「下校中、車にて」記入者:碧
「高校生初日はどうでしたか?」
後ろの席に座っているありす様に問う。
「友達ができたわ!まことさんとやなぎさんっていう子よ」
楽しそうに話すのを見て安心した。本当に心配だったのだ。しかしとても楽しそうなありす様を見て少し気になることがある。
「寂しくはありませんでしたか?」
私がいなくてさぞ寂しかろう…と考えていたからだ。
「ええ、少しも、少しもよ!寂しくなかったの」
なぜそんなに強調しておっしゃっるのですかと言いたい気持ちと、どこか悔しい気持ちを抑えて微笑む。
「それは良かったですね」
するとありす様は何か私から感じ取ったのか、きょとんとした顔をして、少し考えてからこうおっしゃった。
「…私はあおといる時が一番楽しいのよ」
バックミラー越しに私の目を上目遣いで見つめてくるありす様。こんな可愛い生き物がこの世に存在することに思わず感謝する。そして執事という立場であるのに気を遣わせてしまったことを反省する。
「すみません。ありがとうございます、ありす様」
ありす様は花が咲いたようにふわっと笑った。
「大好きよ、あお」
大好き、という言葉にどきっとしてしまう。でも私たちの間には何も無い。十歳も年が離れている上に、出会ったのはありす様が五歳くらいの時だからお互いそういう気持ちは無い。親愛と呼ぶべき"大好き"だ。できるだけ冷静な表情をしながら私は言う。
「私もですよ、好きです」
ありす様はその瞬間どんな表情をしていたのか。確かめることができなかったのはきっと、運転に集中していたからだろう。
「…あお」
「何ですか?」
「誰にでも好きって言ってるからあおは結婚できないんじゃないかしら」
そうきたか、いやそれを言ったらありす様もじゃないか、と思う。
「結婚したいと思っていないので…仕事もありますし」
本当に自分の中に結婚願望なるものはなかった。執事の仕事に生きがいを感じているかもしれない。
「そう思えるのって素敵なことよね」
その声が少し寂しそうに聞こえた。私は心配になって聞く。
「…ありす様?」
「なあに?」
意外にもけろっと何事も無かったように返されたので、また会話は他愛もない話になっていく。
幼く見えるありす様もご令嬢である自覚はしっかり持っていて、何か私たちが知らないうちに、何かを考えているのかもしれないと思う今日だった。




