悪いことは言わないから「◯◯と似てる」という感想だけは伝えないほうがいい
ついったなんかでたまに「◯◯と似てると言われて心折れそう」みたいなツイートが流れてきた時、ボクはそれほど深刻には考えなかった。
ショックなのは分かるけどそこまで言うほどでもないだろ、みたいな感じだ。
が、しかし。
ちょっと前にその類の感想を貰った時、想像以上のダメージで数日間本当に立ち直れなかった。
それなりに楽観的なタイプの性格だと思っている自分ですら本気でもう創作活動はやめようかと思うくらいだったから、ついったで流れてくるその手のツイートが大げさなものではなく本気の叫びだったんだというのが今ならよく分かる。
ただ話の前に言っておくと、ボクはその頂いた感想そのものに悪気が無かったことは十分理解しているし、〝感想を書く〟というエネルギーを消費する形で作品にレスポンスを頂けた事そのものにはすごく感謝しているし嬉しく思っている。
そこは絶対に誤解してほしくないし、だから強調しておこう。
ボクの場合、その感想を書いてくださった方に悪気なんか全く無くて、純粋に応援だったんだというのは文面を見たら分かる。
だからこれからもどんどん、恐れずいろんな作品にあなたが受けた感銘を伝えていってあげてほしい。感想っていうのは頂けると本当に嬉しいものだから。
(ただし「◯◯と似ている」というのだけはやめてあげてね)
さて本題に移ろう。
「◯◯に似ている」という感想、これ自体は本当に受け手としては自然な感情で、ボク自身流れてきた絵や漫画を見ながら「この作品にテイストが似てるなー」なんて思うことは山ほどある。
だからついついそう伝えたくなってしまう気持ちそのものはよく分かる。
よく分かるんだけど、一歩立ち止まって考えてみてほしい。
「◯◯に似ている」という感想を貰った作者がどう思うのか、という部分を。
もしもその作者が明確にある作品や作り手を意識していて、そこに意図的に似せているというのなら「やった……!」と喜ぶだろう。
「◯◯風に描いてみた」とか「◯◯風に編曲してみた」みたいな、ああいう系列の作品だ。
が、しかし。
ほとんどの場合は似せようなんて思ってなくて、少なくともボクは「この作品がオレにとって最高だ!」と思っている。
もっと夜想曲ちっくに言えば、ボク専用にカスタマイズしてボクが一番楽しめるように書いている。
だから――そこに対する「◯◯と似ている」という言葉は特大の地雷だ。
ゲイボルグで心臓を穿つ行為と言っても過言ではない。
そしてこれはついった等の反応を見ている限り、多くの人にとっても多かれ少なかれ共通していることなんだろう。
大体そもそも、自分が見たい話を誰かが書くんならわざわざ自分で書かないんだ。
自分で書かなきゃいけないくらいの思いがあるから自分で書くんだ。
表面的にすごく似ていると思ったとしてもこだわっている場所は全く違って、だからわざわざ自分の時間を捧げて書いているんだ。
そこに対して「◯◯と似ている」という言葉を贈るということは、アサヒに対して〝キリンに似ている〟と言ってしまうとか、前回と髪型を変えているにもかかわらず「前と同じ髪型にしたんだ?」と言うとか、言われた側からすると「ぇぇ……?」ってなってしまうことなんだ。
で、さらに。
さらにタチが悪いのは、そう聞いている時点でその人にとっての基準は〝向こう〟の作品であって自分が頑張って作った作品ではないんだよね。
ビールの例えで言えば、その人にとってビールと言えばキリンであって、アサヒではないの。
言ってしまえばバックアップ。
たまにはこっちにしてみるかー……っていう感じで選ばれるもの。
これらは本当に言われた側でないと分からない感覚だと思う。
というか、この言葉がそれほど重いものだっていうのは貰って初めて痛感した。
これを知らなかったからボクは当初「んな大げさな」って思ったし、それを知ったから今では言われた人の気持ちがよく分かる。
だから――悪いことは言わないから「◯◯と似てる」という感想だけは伝えないほうがいい。
少しでも不安があるなら毒キノコは食べるな、じゃないけど、言っても絶対百パーセント大丈夫、という確信が持てない限りは胸の内に秘めておいたほうがいい。
その言葉はあなたが思っているよりもずっとずっと凶悪で、下手をすると本当に筆を折りかねない。
罵倒であればまだ聞き流すこともできるけど、なまじ〝褒め言葉〟として使われているから受け流すにうまく受け流せない。
ボクはその日朝から泣きそうだったし、仕事から帰ってお酒飲んだし、ついでに言うともう一度キーボードを叩くのに三日くらいかかった。
で、今なら吹っ切れたのかというと、実のところそうでもない。
「ボクらしさってなんだ?」っていうのを、あの日からずぅ……っと考え続けている。
それくらい。
それくらい、あの言葉は重い。
それをどうか知っておいてほしい。
願わくば――こういった悲しいすれ違いが少しでも減らんことを。
……っと、最後にもう一度言っておこう。
あの感想に悪気があったわけではないというのはきちんと伝わっているし、感想を頂けたことはすごく嬉しく思う。
そのことは声を大にして言っておきたい。