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「おりゃー!」
振りかぶった木刀をシメギの眉間目掛けて振り下ろす。
「甘い!」
だが、力一杯振り下ろした木刀はシメギの木刀によってあっさりと逸らされた。しかも、そのまま今度はシメギの木刀が自分の眉間目掛けて振り下ろされる。木刀で逸らそうにも自分の木刀は地面に振り下ろされた状態で、避けようにも体勢が悪い。うーむ。シンプルに結論を述べると、非常にヤバい。
「とどめっ!」
寸止めと同時に放たれた言葉が、この試合における勝利宣言である。これほど鮮やかに決められては、ごねようがない。
「だー、くそー、まいった!」
素直に敗けを認めると、今までの無表情から一変、シメギが爽やかに笑った。
「ははっ、サキガケはいまだ!って思うと力むから、カウンターを狙いやすいんだよ。」
「うわ、まじかー。気を付けてはいるんだけどなぁ。」
同い年で幼馴染みであるシメギからのアドバイスというのが非常に悔しいが、アドバイスそのものは大変役に立つため素直に聞いておく。それにしても…
「それにしても、絶対おまえこの間よりも速くなってるだろ!」
「そりゃあ、俺だって特訓してるからね。」
そう言って悪びれもなく笑うが、こいつは道場の1人息子で、それこそ3歳のころから木刀を握ってきたエリートである。
「だー、お前は!少しはサボれ!追い抜くのが大変だろう!」
「そこで追い抜ける前提で考えるところ、嫌いじゃないよ。」
ニコニコ笑いながらこの台詞を言うこいつは、絶対に腹黒い。しかも、こう見えて俺に勝るとも劣らない負けず嫌いなんだよなぁ…
「ふん!冒険者になったら、絶対俺の方が先にsランクになってやる!」
「ははっ、やってみろよ。」
冒険者。人間界、魔界、精霊界から構成されるこの世界では、あちこちで必要とされるわりと人気な職種である。ヒーローのように人気者になれるのに人気がそこそこなのは、危険な職業でもあるからだ。彼等は、一般人では行けないような険しい場所にある植物などの採取や、あちこちに現れる魔物の討伐などが主な仕事であり、戦闘技能が必須である。また、魔物とちがいほとんど人間界に現れることはないが、魔族の討伐も冒険者の仕事である。ただし、魔族と言うのは魔物よりも圧倒的に強く、冒険者のなかでもAやSのようなこうランクのものしか任務をうけることができないらしい。そして、最高ランクであるSランクの冒険者でも、幹部や魔王と呼ばれる高位の魔族には敵わないとか。しかも魔族は見た目はほとんど人と同じで、魔族の体に現れると言うアザ以外で人間と見分けることはできないらしい。
「魔界に行って魔族でも倒せば、一発でSランクだろ。冒険者になって俺たちのチームが十分に強くなったら、行こうぜ!」
「いいよ、行こう!俺とお前、それから未来の俺たちのチームメイトと一緒に!」
ただの、子供の夢物語だった。
冒険者になって、シメギと一緒にチームを作った。
経験を積んで、Aランクになった。
それでも、あのときの宣言が本当になるなんてこれっぽっちも思っていなかったんだ。