「期待と不安」 記入者:碧
「あおーーっ」
この声は有栖川家のご令嬢、ありす様だ。
ここはとある田舎に立ちそびえる壮大なお屋敷。莫大な財産を所有しており、この辺で有栖川という名を知らない者はなかなかいないだろう。ありす様は小、中学校と、学校内では執事が付き添うほどのとても平和な超お嬢様学校に通っていた。そのためか、ありす様は世の中の悪を一切知らないような子に育ったのだ。
そしてありす様の専属執事をしているのが私、宇佐見 碧25歳。執事の仕事をしているときに最も気をつけているのは”理性を保つこと”だ。人より小柄で華奢、童顔、ふわふわした髪を伸ばしたありす様は可愛すぎて、私は理性なしで近寄ることができない。私とありす様が出会ったのが10年前くらいだから、兄のような気持ちもあるのかもなぁと思う。
さて、そんなありす様今日から高校生になります。
屈託のない子に育ったのは良いことだが、有栖川家のご令嬢としては不安もあるというご主人様の考えにより、公立高校へ通うことに。
ありす様の弟、あると様も不安を隠しきれない様子だった。あると様は自分の意思で小学校から中学校まで公立に通っているため、ありす様の感覚が色々とずれていることを分かっているらしい。
私も心配だが…そんな気持ちをよそに、ありす様は朝からわくわくしている。
「あお、お早う」
廊下を歩いていたら後ろから走ってきたありす様に声をかけられた。
「お早うございます、ありす様。新しい制服もよくお似合いです」
そう言うと少し照れながら微笑まれた。何て可愛らしいのでしょう。すかさず理性のスイッチをオンにする。ありす様が言う。
「ふふ、ありがとうございます。じゃあ学校に行く前に庭の小鳥さんたちに挨拶してくるわね」
これはありす様の通常運転だ。
「ええ、挨拶が終わったら今日は私が学校まで送りますのでお声をかけてくださいね」
「はいっ…ん?」
「?どうかなされましたか」
「今日はあおが学校の付き添い?」
ありす様は公立高校についてまだよくわかってらっしゃらないらしい。私の付き添いがないと知ったら寂しがるだろうか…
「公立高校では執事の付き添いはありませんよ」
「あらそうなの…」
やっぱり寂しがっておられる、と私が心を痛めたのもつかの間。
「じゃあ今日から送迎お願いしますね、とても楽しみだわ!」
ありす様は無邪気な笑顔を私に向けた。まさか私が寂しい思いをすることになるとは。
…それにしても、これからどうなるでしょう。ありす様にとって楽しい3年間になると良いのですが。祈るような気持ちで、リムジンがある車庫へと歩いた。