第5話 超能力族
本庁からの通達には日付と時間帯がしるされていた。
「彗星くん、明日サッポロにいくことになったわ」
彗星はもとより、順と水姫も目をキラキラとさせていた。状況というものがわかっておらず、ただ新しいものに出会えるだろうという好奇心だけが彗星らの心を支配していたのである。そもそも、カビウも今回の連行を深刻に受け止めていなかったため、ことの深刻さが彗星らに伝わっていないことも理由の1つであったのかもしれない。
JPPの法律ではテレポーターの自由跳躍は認められていない。自由跳躍は特別な場合だけ当局から許可がおりることになっている。よって、今回の連行もハコダテ南方管理局のゲートからサッポロ本庁の指定ゲートへ跳躍することになる。
指定された時間になり、カビウが彗星らを連れてゲートからゲートへと跳躍した。本庁のゲートから受付までは10m足らずで、僅かな時間で受付で手続きがすみカビウの任務は完了すると思われた。
「カーちゃんがいないよ~」
「ハコダテのゲートに抱いて入ったんだろ」
「うん」
「カビウさん、どこかに落としてきました?」
「そんなはずはないわ。って、何を?」
「熊のぬいぐるみです」
「ゲートの故障かしら?」
水姫は受付とは反対方向の玄関に向かって走り出した。ふいをつかれたカビウも止めることはできない。まもなく、水姫は玄関の外へと出てしまった。その後を追うように彗星、順、カビウも外に出ることになる。
玄関の外は、広場になっていた。広場にはそう多くの人はおらず、混雑しているようではなかった。それでも、
「わ~。たくさんの人がいるよ~」
「ほんとだ!」
水姫はカーちゃんのことをすっかり忘れてしまったようである。
カビウはカビウで、「JPSにはシブヤとかハラジュクとかもっと賑やかなところがあるでしょう?」
「シブヤ?ハラジュク?」
(いろいろ複雑な事情がありそうね。まず、受付で手続きをしてからだわ)
カビウは3人を連れて受付に向かった。
「お待ちでございます」
「えっ、誰が?」カビウには誰が待っているのかわからなかった。
「聞いておられないのですか?エカシ長官ですよ。カビウさんもご一緒にどうぞということです」
「え~っ」
カビウが驚くのも無理はなかった。長官といえばJPPのトップである。長官は世襲制ではなく、かといって選挙で選ばれるわけでもない。ある一定の推薦人によって長官になれるのであった。と同時にある一定の否認により長官は罷免されることになっている。この制度によって複数人の長官が存在し、合議制がとられることもあったが、現在の長官はエカシ一人であった。
「おー、おー、よう来たの~」
「おじいちゃん、こんにちは」
「うん、うん、こんにちは」
「これっ」焦ったのはカビウだけであった。
「よい、よい」
「さて、いろいろ話を聞かせてもらうけどいいかな?」
「うん、いいよ」
「その前に自己紹介しておこうかの。わしは『感知系』の能力者じゃ。 感知系の感情や思考を走査することを得意としておるんじゃ。もっとも具体的な思考内容はわからんがな」
「それって、ウソついたらすぐバレルってこと?」と彗星が聞いた。
「頭のいい子じゃ」
「でも、ウソなんかつかないから大丈夫だよ」
「うん、うん。そして、隣に座っているのが、コシルワンテでわしと同じ『感知系』の能力者じゃ。相手の能力を知ることのできる能力を持っていて通称スキャナーと呼ばれているんじゃ」
「じゃあ、僕たちの能力もわかるの?」
「もちろん!だと思うがの~。どうじゃコシルワンテ」
「はい。彗星君の主能力はテレポートです。他に僅かに感知系の危機察知能力が発現しています」
「僕は?」と順が聞いた。
「順君は...どっちが主能力かわかりませんが、2つの能力を持っています。1つは『アシスト系』でコンボ能力も持っています。しかし、どのようなアシストを行うのかはコンボの相手次第のようです。1つは『精神感応系』のヒュプノ即ち暗示能力を持っています」
「わたしは?」水姫が聞いた。
「姫ちゃんは超能力じゃありませんね」
「え~。仲間はずれってこと?」
「いいえ、おそらく魔導の者かと思われます。何か使役している魔か獣はいませんか?」
「いないよ。カーちゃんだけだよ。そうだ。カーちゃんはどこ?」
「カーちゃん?」
「熊のぬいぐるみです」
「おそらく、それですね。魔導の者が使役する従者は常に主の傍に仕えるそうです。姫ちゃん、カーちゃんに姿を見せてと言ってごらんなさい」
「カーちゃん、抱っこしてあげるから来て」
すると、カーちゃんは水姫の腕の中に現れた。
エカシはしばし黙考していた。そして、おもむろに
「JPSからは何の音沙汰もないんじゃろ。ということは、この3人をわしらが預かっても問題ないということじゃ。もし、返せと言われても誰のことですか~ととぼけることにしようではないか」
ということで、彗星ら3人はJPPに所属することになった。世話人はカビウとなり、ハコダテには代わりの管理官を派遣するという。差し当たり、3人は空いている官舎に住むことになった。
エカシとコシルワンテ、カビウは密談を行っていた。
「しかし、揃いも揃ってレアじゃのう」
「確かに」
「だからといって...」
「はい。彗星や順は問題ないと思いますが、水姫をどうするかですね」
「とりあえず、3人をキムン集落に連れて行ってみるか?」
「それから処遇を考えるということですね」
科学族に稀に超能力者や魔導の者が生まれるように、ここJPPにも通常の人や魔導の者が生まれることがあった。キムン集落は、その魔導の者たちで構成されている。問題は、キムン集落が水姫を受け入れてくれるかということである。また、水姫を受け入れたとき、彗星と順との別離が待っているかもしれないということである。JPPでも3種族による対立はないものの共生の手段はまだ得られていなかったのである。
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JPPでは、超能力を2つの指標で評価していた。
・レア度
・レベル
レア度は、JPPの人口に対する比率からS~Eに分類されていた。
レベルは威力を表し、1~∞の値が与えられていた。
・エカシ:感知系>感情や思考を走査 レア度A レベル201
・コシルワンテ:感知系>スキャナー レア度S レベル102
・カビウ:時空系>テレポーター レア度B レベル82
・彗星:時空系>テレポーター レア度B レベル4
感知系>危機察知能力 レア度B レベル1
・順:アシスト系>コンボ(詳細不明) レア度S レベル1
精神感応系>ヒュプノ(暗示能力) レア度S レベル1
・水姫:魔導の者。超能力評価無し。