01
子供のころからの夢のまま、冒険者になって、チームを作った。メンバーは、剣士の俺、サキガケと幼馴染みのシメギ、俺の恋人でもあるサポート魔法が得意なホウリ、攻撃魔法が得意なアタリ、盾役であるウテナ。ちなみにアタリとウテナは恋人同士で、シメギも故郷に恋人がいて、全員なかなかにリアルが充実していると言える。冒険者としても順調であり、全員が20歳や21歳と若手なのにも関わらず、高ランクであるAランクの冒険者である。結構あちこちで有名になったし、この町のギルドに顔を出した際もちょっとした騒ぎになった。この調子ならいずれSランクになるのも夢じゃないだろうと思うと、勝手に顔がにやけてくる。
…まあ、率直に言うと調子に乗っていたのだ。だからなにも考えずに、依頼ですらない、挨拶がてら最近様子がおかしい町長の様子を見てきてほしいと言う頼みを軽く引き受けたのだ。
「ったく。なんで、依頼でもない、金にもならないことを全員でしなきゃならないのさ。サキガケ1人で行けばいいじゃんか。」
だが、チームに相談もなく勝手に引き受けてしまったため、ホウリからの視線が非常に痛い。しかも、ホウリは---アタリもだが---大変美人であるため、余計に迫力があるのだ。
「わ、悪かったって…
勝手に引き受けてごめん!でも、挨拶にわざわざ行くのに、俺1人ってのはやっぱおかしいんだって!」
「まぁまぁ、そのへんにしといてやれよ。勝手に引き受けたこと事態は反省してるみたいだし、受付嬢もかなり心配してたみたいだからな。頼みを引き受けたこと事態は問題ないだろう?」
「ウテナ…!」
俺の味方にまわってくれたウテナに感極まっていると、ホウリからはとても微妙な視線をいただいた。
「まあ、たしかにそれはそうだけど…」
「そうね、このくらいにしといてあげましょう。ふふ、どんな方か楽しみね。」
ちなみにアタリに至っては、ホウリが怒り出してからもずっと、どちらの味方にもならずにニコニコしていた。
「あ、そろそろ着きそうだよ。」
そういえば、もう1人ずっとニコニコしていたヤツがいた。今の今まで全く口すら出さなかったシメギである。天才剣士の異名をほしいままにしているこいつは、爽やかな好青年という見かけに反して、基本一匹狼のスタイルである。とはいってもスタイルがそうなだけで、人間嫌い等ではない。だから、こいつの恋人---俺の幼馴染みでもある---との関係も良好だし、チームメイトのことを大事に思ってくれていることも知ってる。まあつまり、腹黒かったり色々性格は難ありだが、それでもとても頼りになるやつだってことだ。
「こんにちはー!自分達はAランクの冒険者です。今日この町に来たので、ご挨拶に参りました!」
町長の屋敷にふさわしい立派な扉のまえで声をあげると、中から執事らしき爺さんが出てきた。まずは全員分のギルドの身分証明書を見せる。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。たいしたものはございませんが、お茶会のご用意がございます。どうぞごゆるりとおくつろぎください。」
町では出来るだけ多くの冒険者に在中してほしいという意図から、町長の屋敷等にいくと冒険者は大抵もてなしを受けることが出来る。しかし、それを狙って身分を偽るものもいるため、まず身分証明書を提示することが暗黙の了解となっているのだ。
「すんなり入れてくれたってことは、異変がないか、少し入ったくらいではわからないような問題ってことかしらね。」
「そうだね。となると、かなり注意して見ておかないと。」
会場に向かいつつ話しているホウリとウテナが輝いて見える。普段から大人びている二人だが、ここでもなんと頼もしいことか…!
