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力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第1章ー3 僕が神様のために出来ること

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第15話 僕は神様の前に立つ

 僕は拳に力を込め、ゆっくりと前に前に進んでいく。


「来るな!」


 そのセリフは怯えた人が出すんだ。

 それで僕が止まると思ってるのか。もう殴られ続けるのは止めだ。


「……」


 ほたるの首筋からツーっと赤い血が流れだす。

 それを見て我に返った。


 ぶんぶんと首を横に振る。

 だめだ。もう一歩前に出たら、ほんとにこいつは刺しかねない。


 ほたるの体は震えている。

 大嫌いな人間にナイフを突きつけられ、命を危険にさらしている状況。

 顔を伏せ、絶望してるじゃないか。


 何をやってるんだ、僕は!

 全然守れていない。

 こんな状況なんて、のぞんでいなかったのに。


「御堂さん、ほんとに傷つけるとは思ってなかったよ」

「黙れ、こいつは怪異かそれ以上の何かに違いない。ここで調伏するのが俺たちの役目だ。目の前で見てろ」


 くそったれ。


「……」


 ぼそっとほたるが自分の血を見て何かつぶやいた。

 直後、ほたるの傷口からが赤い炎が噴き出す。



 すごい勢いだった。



 風圧と熱をビリビリと感じ取れる。吹き飛ばされそうな力だ。

 目を向けるといつの間にか全身に炎を宿し、それはなお勢いよく吹き出している。

 ほたるはその場に浮遊していた。

 また髪色が銀髪から桜色に。


「なんだ、この力は。聞いてないぞ」


 御堂はというと、予想以上の力に軽いパニックを起こしている。


「ほたる……」


 僕にはその赤い炎が泣いているように感じた。


「うっ」


 契約している僕にも影響があるらしく、お腹の辺りが熱い。

 焼けそうだ。


「見ろ、これが本性だろ。これで神と言えるのかよ」


 ナイフを持った僕の元リーダーはほたるの炎に押され、少し距離が出来ていた。


「言えるよ。昨日の夜、僕がこんなに苦しくならなかったのが、ほたるが犯人でない証拠になる」


 息を吸い込み、少し大きな声で、


「ほたる、ここは僕に任せて力を解け!」


 と、ほたるに向かって叫ぶ。



「……」


「危険分子は排除する」


 御堂は神降ろしまでして氷で覆ったナイフで炎を帯びたほたるに迫る。


 僕は床を蹴った。


 間一髪で氷のナイフが僕の伸ばした手に刺さる。

 最近刺されることがほんとに多いな。


「まったく、僕を信じないんだから。任せろって言ったのに」


 口ではそう言ってみるけど、こんなことになるとは思ってなかった。

 心の中ではごめんを繰り返す。


「……」


 体を中から焼くような熱さが消えた。

 正気に戻ったか。


「どうしてなの?」


 僕は君のそんな顔じゃなく、幸せな顔を見てみたいんだよ。

 独りぼっちじゃ、何もかも一人で抱え込んでいたら笑えないんだ。


「僕がほたるを守るから。頼りなくてごめん。もしこの人を傷つけたら、理由はどうあれ他の人からも疑われちゃう。この戦いは手を出さなかった僕たちの勝ちだ」


 僕が言うと同時に、我慢できなくなった美優の雷がそいつに落ちた。


 視界がほとんど塞がっていても、焦げ臭い匂いと倒れた音はわかる。

 相手は多分失神しているだろう。


「颯太、あんたほんと馬鹿ね! 拳ならともかく刃物抜かれたら、即刻ぶっ飛ばしなさいよ!」

「いや、ほたるの方に行くとは思わなかったんだ」


 美優が駆け寄ってきたのがわかり、それを合図に気持ちを切る。

 悲鳴を上げていた膝が支えられずに体勢を崩した。


「ほんと、信じらんない!」


 荒い呼吸をしながらだけど、念のため確認しないといけない。


「全員倒したよね? 最後のやつ、あのリーダーは刃物抜いた時点で僕の勝ちだしね」


 左右からほたると美優がしっかりと僕を支え、マットの上に寝かしてくれる。


「はいはい、倒したわよ。何と戦ってるんだか……すぐ治してあげるからからね。あーあ、こんなにボコボコにされて、刺されて」


 美優より少し小さい手が僕の掌に触れ、すぐにはなれた。ほたる?


