上等だ! 異世界だろうが どんとこい!
前回までのあらすじ
ブラック企業に勤めている佐藤悟。有給休暇と週休日で実家に帰る準備をしていた矢先にその有給が申請されていないことになっていた。
絶望した彼はあることを決意したが、その時スマホに見慣れないアプリがインストールされていることに気が付いた
『異世界転移アプリへようこそ!このアプリはあなたを異世界に転移させることができるアプリです!』
「はぁ・・・」
我ながら間の抜けた返事である。
いや、スマホに向かって相槌を打っていること自体が末期であるのだが・・・
『なお、この異世界転移アプリを使用し、あなたの身体、精神に何かしらの影響を与えた場合でも当方は一切責任を負いかねます。ご注意ください』
異世界に転移してクレームをつける阿呆がいるとは思えないのだが、何かしらの予防策であると思う。通信手段がないから予防策をとらなくてもいいような気がしないでもないんだがな、実際のところ。
『また、異世界転移が成功した場合、あなたの存在自体がこの世界の歴史から抹消されます。家族・友人・恋人が大切な方は今すぐアプリを閉じ、アプリの削除をしていただきますよう切に願います』
存在が抹消?つまり元から存在しない存在になるってことか・・・どうでもいいや。
俺の存在が消えてなくなったとしても妹はもう立派に仕事をしているし、会社も俺がいなくなっても別の人間を店長にするから問題ない。
つまり俺の存在はいてもいなくてもいい存在ってことだからな。
社畜生活約10年、手に入れたのは孤独な生活と理不尽な社命だけ。俺の人生は何だったんだろうなぁ。
ヤバい、また泣けてきた。
しかし、こんな世界に未練はないのは確かなことだ。けど、もしこのアプリがジョークだったとしたら・・・いや今はこの事を考えるのはやめておこう。もしもなんて考えてもしょうがない。どうせ結果は一緒だ。
もともとこんな筈じゃなかったのに、何でこんなことになってしまったのか。
俺は大学では将来を期待された研究者だった。
専門は生物工学だったが、そのほかにも超弦理論や一般相対性理論、特殊相対性理論などの物理学etc学問と名の付くものなら貪欲に学んでいった。
すべては今まで身を粉にして俺たちを育ててくれた母親のためだった。
俺には父親がいない。小学生の頃に急にいなくなった。いわゆる蒸発だ。
小学生の頃にいなくなったのだから少しは顔だとかも覚えていてもいいのだが、靄がかかったように思い出せない。思い出したくもないから良いんだけど。
それからは母子家庭のテンプレートのような生活だった。
母親は昼夜を問わず働き、俺はそんな母親の助けになりたいと思い、家事をしながら勉強に打ち込んだ。それこそ青春時代の全てをかけてと言っても過言ではないほどだ。
そして俺は大学に合格した。学費は失踪した父親が貯金をしていてくれたらしい。今までそれに全く手を付けていなかったのだ。
俺は感謝で頭が上がらなかった。今まで苦労をかけっぱなしだった。その貯金に手を出したいと何度も思ったことは想像に難くない。それでも俺のためにと手を出さずにいてくれたのだ。
何度でもいう。俺は母親に感謝しかなかった。
そして俺には目的ができた。努力し、金を稼ぎ、母親に楽しい老後を送ってもらうという目的が。
しかし、その目的は果たすことができなかった。
俺が大学3年の時に母親が倒れた。くも膜下出血だった。入院したその日に母親は帰らぬ人となった。
いままで、育ててくれた恩返しもできずに死んでしまった。孝行したいときに親は無しとはよく言ったものだ。なぜ俺は大学を出てからと言わずに今やらなかったのだ。そのことばかりが頭を回っていた。
それが原因とは思いたくはないが、目的が無くなってしまったために自暴自棄になってしまったのは否めない。それがもとでこんなブラックな所に勤めてしまった。
今となってはホントにどうでもいい話なんだがな。
よし!気を取り直してアプリに集中しよう!
まずは、OKをタップっと。さて次は・・・ステータスの設定か。
『ここでは転移後のステータスの設定をいたします。合計100000ポイント以内で任意のステータスを設定してください』
多いわ!何だよ10万って、面っ倒くせぇー
『なお、ランダム設定も可能です。ランダム設定をした場合、任意の設定に戻すことはできません。ランダム設定にしますか?』
当たり前だ!1分1秒だって無駄にはしたくない。
『ランダム設定を完了しました。続いて初期ジョブの設定です。60000種から選択することができます。』
だ~か~ら~桁がおかしいんだって!万単位って何だよ。馬鹿じゃないの!
『初期ジョブもランダム設定が可能です。ランダム設定にしますか?』
はい。いちいち聞くなって・・・
『最後の設定です。転移先の時代と場所を選択できます。ランダム設定でよろしいですね』
断言された。良いんだけどさぁ・・・なんだかなぁ・・・
『最終警告。これより転移を開始します。最初の注意書きの通り、これまであなたが歩んできた歴史は世界から抹消されます。転移するにはOKをキャンセルする場合はアプリを閉じてください』
最後か・・・これが終われば俺の存在は抹消され異世界に転移するわけだ。この世界には未練はないし行く世界には少なからず期待している。なぜならこれから行く世界がどんな世界であれ、今より悪くなることはそうそう無いだろう。
「スー・・・ハー・・・よっしゃ!異世界だろうとどこだろうと行ってやる!頼むぞ!この世界から逃がしてくれ!」
スマホに表示されているOKを押す。
・・・・・・・・・・・?
何も・・・起きてるぅぅぅぅぅぅぅ!!!
今まで画面に集中していて気が付かなかった。何で草原に立ってるんだ俺は!
2話目・・・ストックがないのがこんなにつらかったとは。まさに後悔先立たず。
ようやく、悟君が転移してくれた。
次回は何とか明日までには公開をしたい・・・
さて、すぐに書き始めるか・・・