とはいえ頼みを引き受けたのは自分である。自分が一番しっかり観察するのだという決意を持ってお茶会にのぞんだ。
が、そのかいなく特におかしな所は見付けられないままお茶会は終了してしまった。アラフィフの町長と、その友人だというコウさんが茶会に参加していたが、その二人もごく普通に接待してくれた。
「これは何もなかったと伝えるしかないな。」
広い屋敷を会場から玄関まで自ら案内してくれる町長とコウさんの後ろを歩きながら、横にいたシメギに声を出さず唇の動きで話しかける。長年一緒に鍛練してきた成果か、幼馴染み間だけで出来るようになった読唇術である。
「あぁ、そうだな。まあ、明日ギルドに仕事を探しにいくときにでも伝えに行こう…っと!」
「うわっ、すみません!大丈夫ですか!?」
相手の顔を見ながら話すことに集中していたせいで、町長達が止まっていたことに気がつかなかった。お陰で俺は町長にそこそこ強くぶつかって転ばせてしまったし、シメギも俺のように強くぶつかってコウさんを転ばせたりはしなかったようだが、鼻をコウさんの背中にぶつけたらしく痛そうにしている。
「あいたたた… あぁ、いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ突然止まってしまって申し訳ない。実は、明日までにまとめなきゃいけない書類を思い出してしまって。」
「そうですよ、急に止まったこいつが悪いですから、皆様お気になさらず。それよりも、シメギ様は鼻の方は大丈夫ですか?」
ぶつかってしまったにも関わらずそう言ってこちらを心配してくれるなんて、なんていい人たちなのか…!何かあるのかと疑ってしまっていたのが申し訳なくなってくる。
「ありがとうございます!こいつもこう見えてとても頑丈なので、全然大丈夫ですよ!」
「それならよかった。」
だがそう言ってシメギを見ると非常に険しい顔をしている。勝手に大丈夫と言ってしまったから怒ったのか…?
「え、シメギ…」
「ええ、俺は大丈夫です。それよりコウさん、少しだけいいですか?」
だが、俺が声をかけるよりシメギがコウさんに話しかける方が早かった。
「ええ、勿論。何でしょうか?」
そう言ってコウさんは笑ってくれたが、大丈夫だろうか…!?まさか、普段木刀が当たろうが盾にぶつかろうが平然としているシメギがあれで怒るとは思わなかった。二人して少し離れた場所移動してから話しているため会話は聞き取れないから、余計に心配になる。
「すみません、お待たせしました。」
だが、それはさすがに杞憂であったようで、戻ってきたシメギはいつも通りにこやかだった。コウさんのお陰か!?と思いつつも、謝罪だけは先にしておく。不快にさせてしまったなら、相手の機嫌がなおっていたとしても、不快にさせたことに対する謝罪はするべきだと思うし。
「さっきはごめん!勝手に、お前のこと大丈夫って答えちまった。」
「え?ああ、それは大丈夫だよ。相変わらずサキガケは律儀だなぁ。」
シメギはそう言って笑ってくれた。よかった。ただ、これからはきちんと気を付けねば。
その後は特にトラブルもなく、そのまま町長の屋敷をあとにした。
「ふぅ、普通に楽しいお茶会だった!お菓子や紅茶も美味しかったし!」
宿の俺の部屋に着くやいなやホウリがベッドにダイブしながら叫んだ。
行く前はあまり機嫌がよくなかったホウリも、楽しめたようでよかった。本人に言うのはとても無理だが、やはりホウリが笑っているところを見るとそれだけで幸せな気分になれる。
「そうね。あの紅茶はこの町の名産品だと言っていたし、たくさん買っていきましょうか。」
何時ものようにニコニコしているアタリも普段より声が弾んでいるし、それを見ているウテナの眼差しはとても暖かい。
「大分食べたもんなぁ。食べ過ぎたし、俺は今日の夕飯は無しで。代わりに散歩行ってくるわ。今日は話しとくこととかは特にないだろ?」
そういいつつシメギが呆れたような視線をこちらに向けてくるが、お前だって恋人といるとき同じような感じじゃないか。
「そうだな。じゃあ、明日の集合時間だけ決めておこう。10:00にここ出発でどうだ?」
シメギの視線を全く気にせず穏やかに返すウテナは、同い年のはずだがお兄さんにしか見えない。別に老け顔とかでもないのに。
まあそれは置いといて、集合時間の方はそれで問題ないだろう。今は何時もの習慣で全員俺の部屋に集まっているが、今回は全員個室に泊まれる。久々に1人の朝と思うと、ゆっくりなくらいでちょうどいいだろうし。
「よし、じゃあ、明日の朝10:00出発に間に合うようにこの部屋に集合で!」
「了解、リーダー。」
代表して答えてくれたシメギが、そのまま部屋を出ていく。
「散歩気を付けてなー!」
その背に声をかけると、シメギは答えるかのように右手を挙げてヒラヒラと振ってみせた。俺はそれに満足して、そのままシメギを見送った。
-------それを後悔するなんて、夢にも思わずに。