「見事なサンドバックだったね。あんなことが出来るのは颯太君くらいだわ。割って入ると邪魔しちゃいそうだから抑えてた。美優ちゃんは私の比じゃないくらい我慢してたね、よく出来ました。最後はかなりの想定外ってところでしょ。あの人たちにはそれ相応の罰が待ってるね。特に二人の元リーダーは酷そうだ」


 りえ先輩の声。


「颯太のバカは今に始まったことじゃないし」

「あんなへなちょこパンチ、いくらもらっても全然ダメージはない」

「倒れといてよく言うわよ。説得力ないわ。なんで右手からも出血してるのよ。爪食い込ませたのね」



 視界がほぼ塞がっていて何も見えないから、回復作業が終わるまで目をつぶるか。

 美優は巫女の神様を降ろすことも出来るという、最強ヒーラーでもある。


「ねえ、さっきの8人変じゃなかった?」


 先輩の声を聴き、僕は目を開けようとする。


「あっ、もう。じっとしてなさい。大けがしてるのよ……同じ感じがしましたね。ケルベロスやピエロの怪異と。もしかしたら最近の出来事全部、何か関係があるのもしれません」


「あれ、症候群なんじゃないかな」


 怪異は人の欲望を栄養分にする。負のエネルギーは怪異に取って最高の食事。

 稀にだが、怪異の瘴気に中てられ感情を乗っ取られたりするというのを聞いたことがある。

 

 もし、負の感情を自在に操る事が出来る怪異がいたとしたら……

 とんでもないことになる。


「戦闘の勘、凄いわね。伸びる理由がわかるわ。血は勢いよく出てるけど、傷は浅いわ。けど無茶しすぎ……いいわよ。もう、目を開けても」

「うん……」


 僕を心配した人が周りに何人かいた。

 その中に見つけた僕の神様はぶすっとした顔で僕を睨みつけている。

 だがその顔は呆れているような、そして人間にもこんな人がいるのかというような表情で僕をほっとさせてくれた。


「ほたる、あなたが契約してしまった主はこういう大馬鹿さんなのよ。ご愁傷様」

「……貧乏くじを引く主なの」


 ぼそっとほたるは呟く。


「上手いこと言うわね」

「……勝手にさせてよかったの……」


 ほたるはそれ以上何も言わなかった。


 ほたるを怪しむ目が増えた気がする。

 でも、同じくらい信じてくれている人の数が増えた気が。

 怪しむのは無理もない。あんな力出すんだからな。

 僕の行動が結果として、悪い方向に行ってしまったようだ。


 でも、なぜほたると僕に笑顔を向けてる人たちがいるんだ。


「よく頑張ったな。どっちが正しいか、見てればわかる。俺はその子と君を信じる」

「いやぁ、熱かったね。君みたいな馬鹿はすごくいい」


 信じてくれているのは、この場では僕と美優、それにりえ先輩ともう1人――

 それだけだと思ったのに……




「相変わらず、君は面白いね」


 着替えを終えて帰ろうとしたところで、日和さんが声を掛けてきた。


「颯太君、美優ちゃん、それにほたるちゃん。受け持っている担当地域を拡大してもらうね」

「えっ……」


 僕と美優は驚きの声を上げた。

 正直、現時点でも担当地区は広範囲だ。これ以上は2人では困難。


「というのもね……」


 日和さんの言葉を打ち消すように誰かのお腹が控えめになった。

 ほたるの顔を見てみると、素知らぬ顔をしているが頬が赤くなっている。

 朝ごはんもお昼もあんまり食べてなかったからな。


「続きは食事をしながらでもいいかしら?」


 察してくれた日和さんがそう提案する。

 断る理由が僕たちにはない。

 腕時計を横目で見て、日和さんは朗らかに歩き出した。

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