アナザー
男性1人、女性1人、計2人用の声劇台本です。
(1:1)
(所要時間8分)
アナザー
キャスト
アキト(男)
アキナ(女)
アキト
「最初から、違和感があった。
まるで、引き裂かれた半身に、やっと出会えた様な」
アキナ
「似通っているのは、名前だけじゃなかった。
まるで前世では、1つだったんじゃないかと思う程に」
(間)
アキナ
「アーキトっ!」
アキト
「っ!?
何だ、アキナか…ビックリした」
アキナ
「あはは、何でそんなにビックリしてんの?
この場所は、あたしとアキト以外来れない場所でしょ」
アキト
「元々は俺だけの場所だったんだぞ?
それなのにお前が入ってくる様になったせいで、ちっとも気が休まらないじゃないか」
アキナ
「こんな景色のいいビルの屋上を独り占めするなんて狡いよ!
あたしにも貸してくれたっていいでしょ?
ほら、あたしとアキトの仲じゃな〜い」
アキト
「どんな仲だっつーんだよ、それ」
アキナ
「…さぁね。
で、今日はどうしたの?
何か悩み事〜?」
アキト
「別に…何にも無いし」
アキナ
「そぉ。
まぁ話してくれなくても、分かっちゃうんだけどね〜」
アキト
「…ホント、それ何なんだろうな。
俺にはプライベート無い訳?」
アキナ
「えー、それ、あたしのセリフだよ?
あたしの事も、ぜーんぶアキトにはお見通しなんだもん。
これじゃあ、まともな恋愛も出来ないよ」
アキト
「…ばーか」
アキナ
「な、何よ!
結構これでも真剣に悩んでるんだからね!」
アキト
「知ってるよ。
俺が知ってる事も、分かってるだろう?」
アキナ
「…分かんなくても、いいのにね」
アキト
「……腹減ったな、何か食いに行くか」
アキナ
「あ、今ラーメン想像したでしょ!!
もうダメ、口の中がラーメン待ちになっちゃった!」
アキト
「いつもの所な」
アキナ
「ちょっと、チャーシュー増し増しで想像しないで!
今あたしダイエット中なんだからっ!」
アキト
「あ、餃子も頼もう」
アキナ
「アキトの馬鹿っ!!」
アキト
「あはははは」
(間)
アキト
「今思えば、出会いは突然で、偶然で、必然だった」
アキナ
「人混みの中、すれ違ったその一瞬に膨大な記憶がなだれ込んできて、動けなくなった」
アキト
「彼女の記憶が…」
アキナ
「彼の記憶が…」
(間)
アキナ
「やっぱりチャーシュー、あたしも足せば良かった…」
アキト
「だから言っただろ?
ほら、しょうがないから1枚分けてやるよ」
アキナ
「えへへ、アキト優しい!」
アキト
「いてっ……はー、お前、またかよ…」
アキナ
「えっ?
あー、ごめん…だって、あんまり美味しそうで我慢出来なかったんだもん」
アキト
「猫舌の癖にすぐ食うなってあれほど言ってるだろう?
こっちまで痛いんだからホント勘弁してくれよ」
アキナ
「うう〜、ごめん…」
アキト
「ふぅ、ホント不思議だよな。
感情だけならまだしも、体感する痛みとかも共有するなんてさ」
アキナ
「でもっ!
全部が全部って訳じゃないでしょ?」
アキト
「んー、俺の場合は、こうやって視認してる時はほぼ全部って感じだな。
喜怒哀楽が強いとどこにいても分かるけど」
アキナ
「……ふふっ」
アキト
「ん、何だよ?」
アキナ
「ううん、一緒なんだなぁって思って」
アキト
「…嬉しそうだな」
アキナ
「あっ、ラーメン伸びちゃう!
早く食べないとっ!!」
アキト
「誤魔化そうったってそうはいかないぞ?
こうやって目の前にいたら、お前がどんなーー…っ!?」
アキナ
「やめて、視ないで!」
アキト
「……アキナ」
アキナ
「視ないでって言ってるでしょ!
何でいつも気付かない癖に、今日に限って…」
アキト
「…いつも、隠してただろ、お前。
だから視ない様にしてた」
アキナ
「…そうだよ、だから、これからも視ないでくれてたら良かったのに、何で!
何で今更っ!」
アキト
「ごめん、俺が悪かったから、取り敢えず店出よう」
アキナ
「アキトの馬鹿…っ」
アキト
「馬鹿で悪かったな」
(間)
アキナ
「結局、ここ…?」
アキト
「ここなら誰にも邪魔されない。
俺達だけの場所、なんだろ?」
アキナ
「…うん」
アキト
「どした?
えらく素直だけど、観念したのか?」
アキナ
「だって、もう分かっちゃったんでしょ。
今更意地張ったってしょうがないし」
アキト
「…そうだな」
アキナ
「でも、分かんない」
アキト
「何が?」
アキナ
「今までこんな事無かったのに、目の前にいるアキトの気持ちが視えないの」
アキト
「…そうだと思う」
アキナ
「えっ…?」
アキト
「自分でも、分からないんだ。
だから、見つけてくれる?アキナ…」
アキナ
「……アキト、手を貸して…」
アキト
「うん」
アキナ
「………あっ…」
アキト
「捕まえた。
ごめん、嘘…ついた」
アキナ
「嘘…?」
アキト
「ふふ、やっぱりだ。ほら…分かる?」
アキナ
「な、何が…」
アキト
「ずっと、こうやって触れ合うのが怖かった。
だからいつも、距離を保ってたけど…それは、アキナもだろう?」
アキナ
「…だって……ただでさえ、お見通しなのに」
アキト
「俺もそうだったよ。
でも、こうやって触れたらすぐに分かった。
俺達は、1つなんだって」
アキナ
「1つ…?」
アキト
「そう。
触れ合っているのに、感触がまるで無いんだ。
互いの体温も混ざり合って、溶けたみたいに」
アキナ
「……心臓の音も、一緒だね」
アキト
「俺の気持ち…分かった?」
アキナ
「………分かった…ありがと…」
(間)
アキト
「この日を境に、俺達の不思議な力は消え、感情が流れてくる事も、体感を共有する事も無くなった。
でも、これで良かったのだ…
分からないからこそ、言葉を尽くし、伝えようと努力する。
分かって欲しいからこそ、衝突する事もある。
不安を抱えて涙する事もあるし、互いの体温だけを感じているだけで得られる安堵もある。
…きっと、あの力は…運命の神様の、ちょっとしたイタズラだったに違いない。
出会いは突然で、偶然で、必然。
きっかけは何でもいい、大事なのは、これからなんだ」
-end-
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