表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ゆきふるきせつ

作者: ランデブー

ギフト企画参加作品です!苦手な恋愛で挑戦してみました。『ギフト企画』で検索したら素晴らしいギフトがアナタに届きますよ。


 空から雪が降ってきて一面真っ白な世界になる冬、私はこの季節が好き。




 清々しくて煌めいていて心が熱くなる。カラダはひんやり冷えるけどそんな時に飲むホットコーヒーは格別に美味しい、彼の暖かな手に繋がれて白い息を吐きながら散歩する、一年の中で特に冬は身を寄り添っている事が多い、二人で作った雪だるまに名前を付けて楽しむ。


「あいにきたよ」


 冬は彼に会いに来れるから好き、好きだけど悲しくなるけど。木々が生い茂る森の中、足を取られながらここまでやってきた。

 あの木にかかるロープを見たら彼の事を思い出し、自然と涙が零れる。私が悲しまない様に内緒にしていた、病気の事を、でも最悪な形で知ってしまったから結果的に悲しい。寒い中ここまで来たのはこの季節に亡くなったからだ。

 最期に彼からきたメールは大切に保存している、辛いときや挫けた時にソレを見て勇気づけられ愛を貰っている。絵文字も顔文字もない文字だけの文面だったけど、私への愛がちゃんと伝わった、胸がじゅわって熱くなった。たった三行のメール、このメールが私の大切な宝物。

 風で揺れているロープを見上げる。

あのわっかに首を通したんだ、苦しかっただろう痛かっただろう、身体が病魔に蝕まれていて辛くても笑顔で私と会っていたんだ。ゴメンね気付かなくて、ゴメンね私なんかが彼女で、ゴメンね駄目な女で。失ってより一層大切だと感じた、彼への愛は高まるばかりで胸がはち切れそう、でも会えない、手の届かない所にいってしまったから。


「さみしいよ」


 彼が遠くに行ってから誰にも愛されていない、否、彼以外の誰かに愛される事を拒んでいる。私だけ幸せになるなんて悪い、彼はもう幸せなれないのに私だけそんなの……。それにそう簡単に忘れられない、例え私の前にイケ面が現われようが大好きな彼と比べたら月とすっぽん、とてもじゃないけど付き合えない。



 彼は私を空から見てるのかな? 私のカラダは綺麗なまんまだよ、アナタの愛でいっぱいなんだよ、誰にもこのカラダは触れさせない、触れて良いのはアナタだけ――。



 目が潤む、泣きたいのは私じゃなくて彼なのに。涙を拭こう、また泣いてんのかよって笑われる、お前は愛くるしくてまるで小動物みたいだなって可愛がられた事を思い出す。

 こんなんじゃ駄目だ、もう彼はこの世にいないんだから私は一人で歩かないと、前に進まないと。最期の言葉を忘れたわけじゃない、彼の存在が大きすぎてその言葉は鎖で縛られているんだ。あのロープで首を吊る前、行きつけのカフェで帰りぎわに言った言葉、俺がいなくなったら俺なんか忘れて新しい恋をしろよ。


「ばか」


 できないよ、新しい恋なんて。何で私の気持ちを知りながらそんな事言うかな、聞き返そうと思ったら走って行っちゃったし。最期ぐらいもっとちゃんとしてくれても良かったのに、病気の事知らなかったから追い掛けなかったじゃないか。馬鹿馬鹿、大馬鹿、いっそ振ってくれた方がこんなに悲しまないで済んだ、サヨウナラって。

 ここにいちゃ淋しさと悲しさで押し潰されそう。花を置いてさっさと帰ろう、寒いから風邪も引くし。雪ウザイな、歩きにくいし冷たいし、部屋から見る雪はとても綺麗なのにここの雪は只の障害物だ。膝まで雪が積もってる、積もり過ぎだから溶けてくれ。

 大きな木の下にはもう花が置いてあった、誰か来たんだ、彼のお母さんかな? 息を引き取った時声が枯れるまで泣き叫んだらしいから。それともお姉さんかな? お母さんが足場の悪い冬にわざわざこんな所まで来るとは思えないし、彼のお姉さんは弟が大好きだったし。

 あっ、花と一緒に缶コーヒー置いてるよ、つめたいヤツじゃなくってあたたかいヤツを。

気が利くけどこの寒さじゃあたたかいコーヒーは確実につめたくなってるよ、そーいう事じゃないんだけどね。

私が花と一緒に持ってきたのは写真、彼とお熱いキスをしている写真。

こんなのいつ撮ったんだろう? 私には覚えがない。

この写真は彼が絶対開けるなよって言ってた金庫にあった、ゴメン開けちゃったよ、お姉さんが突然家にやってきて鍵を渡してくれたからさ。私は開けないってお姉さんに鍵を帰したんだけど泣きだしたし……それで開けちゃった。金庫には二人の写真がいっぱい入ってた、彼は写真好きで会うたびに撮ってたけど現像した写真を一度も見せてくれなかった、まさかここにあったなんてね。

 この花、薔薇だよ。前カノかな、彼と付き合い始めた頃は前カノがよく私に文句を言いにきたし。何勝手に私の彼氏を取ってるのよ、魔性の女、色気で誘惑しやがって、このあばずれ……耳が痛くなるまで言われた、彼に振られた事がショックで私に八つ当たりをしたのよね。彼女も私と同じなんだ、彼の事を今でも。

