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3本の枝から  作者: 追いかけ人
序章
2/15

第2話 科学族


 ここは、かつて日本と呼ばれた国家の延長に存在する。

現在は、ワールド・マザーにコードJPSとして集団登録されている。

ワールド・マザーとは、かつて存在した国連の役割を代行する人工知能搭載のコンピュータである。


 ワールド・マザーは登録されている集団のさまざまな主張を人工知能により判断し、採決を行っているため、特定の集団による主張を優先的に採用したりはしない。


 と、表向きはそういうことになっている。

しかし、ワールド・マザーも人が作ったものだから、意図や作為が皆無とは言えないし、裏からアクセスする手段があるかもしれないのである。





 JPSとは、地理的には日本、種族は科学族の集団のことである。

北海道は超能力族が支配しコードJPPであり、九州は魔導族が支配しコードJPMである。


 日本は、この3つの集団が支配することになったが、かつての大国は、いくつもの集団に分かれたところもあった。


「今日も穏やかな日だね~」

「まったく、そのとおりだわ」


 この会話は、目と目を合わせた会話ではない。

JPSは、ワールド・マザーに接続されたJPSマザーによって管理されている。


 世界中の科学族はほとんどそうであろうが、ここJPSも例外ではなく一般人には外出という習慣はなかった。生まれたときから死ぬまで与えられたコンパートメントで生活するものがほとんどであった。


 個人は子供を持つことを許されず、生殖はJPSマザーによって全て管理されていた。それでも、科学族から超能力や魔導の力を持った子供が生まれたり、その亜種が生まれることがあった。


 科学族は超能力の所有の有無を検知する技術の開発に成功していたが、魔導の力の検出技術はまだ成功していなかった。


 そのため、超能力所有の赤ん坊は対超能力族用に洗脳教育された。そして、どの赤ん坊も12歳までは洗脳教育と共に特異能力の所有の有無の監視が行われ、12歳の誕生日の特異能力所有精密検査に合格するとはれて科学族の一員として認められた。


 すべてがJPSマザーによって管理されているように見えたが、そこには一握りの人々の意図が反映されていた。もちろん、その存在に一般の科学族が気づくはずもなく平穏な日々が続くはずであった。


「わたしも一般人に生まれたかったよ」

「な、なにをおっしゃるんですか。センター長」


 JPSマザー管理コンソールセンター長は、JPSのトップである。かつての総理大臣というよりは、絶対的な国王に等しかった。管理コンソールセンターに所属する12名のメンバーは、全て世襲制である。将来、このメンバーの卵子や精子から生まれた子供たちの中からJPSマザーにより一人選別されて特別教育を受け、メンバーの後を継ぐことになる。今までもそうであったし、これからもそうであろう。


 このような制度が生まれた背景には、対超能力族や対魔道族という対外的目的が存在した。JPの科学族の結束を固め、収束させるためにはこの制度が最も適していると考えられたのである。とはいえ、しょせんは一人の人間である。責任の重さからセンター長のぼやきがこぼれるのも仕方のないことであった。


「君は何のために生きてるのかね?」

「それは、科学族の一般人を守るためです」

「そうなんだよなー。そうなんだけど、本当にそうなんだろうか?」

「へ?」

「君は本は好きかね?」

「本ですか?もし本が情報を得る手段だとしたら、わたしはこのコンソール画面からの方が好みですね」

「実はね、このあいだ使っていない建物を探索したら2部屋からとんでもない量の本が飛び出してきてね...」


 センター長の私有する敷地や建物は歴代のセンター長が増改築して、地図でも作らないかぎりどこに何が収まっているのか見当もつかないのである。センター長のほんの気まぐれで敷地内を少し探索して本を見つけたのは偶然だったのである。


「君は夢とか恋とかという言葉を知っているかね?」

「夢は寝ているときに見るものですね。でもカプセルに入るので見たことはありません」

「う~ん、ちょっと違うかな~。では恋はどうかね?」

「恋ですか?単語は知っていますが、どういう概念かはよくわかりません」

「う~ん、ちょっと残念だね。確かにこのコンソールをたたいても教えてくれないだろうしね」

「これって、何かのテストですか?」

「いやいや、わたしが本から得た知識を披露したかっただけだよ」


 しかし、センター長と会話していた三条遥は穏やかではなかった。テストされるということは、疑われていることと同じだからである。いくら、テストではないと言われても知らないことを聞かれて答えられなかったということは、センター長の不興をかったことになるかもしれないと思ったのである。


 そこへ、12名のメンバーの一人である安藤守が鎮痛な面持ちでセンター長に報告にやってきた。

安藤は特別監視室の長を兼ねていて、科学族から選抜された3人の部下を持っていた。その役目は、特異能力者あるいはその疑いのある者の教育と監視であった。


「センター長。申し訳ありません。3名の脱走が発覚しました」

「ん?どういうことかね?」

「昼食時に点呼をとったところ、3名の不在がわかりました。その3名にとりつけている所在発信機を確認したところ、施設の外にいることがわかりました」

「どうやって、施設外に出たのかね?」

「わかりません。わかりませんが、首謀者と思われる如月彗星15歳はテレポーターです。」

「テレポートシールドは?」

「機能していましたし、破られた形跡もありません。」

「テレポートシールドを上回る能力が発現したということかね?」

「わかりません。わかりませんが、その可能性はあります。3人の部下が捕獲に向かっていますので、捕らえればはっきりすると思われます。」

「何としても捕らえるのだ。JPPやJPMに逃げ込まれたらやっかいなことになる。」


「お兄ちゃん。これ海でしょ?」

「僕も初めて見るから...」

「これからどこ行くの?」

「わかんない」


 実のところ、彗星は脱走したのではなかった。ただ、ちょっと、跳んでみようかと思っただけであった。何故、そう思ったのかもわからない。いつもならシールドにぶつかって痛い思いをするだけだから跳ぼうなどと思うはずもない。しかも、2人の子供と手をつないでいるときだったなんて。さらには、帰る方法も思いつかなかった。


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