第8話 留学
カビウに連れられた3人は、キムン集落を去って本庁の官舎に移ることになった。
キムン集落を去るとき、ノユクとお婆は申し訳なさそうに言った。
「すまぬのう。力になってやれんかった」
「じゃが、村人を恨まないでくれないか。あいつらもこの集落でしか生きられないんじゃ」
「この村がなくなったらとか、思ったのかもしれんな」
「いらぬ心配だと思うのじゃがのう」
エカシとカビウは本庁の一室で今後の3人の処遇を考えていた。
「カビウよ。この事態のそもそもの原因はなんじゃと考える?」
「一言でいえば差別ですが、今回の場合は未知なるものへの恐怖となるのでしょうか?」
「確かにのう。自分たちの想像のつかない力を有する者が傍にいる。しかも、その力が量れない。それが自分たちの生命に直結するとなれば排除したくなるのも無理はないのじゃろう」
「カビウならどうする?」
「職務なら身命を賭してとなるでしょうが、一般人なら家族を優先して考えるでしょうか」
「そうなるじゃろうのう。どうしようかのう...」
「この地球上で1000を越すとか越さないとかいう多くの集団が同じ問題を抱えているのではないですか?」
「ややこしいことじゃ。ことにあの3人はその問題の縮小図といえるかもしれんの」
「超能力者と魔導の者の組み合わせですか?」
「そうじゃ。さらにまだ成長段階で、潜在能力もわかっていない」
「どこかの集団で受け入れてはくれませんか?」
「心当たりはあるが、あそこは闇の集団じゃ。ワールドマザーに登録しておらん」
「えっ、そんなところが...」
「内緒じゃよ。内緒じゃが知る者は知っている。じゃがこの世界のタブーじゃ」
「しかし、あの3人をそんなところに...」
「力さえあれば、生き延びることはできようが、そこに送るのはしのびないのう」
エカシとカビウだけでは、解決の目途はたたないようであった。そこで呼ばれたのが、JPPマザーのトップエンジニアであった。ここJPPも科学族から提供されているマザーネットを介して全世界と通信を行うことができた。
「シネウェ入ります」
「おう、おう。頼みがあるのじゃ」
「なんでしょうか」
「話には聞いておろうが、ここに超能力者2人と魔導の者1人の3人組の子供がおる。この子らを受け入れてくれる集団を検索して欲しいんじゃ」
「お安い御用ですが、結果は保証できません」
「それはわかっておる」
......
「いくつかの集団がひっかかりましたが、いずれもレベル制限がかかっています。高レベルなら受け入れてくれるそうです」
「そこはいかん。戦闘要員の募集じゃ。いわゆる傭兵を募っているんじゃ」
「非公式サイトを検索しますか?少々、裏技を使いますが...」
マザーネットは、科学族が管理するワールドマザーによって検閲されているという噂があった。つまりは、科学族による情報操作が行われている可能性が存在したのである。それに対処するため超能力族などではワールドマザーを介さない通信を行える人材の育成に努めていた。シネウェはそのスペシャリストだったのである。
ただし、この裏技がワールドマザーにばれるとネット制裁を受けた。実際にいくつもの集団がネット制裁を受けてネット孤立国となって復旧の兆しすら見せていない。
「ワールドマザーを騙して、1集団ごとにハッキングするので時間がかかりますよ」
「時間はかかってもよいが、ばれないようにな」
「もちろんです」
ワールドマザーを騙すことはもとより、アクセスする集団に気づかれてもいけない。アクセスする集団がこちらに好意を持っているのかわからないのである。即ちこの行為は犯罪そのものだったのである。
このハッキングは1集団ごとに手作業で行われた。自動プログラムを使えば、トラップに対処できずハッキングが暴露する可能性が高かった。トラップを回避し、避けられないと判断すると偽装工作を行って撤退した。
3日が経過しシネウェは中間報告を行った。
「250集団にアクセスを試みました。侵入できたのは232集団です。他はブロックが固くて撤退しました」
「それで状況は?」
「短期の受け入れをしている集団が8つありました。いわゆる留学ですね」
「どうしてワールドマザーはそれを公式サイトとして公開しなのでしょうか?」とカビウは疑問に思った。
「おそらく、科学族は他種族の連携を絶ちたいんじゃろ」
「他集団の留学サイトは公開されているつもりのようです。それをワールドマザーがシャットアウトしているようです。実際に留学の受けいれを行った集団同士のネットでは公開されているようです」
「完全に科学族の悪意を感じますね」
「自分たちの安全をはかるためじゃろ」
「続けてハッキングしますか?」
「いや。危ない橋は終わりとしよう。それより、留学受け入れ集団はサイトを公開しているつもりなのじゃから、こちらから打診しても問題はないわけじゃの?」
「そのはずです」
「打診も裏ルートを使ってか?」
「はい。しかし、1回侵入できているので次は楽なはずです」
「では、打診して留学条件の資料をとりよせてくれるか?」
「はい」
留学条件は15歳未満という年齢制限が多かった。おそらく、その年齢までならばその集団に災厄をもたらす可能性が低いと考えいるのであろう。
また、保護者1人につき3~5人の留学生という条件も多かった。何かあったら保護者に責任を負ってもらおうということだろう。
さらに、故意か過失を問わず集団に被害を与えた場合は、その集団の法律によって裁かれるという条件は全ての集団が明示していた。
8つの集団から選んだのは、TBMであった。地理的にはチベットで魔道族の集団であった。チベットのTBS、TBPもTBMと交流があるようで比較的種族間の偏見や差別が少ないと思われたのである。
保護者はカビウとなり、3人はTBMに留学することになった。彗星が後8か月で15歳になることから留学期間は8か月で申請した。
TBMまでの交通手段は世界公道を使用することにした。C2Sは地理的に上海であり、テレポートゲートが備えられていた。C2SからTBSまで陸路もあったが、世界公道の各ステーションにもテレポートゲートが備えられていたので、それぞれに申請し、日程の予約を済ませることにした。
TBMが彗星ら3人にとって過ごしやすい地であることをエカシは願っていた。