094
――この日は僕がとても機嫌が悪かった。
小学生のある日、僕は自宅で大翔と顔を赤くして向き合っていた。
怖い顔で、僕が大翔を睨みつけていた。
だけど大翔も顔を赤くして僕に言いかえしてきた。
「僕に内緒でゲームを勝手に持って行ったな」
「いいじゃないか、減るものじゃないし」
「なんだと!」
僕と大翔が険悪に言い返していた。
掴みかかっては、僕は激しく詰め寄っていいた。
「まあ、広哉も大翔も落ち着いて」
僕の部屋には加布羅兄さんがやってきた。
「けど大翔のヤツ……勝手にゲームソフトを持って行ったんだぞ」
「いいじゃないか、減るものじゃないし」
「あれは僕が買ったものだ。大事なものなのだぞ」
僕はまだ大翔と激しく言いあった。
その中に、加布羅兄さんが再び中に割って入ってくる。
「まあまあ大翔、何を持って行ったんだい」
「あのソフト」
「だからソノサンのガキはダメだって!」
大翔の指さしたのはソノサンのガキ。
「それだけじゃない、魔田村もだよ」
「ますます許せない!」
「ちゃんと返すよ、約束もしたんだから」
「そんなのダメに決まっているんだろ!」
それを見た加布羅兄さんは、大翔の頭を撫でていた。
「大翔はちゃんと謝ったのか?」
「えと……兄貴は」
「勝手に持って行ったのは大翔が悪い」
「うん……ごめん」
素直に大翔が謝った、だけど僕は到底納得できない。
僕はさらに厳しい目を送っていた。
「僕は大翔が勝手に持って……」
「広哉もお兄ちゃんなのだから、抑えるんだ」
「けど……」
「広哉はもう少し大人だと思ったけどな」
加布羅兄さんに言われてしまうと、僕は少し怒りが収まった。
振り上げた拳を下ろして、僕はうつむいてしまう。
「分かった……許すよ」
僕の観念した顔に、加布羅兄さんは笑顔を見せた。
結局僕は加布羅兄さんに言われると、いつも叶わなかった。
それはゲームでも人としてもかなわなかった、今日までは――