 私は花をそっと置いた、真っ赤で茎に刺があって花言葉が愛の花を。


「じゃあね」


 花と写真を置いた私は胸を押さえながら歩きだす。本当はそっちに行きたいんだ、苦しいの我慢するよ痛いのも我慢する、その先には彼がいるんだから。

 胸ポケットにある薬を飲んだら苦しまずにそっちに行ける、眠たくなって寝るだけ、ここは寒いから凍死で死ねる。我慢しなくても良い、今直ぐ会いに行ける、待ってて。後悔はない、人並みな家庭で育ち人並みに友達ができて人並みの偏差値で人並みな学校に進学して人並みな恋愛で。はは、違う違う、恋愛だけは不器用。

 好きな人ができたら一直線に進む、回りなんか見えてない。空気読めなかったり失敗ばかりしたり善かれと思ってした事が裏目に出たり、直したいけど直せない。決まってサヨナラの言葉は

「疲れた」、思い返せばそんな表情を皆していた。

 一人だけ疲れたって言わなかったのが彼、彼のおかげで一直線の道に別れ道ができた。友達を大切にしたり、自分の時間を作ったり、趣味に没頭したり。

 一つの事に突き進むのは悪くはない、世界は広いんだしもっと回りを見ないと。進んだ道が舗装されてる道でも凸凹の道でも後悔だけはするな、それが自分で出した答えなんだから――私なりに考えて出した答え、私にしては良い事言ってると絶賛している。

 彼のもとに行く、自分で出した答えなんだから。別れ道だった道を選んだけれど、結局その道は初めの道と繋がっていた。標識があるとするなら、彼まで百メートル、って書いてるかな。もう直ぐ手が届く、その手に触れられる、唇にも体にも。

 さっき馬鹿って言ってごめんね、私も馬鹿だったよ、会いたいからって死ぬなんて。笑って許してくれるよね? 追い返さないよね? 私をまた優しく包んでくれるよね?



 ――――――っ



 声が聞こえる、わいわいがやがやとても騒がしい。静かにしてくれないかな今から彼と愛し合うんだから、邪魔しないでよ。愛する人へのおもいは私が世界一なんだ、命を経ってまで会いに来たんだから。

 何処にいるの? 私はここよ、ここは真っ暗だしわからないのかな。呼んでくれても良いのに、そしたら声のする方に行くのに。


 こっちだ。


 彼の声、私を呼んでいる。早く行かなきゃ、会いたいもん。あの光りが射してる場所に誰か立ってる、彼よね、彼しかいない。もう悲しまないで済む、淋しい思いをしなくて済む、もう手を離さない、彼とずっと一緒にいる。

 私の手を掴んで引っ張って、そして光りの中でキスをして。ここなら邪魔する人なんて誰もいない、二人だけの時間がゆっくりと流れていく。掴んで、そのあたたかい手で。


「あいたかった」


 でも無理だった、目を開けたら私はベッドの上で腕には点滴が。何故、彼が引っ張ってくれた筈なのに私はここに? 夢じゃない、アレは確かに彼だった。影しか見てないけど手はちゃんと掴んだ、あのあたたかさは確実に彼。

 お母さんが座ったまま寝てる。私が目を覚ますまで傍にいてくれたんだ、ゴメンね心配かけて、皆が心配するってわかっていたけど私彼しか見えなかった。いい加減にしないとイケないよね、彼はもう別の世界にいるんだから。

 あのメールを見よう、あのメールを見たら淋しくはなるけど励まされるから。私は小さなテーブルに置いてあるピンクの携帯を手に取った、ディスプレイには“新着メール有り”の文字。薬を飲んでから何時間か経ってるし友達かバイト先からのメールかな、そう思った。

 受信ボックスの一番上には、親友の名前。彼の最期のメールと同じ三行、絵文字や顔文字がない文字だけの文面。


「ありがとう」




 もう彼を休ませてあげなよ、成仏できないから。てか生きてるよね?




「ありがとう、自殺未遂の私なんかの為に」


 涙が勝手に出てくる、ポロポロって。涙を拭こう、涙は悲しい時に出すものだし。あっ、嬉しい時にも出すよね、じゃあ今は嬉しいんだ。

 彼からの最期のメールを見た、そして削除した。輝くモノは心に閉まっておくのが一番、残していたら立ち止まってしまうから。

 少しずつ道を歩くよ、パートナーが見つかるまでは一人で、パートナーが見つかったら二人で。これからは自問自答するよ、私は一人じゃ何もできないお子様だから、いつまでもこんなの恥ずかしいから、焦らずゆっくり頑張ってみるよ。

 アナタが亡くっなてから心は凍っていた。去年までは凍傷になるまであの場にいたけど今年のゆきふるきせつは違った、心の氷が溶けた。やっとわかったんだと思う、最期のメールの意味が。ありがとう、本当にありがとう、忘れないから私の事も忘れないでね。













 ゴメンな、ピンチになったら守るから。それと冬は寒いから陽に当たれよ。









END



僕にはコレが限界だったかも。完成したら鼻血出たし、鼻血とか久しぶり! ↓は言い訳のような。 彼とアナタと二つありますがあまり気にしないで頂けると嬉しいです。彼の方が良い感じだったので彼にしましたが、彼だと変なところはアナタにしました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 少し切なくもありましたが 暖かいストーリーでした そして面白かった (*^_^*) シリアスとコメディを同じ試験管の中にいれて科学反応をさせたみたいな文章が、独特かつ刺激的で 楽しませて頂…
[一言] こんばんわ。恋愛ものは苦手ですが(まともな恋をしていないから(笑)すらりと読んでしまいました。独特の語り口調が、現代の若い女の子らしくてとても愛らしかったです。最後、彼が彼女の危なっかしい性…
[一言] 真っ直ぐで盲目的な愛は悲しいですね。 彼女を死なないよう守り、それを最期のメールで約束していたという展開は、秀逸な終わりだなぁと感動しました。 イケ面とかあばずれとかふいに出てくる単語にも驚…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