第6話 魔導の集落
キムン集落は、大雪山の麓に位置していた。JPP全体の人口80万人に対し、 キムン集落は1000人ほどが住んでいた。村の長は先ごろ代替わりをして80歳を越えようかというノユクが継いでいた。
魔導の者の寿命は幅があり、若死にするものもいれば300年を越して生きるものもいた。対して超能力者は概ね70~80歳が寿命といわれていた。科学族は医学の力により平均寿命は130歳と言われ3種族によって一定の基準が存在するようであった。
超能力族がキムン集落を訪れるとき、テレポーターといえども直接集落内に跳ぶことは許されておらず、まずは先触れをだし、集落から10kmほど離れた広場におもむくことが慣例となっていた。そこからは馬車によって移動することになる。
エカシのもとには、先触れとしてフクロウが1羽預けられていた。このフクロウは、先ごろ隠居した村の長の使い魔であり、エカシの用件を持って集落に伝え、その返事をエカシに持って帰っていた。
返事の中身は、「一度訪れてみるがよい」というもので、さっそくカビウは3人を連れてキムン集落を訪れたのであった。
ノユクは水姫が魔導の者であることを一目で見抜いた。さらにカーちゃんの本性も見抜き、
「この子がカーキュイル種の熊を召喚したとはとても信じられない」とうなった。
魔導の者は1匹あるいは複数の魔を使役できるが、魔は大きく3種類にわけられた。
・使い魔---情報伝達や収集、尾行などを得意とし、ほとんど戦闘能力はない。
・魔獣-----動植物の特性を持ち、その特性により強力な戦闘能力を持つ。
・心魔-----相手を幻惑、誘惑する能力を持つ。自然現象を操る能力を有するものも存在する。
カーキュイル種は、魔獣でも上位にランクし、系統が熊となれば破壊力は相当なものであった。
「しかも、この子はほとんど調教していないようだ。それでもわたしのケータック種の熊でもてこずるかもしれない」
ケータック種はカーキュイル種より1ランク下位の魔獣であった。
ノユクはケータック種1匹、カーキュイル種1匹、そしてその上のランクの熊を1匹使役していた。
「問題は、この子のカーキュイル種の熊が暴走したときだ。わたしたちは他人の使役する魔を直接調教できないから、水姫というこの子にいろいろなことを教えてあげなければならない。とはいえ、わたしは忙しいし...。お婆に頼んでみるか」
お婆は先代の村の長である。本人が言うにはそろそろ300歳に近いから隠居したいということで、
代替わりとなったが、見た目はまだまだ達者のようであった。
「お婆。おるか?」
「おるが、何もしないぞえ。わしは隠居だからのー」
「そう言わず、この子を見てくれ」
「う~ん。見るだけでよいのか?」
「そうだ」
そして、お婆は水姫を見ることになった。
「なんということじゃ。この子は...まるでむき身の刃をぶら下げて歩いているようなものじゃ。本人はもちろんのこと、周りのものたちも危険過ぎる」
「そうだろ」
「エカシはわしらにどうしろというのじゃ。というかエカシにはこの状況がよくわかっていなかったというのが正解かのう」
「魔導の者は、他族には理解し難いようですから...」
「で、わしに預かれと...」
「お婆しかいないのです」
「水姫とかいったの。この婆と暫く一緒に暮らすかな?」
「うん」
水姫は直感的にこの集落の者たちが同族あるいは身近なものであることを感じていた。
「でもー。彗星や順は?」
「それが問題になるか。どうしたものかのう」
カビウは1つの案を持っていた。
「ここから150kmくらいの位置にわたしが生まれ育った集落があります。彗星と順はわたしと一緒にそこに住んで、何日かに一度水姫と面会するというのはいかがでしょうか?場所はこの集落の入り口の広場ということで...」
「わしはよいが...」
「わたしもいいよ」水姫は賛成した。
「とりあえずということなら...」彗星の言である。
「何日に1回会えるの?」順が聞いた。
「最悪でも5日に1回というのはどうかしら?」
カビウも管理官としての仕事を持っている。彗星たちだけで跳ぶというのも問題がありそうだ。いずれにしても自由跳躍の許可をエカシからもらわなければならない。
「5日に1回かー」
「まあ、とりあえずだね」
こうして、彗星、順。水姫の落ち着き先がとりあえず決まった。
お婆は水姫にカーちゃんの使役の仕方を教え始めた。今までカーちゃんは自分の本能だけで水姫を守護していた。それを水姫の意志によりカーちゃんの行動を制御しようというのである。むしろこれは、水姫にとってもカーちゃんにとっても喜ばしいことであった。
なにより、カーちゃんは常に実体化して水姫の傍にいるのであった。水姫が望めばぬいぐるみに、カーちゃんの訓練のときには巨大な熊になった。最初、巨大な熊を見た水姫はビビったが、それがカーちゃんであると認識すると慣れるのはあっという間であった。
カーちゃんはカーちゃんで訓練のとき、水姫にああして、こうしてと命令されるのが嬉しいようだった。訓練のときノユクを始め何人かの村人が使役する魔獣を模擬演習として対峙させることもあった。
すぐにカーちゃんは制御可能となり、危険な存在とみなされなくなった。さらに能力もめきめきと向上し、間もなくノユクのケータック種を手玉にとるようになる。
彗星らが落ち着いた集落はクシロから南西に離れた海辺にあった。住居はカビウの実家で、カビウの父モコレレ、母ラプチ、兄トマリが同居していた。
・父モコレレ:強化系>肉体硬化 レア度D レベル31
・母ラプチ: 時空系>テレポーター レア度B レベル12
・兄トマリ: 時空系>亜空間形成 レア度A レベル21
カビウは東方管理局に詰めることになったが、東方管理局はJPPで最も暇な管理局と言われていた。
彗星についてわかったことがある。順のアシストがなければテレポート距離は10kmにも満たないことであった。少し悔しい思いをした彗星は日々精進に励むことになった。
順は、カビウの父母兄とコンボの訓練をしていた。
カビウが暇なこともあり、エカシから許可ももらって最悪5日に1回の水姫との面会は2日に1回や3日に1回のときもあった。
その水姫との面会のとき、『はぐれ魔獣』の存在の話をちらりと聞いた。