第6話 支族長の娘
翌日、シゲルヤのもとを内密に訪れた一人の女性がいた。
「小師が言うには、内部犯行であるかどうかわたしに確かめてこいということでした」
小師とは特務機関の班長格というところであろうか。つまり、今回の鳥襲撃事件は班長格扱いであるからさほど重大事件と本署は考えていないようである。
「シラタリさんならば大丈夫と思いますが、内々に済ませてくれるようにお願いしますね」
「わたしも、そう願っているわ」
チベットの集団は、対外的にはTBS、TBP、TBMと3つの集団としてワールドマザーに登録されているが、実態は一人の指導者と4人の族長で運営されていた。今回襲われたシャーミは、その一人の族長の配下であるリーヤル支族の長の末子である。支族長は、支族の継承者と族長の補佐役を一人ずつ選ばなければならなかった。必ずしも、世襲でなくてもよいのだが、世襲であることが慣例となっていた。
シャーミは7人兄弟であって継承者は長兄となることが実質的に決まっていた。問題は族長の補佐役を誰にするかであり、この補佐役の地位は父より1つ上となるのであった。
シャーミの潜在能力を高く買っている父は、補佐役にシャーミを押そうと考え始めたころから、他の兄弟の一部から陰湿ないじめが始まったそうである。それを知った父が学園の寄宿舎にシャーミが住むようにとりはからったという経緯があった。
シラタリは超能力族で、能力は催眠暗示、記憶構築、記憶消去であった。ツェリン校長はシラタリと打ち合わせを行った結果、特別授業を行うことにした。
「みなさ~ん。今日は特別に栄養指導の先生がいらっしゃいました。栄養は健康にも能力向上にも役立ちます。たくさん学んでくださいね」
こうして、シラタリは全てのクラスを巡ることになった。そこでグレー判定となった生徒を個別に調べようという腹積もりであった。各クラスで催眠暗示を行い件のことを聞き出し、栄養の知識を 記憶構築で植え付ける。そして、余分な記憶を消去するという手段のはずであった。
幼少クラスから初等クラスと順調に巡り、グレー判定者は一人もいなかった。問題は、中等クラスで起こった。
「先生!栄養の授業とシャーミちゃんのことって何か関係あるんですか?」そう質問したのは順であった。
(えっ、催眠暗示耐性を持つ子がいるの?)驚いたシラタリは、生徒のプロフィールリストを捲っていた。(この子も暗示能力を持っているけど、わたしのレベルよりはるかに下のはずだわ。コンボ能力。これかしら?わたしと同期したということ?)
「あなたにだけ本当のことを教えるから後で先生のところにいらっしゃい」そういって、シラタリは、順以外の生徒に記憶消去の能力を発動し、催眠暗示からやり直したのである。
「びっくりしたわ」とシラタリが言うと、
「どうしたんですか?」とシゲルヤが聞いた。
「わたしの催眠暗示が効かない子がいたのよ。なんとか凌いだけど。聞き分けのいい子で助かったわ」
「どの子ですか?」
「中等クラスの順君よ」
「ああ、コンボ能力かな?それってまだよくわかっていないんですよ。ところで、グレー判定の子はいましたか?」
「高等クラスに3人いたわ」
「その子たちの履歴とかの詳細を調べるので、面談は明日ですね」
「そうそう、順君のフォローもしなきゃね」
「彗星君も一緒の方が話が早いかな?」
「彗星君?」
「鳥襲撃事件の目撃者でシャーミを護ってくれた子ですよ。順君と同じチームの子です。すると、水姫ちゃんも呼ばないとまずいかな?」
「は~」
「3人で1チームなんですよ。情報は共有させた方がいいでしょ」
シゲルヤがどこまで彗星らに事情を説明するかわからないが、僅かであっても彗星らがこの学園の影を踏むことになりそうだった。




