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力を使うとお腹を空かす桜狐の姫は今日も僕に懐いてくれない~追放された底辺調伏師の僕はヒーローを夢見る~  作者: 滝藤秀一
第1章ー3 僕が神様のために出来ること

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第14話 僕は神様のために受け止める

 陽が落ちて、薄暗くなり始めたころ。

 僕と対峙した8人の調伏師。


 静まり返った訓練場では、彼らの殴るときのかけ声しかほとんど聞こえなくなっていた。

 今日はグループの責任者は不在。怪異博士の日和さんは完全に見学モード。

 美優とりえ先輩の近くには、他の調伏師の人たちも集まっていた。


 8人の拳が僕を容赦なく襲う。


「誰か止めろよ。これやばいって」

「このままじゃ、あの子が死んじゃう」

「美優、止めないの?」

「……あたしが颯太なら、ここで止められたら怒ると思う」


 幼馴染は両の手を強く握り、ひたすらに我慢してくれていた。

 ほたるはといえば、ちょっとずつ前に出てきてじっとこちらを見ている。



 ドンッと、左頬を殴られる。

 ミシッと、右足の蹴りが腹部にめり込む。

 バシンっと、往復でビンタまで食らった。


 馬鹿笑いのような罵声は耳には残らない。

 どうでもいいことだ。そんなの。


 ふらふらとよろけて、倒れそうになるが下半身に力を入れ何とか持ちこたえる。


 僕は一切手を出さなかった。

 避けようとすれば出来るけど、それをしないで全部を受け止める。

 暴力に暴力で訴えたらこいつらと同じだ。

 それじゃあ、ほたるの人間不信は改善されない。


 大嫌いだろう人間の中にも信じていい人もいるかもしれないと思ってほしい。

 僕はあの子を裏切らないし、1番の理解者でありたい。


「こいつ倒れねえ……」

「はぁ……はぁ……」


 口の中も切れてしまっている。ごくりと唾をのむと変な味がした。


 痛いって言葉はこの人たちの行動を助長する。

 それに本当に傷ついているのはほたるだ。

 あんたたちみたいのがいるから、人を信じられなくなるんだよ。


 瞼が、顔が殴られ過ぎて膨らんできている。

 熱を持ったみたいに脈を打ち、そしてやっぱり痛い。

 たぶん外出できないほどみっともない顔になっているだろうな。


「もう一時間になるぞ」

「ただ殴られてるわけじゃない。一発、一発貰った分だけ、その理不尽さを自分の体に刻み込んでいる。そんな感じだ」

「そうだね。人の嫌な部分を全部受け止めて、それでも誰かにわかってもらいたいっていう強い意志がある。あの子だよね、御堂さんにチームを追放されたって子」


「いつの間にかみんな引き付けられてるじゃん。すごいよ、あの子。攻撃をしないで退けちゃってるよ」

「問題は体力的に持つかってところね」

「うわっ、美優ちゃんの顔が怖い。颯太君、なんであそこまで?」

「色々考えてのことだと思う。ほたるを信じているから。少しでも疑いを持ったことへの自分への罰。それと味方だって言葉以外でも示したいって想い。前から言ってるでしょ、颯太はほんとにすごいの」


 1人、また1人と殴り疲れたのか、馬鹿らしくなったのか、気が晴れたのか、そんなこと僕にはわからないが、施設内を後にしていく。

 視界が塞がってしまっているが、残るは御堂さんただ1人。

 僕の膝、根性見せろよ。


 僕に敵意を向けていた8人は明らかに今までと何か違うということは何となくわかった。

 それはあの二頭犬の怪異やピエロの怪異と似たような悪い感覚を受ける。


 ほたるがまた数歩前に来ていた。


「ごめん」


 ぼそっと自然と謝罪の言葉が口を出る。聞こえたかどうかはわからないけど、昨日の一瞬の疑念は謝罪してもしきれないくらいのものだ。

 こんなことしか、今はしてあげられないし、思いつかなかった。


 キンッ、と白刃が煌いた。

 僕の膨れた顔が薄っすらそこに映りこんでいる。


「なっ、汚いやつ。あんなのでよくチームリーダーなんてしていられるな」

「反撃してないのに、負けを認めたようなものだろ」

「御堂さん、最悪じゃん。ついに美優ちゃんが神降ろししてるんですけど」

「あいつ、もたもた何やってんのよ」



「……ノーガードだけでもこれ以上ないハンデだよ。落ちこぼれをいたぶるのに、元リーダーは刃物迄出すの? 熱くなって感情制御できないなら、調伏師失格とかの前に、人としてやっちゃならないことで――」

「気に入らねー。お前もお前が契約した化け物もな」


 化け物……ほたるのことか!

 僕は両手を握りしめ、意識が飛びそうになるのを止めた。


「だったら直接言えばいいじゃないか。凶器出して怒りをアピールでもしてるのかよ」



 こっちに向かってこないと思ったら、あろうことか前に出ていたほたるの手首を掴んだのが、ぼんやりと見えた。


「……」


 この野郎、ほたるにお前は触れていい存在じゃないんだ。

 その子がお前に何をした?

 僕の方が気に入らないのに、殴り倒せないから、ナイフを抜いて、近くにいたほたるを――

 僕ですら、こんな人間は好きにはならない。

 ほたるはどう思ってるだろ?


「ほら本性を現せよ。お前なんだろ、狐の炎を宿している怪異は」

「そこまで、そこまでやるのか」


 ほたるの細く白い首筋にナイフの刃が微かに触れていた。

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