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3本の枝から  作者: 追いかけ人
序章
4/15

第4話 ハコダテ上陸


 JPSとJPPには、境界があった。それぞれの集団が持つ境界の意味や価値は異なっていたが、この境界を侵すことは、条約を破ることになった。その程度が大きければ、争いに結び付く可能性が存在したのである。


 麻酔から覚めた彗星らは、ここがどこなのかよくわからなかった。


「昨日の夜、捕まっちゃんだよね?」

「うん。そうだと思う」

「でも、ここはどこ?」

「......」


 そこは、海が見える小高い丘であった。そして、海の向こう側に陸地が見えた。朝目覚めたときに皆の傍に乱雑ではあったが、たくさんの果物が用意されていてお腹は満ちていた。


「あそこはどこ?」ここがどこかもわからないのに、あそこを気にする順であった。

「わからないよ」彗星もよくわからなかったのである。


 幼いものにとって、判断基準が理屈より興味が優先されることが多い。今回も何故、あそこに見える陸地を目指すことになったのか、理屈で説明できるものはいないであろう。


「跳んでみようか?」彗星が言うと、

「うん」

「うん」

と順も水姫もうなずいた。


 彗星が順とカーちゃんを胸に抱いた水姫の手を取って跳んだ先は、浜辺のようであった。


「なんだ?」

「誰だ?」

「許可なく跳ぶ奴は罰せられるぞ」


 北海道はJPPが支配しているため、JPPにはJPPの法律が存在した。


「なんだ子供じゃないか」

「僕たち、どこから来たの?」


 彗星も順もこの状況に対して反応が遅れたが、水姫だけは無言で海の向こうを指さしていた。


「なんだって。あそこには科学族が住んでいるはずだぞ」

「でも、この子たちは科学族のようじゃないし...」


 そのとき、一人の姿が実体化した。彼女の名前はカビウといって、JPP南方管理局に所属する管理官であった。もちろん、ここへはテレポートによってやってきた。


「領域侵犯の罪であなたがたを拘束します。ここは既に幾重にも封鎖されているので抵抗は無駄です。って、まだ子供じゃないの」


「ここはどこですか?」ようやく我にかえった彗星がカビウに尋ねた。

「ここは、JPPのハコダテ区域です。というか、どうしてここに?どうやって?誰に連れられて?」とカビウの疑問の方が多かったようである。


「敵だ~。殺される~。お仕置きされる~」などと順と水姫はパニック状態に陥った。

「気が付いたら施設の外で、追いかけられて、捕まって、果物があって、陸地が見えたから跳んで」と彗星は幾分落ち着いているようである。


「う~ん。よくわからないわ。落ち着いて話せるところまで行きましょうか?」

「いやだ~。絶対いやだ」順と水姫のききわけは悪かったが、

「大丈夫だよ。このお姉さん綺麗だしやさしそうだから」と言ってようやく諭したのであった。

 生まれつき危険察知能力の高い彗星は、自分の勘を信じただけだったが、この状況では仕方がなかった。


 さらに、彗星の一言が、カビウに好印象を与えた。

(この子、見る目があるわ。絶対わたしが守ってあげる)





 南方管理局の本部はハコダテにあった。役目はJPSとの境界の監視であったが、現役の職員に今回のような領域侵犯の事態の経験を持つものはいなかった。


「法律では、どう対処することになっている?」

「強制送還か亡命受け入れ、監禁のいずれかになると思われます」

「それを判断するのは誰だ?」

「本庁の外務局かもっと上の方だと思います」

「すると、ある程度事情聴取をしてサッポロに連行ということになるか...」

「はい」


「あの~。あの子たちをもっとくつろげる部屋に移してやってもらえませんか?あまりにも不憫で...」とカビウは涙目でうったえた。

「うん。まー、そうだな。今の段階では他集団からのお客さんとして扱うのがいいかもしれないな。ただ、あの子たちの中にテレポーターがいるから監視は十分にな」

「はい。ありがとうございます」


 彗星らの事情聴取とサッポロへの連行はカビウの役目になった。最初のころは順と水姫はかたくなに心を閉ざしていたが、3日もするとカビウが質問攻めにあうようになっていた。


「ね~、超能力者は人類の敵じゃないの?」

「超能力者は皆人殺しだって聞いたよ?」

などなど、カビウには即答できない質問が多かった。

(答えられないというより、根本的なものが違うわ。JPSではどんな教育をしているのかしら)


 一方、下北半島で不時着した高橋らは、その晩に救出されていた。

高橋からエマージェンシーを受けたコンソールセンターは、すぐさま救助隊と調査隊を送った。


 救助隊は高橋らをすぐさま収容し、安全の確認を行った。

ところが、調査隊は事故原因を特定できなかった。


「ロボのエンジン部をこんなかたちで抉る存在があるのか?爆破とかならまだ納得いくが、これは何か巨大な生物に破壊されたようだ」

「魔獣か...」

「いや、本州に魔獣はいないはずだ」

「しかし、事故の原因を特定できなければ、調査を続行できないぞ」

「なにより我らエリートの安全が優先されるからな」


 ということで、調査と彗星らの探索は無人のロボやメカで行われることになった。もちろん、事故にあった飛行ロボは回収していったが。

 その無人のロボやメカは、カーちゃんによってまもなく全滅させられた。


  センター長は渋い顔をしていた。

「魔獣だと言うのか?JPPの可能性はないのか?」

「領域侵犯は確認されていません」

「う~ん。ところで彗星らの居所はわかっているのか?」

「おそらく、JPP内だと思われます。JPPとの境界線上で信号が途切れましたから」

「う~ん。拙い。すごくまずい...」

「何がそんなに拙いんですか?」

「人権問題から国際問題になる可能性がある」

「は~~~」

「いや、大昔そういう時代があったようなのだ」

「どこからそんな情報を?」

「本からだが...」

「なかったことにしましょうか?」

「そうだな。我らの超能力者への扱いが問題になれば少なくともJPPとの関係が悪くなる。彗星たちはここにはいなかったことにしよう」

「JPPから何か言って来たらどうしましょうか?」

「知りません。記憶にありません。その子たちはだ~れ?で押し通すしかないな」




 彗星らがサッポロに連行される日が近づいていた。

順や水姫は、むしろ遠足気分でその日を待っていた。

彗星とて、毎日新しいことを知るたびに喜びを膨らまさせていた。


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