雪だるま
トムは通学で使っている石炭バスを降りての帰宅中だった。学校を出るのが遅くなってしまい、あたりは薄暗い。でも、雪のお陰でほんわりあかるい。
今年は雪が多い。雪が多いと苦労も多いけど、楽しみも多い。
今年は雪が白い。雪が白いと凍りやすいけど、美しさが多い。
ふと見ると真っ白な雪の道に何かが立っていた。真っ赤な帽子にニンジンの鼻、墨の笑顔の雪だるまだ。
「やあ、どちらにいくのかな」
何気に声をかけてみると、
「アリスさん家の門の前に行きたいんだけど、こうも雪が多いとどこがどこだか……それに、立っていても埋もれてしまいそうでねぇ。まあ、雪が少ないと消えちゃうんだけどね、僕ら」
明るく気さくな答えが帰ってきた。
トムも元気に答えた。
「アリスさん家なら、家のお向かいさんだよ。一緒にいこう」
「こりゃ、ご親切に、助かります」
雪だるまは赤い帽子をちょこっとずらして会釈する。
「移動も大変そうだね。僕んちは家の前で作っちゃうよ」
「そうですね。普通そうなさるですよね」
そう言うと雪だるまは空を見上げた。
さっきまで止んでいた雪がまた降り出したのがすぐにわかった。
「急ごう」
「ああ、すみません。手伝ってもらってよろしいですか?」
そう言うと小さな板切れとトムに渡した。
「わたし、移動すると大きくなってしまうので、これで削ってもらっていいですか? 恐縮です」
ゴロゴロ
サクサク
カリカリ
ゴロゴロ
サクサク
カリカリ
ゴロゴロ、転がって
サクサク、歩いて
カリカリ、削る
「恐縮です」
辺りは雪のお陰で真っ暗には無いでいた。雪明りと家の明かりでぼんやりあたりが見える、そんな夕刻。
「すっかり夜になっちゃなったね」
「すみません、付き合わせてしまって」
「そこがアリスん家、じゃあね」
「はい、ありがとうございました」
アリスの門の前で上の玉が下に落ちるぐらい深々と頭を下げていた。
その夜、大雪に見舞われた。
次の日の朝、トムが外に出てみると道は門の高さまで雪が積もっていた。ふと赤いものに気が付いた。ちょうどアリスの家の門の前だ。
「あ、あの雪だるまのだ」
雪をかきわけ顔の辺りを掘ってみる。
「やあ。昨日はどうもお世話様でございました」
下から元気そうな声が聞こえた。
「苦しくないか? 掘り出そうか?」
「いえいえ、大丈夫です。顔を出してくれただけで感謝です」
「でも周りの雪が溶ける頃には君も一緒に溶けてしまうんじゃないかい?!」」
「いえいえ。私は雪だるま。周りの雪が溶けてもしばらくは存在し続けるのですよ」
「そっか」
◆
雪が消えてもしばらく残る雪だるまはこうしてやってきているのです。
最後までがんばる彼らを応援してください。
ご覧くださり、ありがとうございました。