれだけ飛躍してるのよ! ほんとにどれだけ……」
元気いっぱいだったけど、どこか気に入らない様子も見て取れた。
言いつけを守らなかったのがお姉ちゃんとしては気に入らないのかもしれないな。
あの化け物は白い羽のようなものをつけていたらしい。
輝石と共に落ちていたということだ。
新たな発見と日和さんが鼻息を荒くしていた。
ほたるの力についても誰かが進言してくれたらしく、お咎めはなかったし、警戒はするけど監視することは見送られたみたい。
今日は退院手続きが間に合わないので、病院に宿泊だ。
全身に負った火傷はすでに治っている。
病院食だけではお腹が空いたので、下のカフェで何か食べようと思い財布を手にして病室を出る。
ドアを閉めたとき、くい、くいと袖を引かれた。
「ほたる……帰ったんじゃなかったの?」
「探検してたの」
この病院は広いからな、さぞかし探検には時間がかかったと見える。
恥ずかしそうに少しもじもじしているのが気にはなるけど、
「ご飯、食べに行くか?」
「ご飯っ!」
白い歯を見せ、力強く頷かれた。
1階にあるカフェはもうすぐ閉店時間ということもあり、お客は僕たちだけだった。
このカフェ、昼間は入院患者とお見舞いの人でいっぱいなんだよな。
僕が口を付ける前に、ガブリとサンドに被りついたほたるは途端にのどに詰まらせる。
「ほら」
僕が渡したオレンジジュースをゴクゴクと飲み、一息つく。
「美味しい?」
「美味しいの……」
やけに目が合うな。なんか言いたいことでもあるのかな?
「そうた……」
僕は口に含んだアイスティーを思わず吹き出しそうになる。
いきなりすぎてビックリしてしまったじゃないか。
なんかぎこちなかったのは、名前で呼んでくれようとしてたのか……
少しだけ距離が縮まったと思いたい。
呼び捨てでの名前呼びは、なにかしっくりこなかったのだろうか。
首を横に振り自分で否定している。
そして、意を決してまた顔を上げた。
こっちの反応を確かめるかのように少し上目遣いになる。
だが、なかなか言葉を発しはしなかった。
「甘くないな」
やはりガムシロップなしのアイスティーは僕には無理か。
その甘味料を取りに席を立つ。
「あっ、ありがと、おにいちゃん……」
その声は呟いたように微かな声で僕には聞こえなかった。
だけど、確実に僕の背中には届いている。
「えっ、何か言った?」
「別に……」
大仕事をやり遂げたとでも言うように、足をばたつかせ、少しはしゃいでいる。
その様子はほたるが神様というより、子供だってことを僕に強く、強く認識させた。
この子が僕の自慢の神様です。
◇◆ここまで読んでくださった方へ◆◇
いつもお読みいただきありがとうございます。
この後の幕間で第1章は完結です。
そちらも読んでくだされば嬉しいです。




