第5話 学園の影
夕食が終わると、異集団からの留学生はグループごとに集まり、それぞれが端末を操作していた。
「何をしてるの?」と彗星は聞いてみた。
「今日の活動内容を集団の先生に報告してるのよ」
(ふ~ん。大変だな~。っていうよりこれスパイ行為と同じじゃない?)そう思った彗星はあの小柄な男シゲルヤを探した。そして、見つけた彗星は、シゲルヤに尋ねていた。
「留学生のみんなが本集団に毎日なにか報告していますよ。いいんですか?」
「いいんですよ」
「TBMマザーで情報操作しているからですか?」
「いいえ。そんなことはしませんよ」
「じゃあ。ばればれじゃないですかー」
「えっ、何が?ばれて困ることなんかしていませんよ」
「そうですか」彗星はなにか釈然としなかったが、納得したことにした。
「ところで、少女を襲った鳥のシ-ンをもう一度教えてもらえませんか」
「鳥があの子を目掛けて急降下してきて、(危ない)と思ったらシールドをはっていて、鳥がシールドにぶつかったと思ったらどこかに消えてしまった。ということしかわかりません」
「やはり、何度聞いても同じですね。でも、何か思い出したらどんな小さなことでも教えてくださいね」
校長のツェリンとシゲルヤが密談をもっていた。
「やっかいなことになりそうですね」 とツェリンは頭を抱えた。
「彗星君からはこれ以上情報は得られないようですし、彼女に護衛をつけましょうか?」
彼女の名前はシャーミといって、この学園の有力後援者の末子である。いろいろ複雑な事情があってこの学園の寄宿舎に住んでいるが、その実情はツェリンとシゲルヤだけが知っているようである。
「それと、犯人がこの学園の生徒なのか?外部の者なのか?で護衛体制もちがってくるのですが」
「そうですね。そこいらへんの見極めも含めてあなたに一任したいけどどうかしら?」
「お引き受けします」
シゲルヤはこの学園の安全を担当する、集団の特務機関からの出向員であった。年齢は19歳で、飛び級に飛び級を重ねて特務機関員の最年少採用の記録を塗り替えた特務機関の希望を背負った人物なのである。初任先がこの学園なのは、歳が生徒に近いという理由とさほど重大な事件は起こらないだろうという理由からであったが、なにやら雲行きがおかしくなってきていた。
この学園が幼少クラス、初等クラス、中等クラス、高等クラスで構成され、いくつかのクラスをまたいで属している生徒も多い。また、それぞれのクラスの留学生は約10%未満というところであろうか。つまり、初日の初等クラスのディスカッションのメンバーが初等クラスの留学生の全員となるのであった。
シゲルヤはたいして気にしていないような素振りをみせているが、留学生の中にスパイが潜んでいる可能性は捨てきれない。シゲルヤももちろん承知しているのだが、規制を強くするとスパイが闇で活動する可能性がでてくる。さらに、マザーは科学族の支配下にあるのだからシゲルヤにできることは限られてくる。
よって、シゲルヤの使命は限界機密ラインを突破されないこととなる。そのラインさえ突破されなければ、どんな情報でもお持ち帰りくださいということなのである。
これまで、ともすれば暇を持て余していたシゲルヤだったが、例の鳥襲撃事件を境に忙しくなるような予感を持っていた。
直接の問題児ではないだろうが、彗星が多数の子供たちを集めたことが、襲撃者から隙に見えて襲撃決行となった可能性は捨てきれない。かといって、集会を禁止とすれば学園のモットーが疑われる。
「やれやれ、本署に応援を頼むとしようか」となにやらシゲルヤははりきっているようである。




