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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
九話:僕たちのレトロゲームに得意なゲームならば勝つ意志がある
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どこにでもある、市内を走り回るバス。

いつも学校に行くのに利用しているバスは、特別だった。

なにせ飛び乗ったバスには僕と乗客がもう一人しかいない。

さらに驚いたのはその乗客だ。


「なぜ、お前がここにいる?駕与丁 夢姫!」

「そうだな」

赤いランドセルを背負った、かつてのプレイヤー駕与丁 夢姫社長がそこにはいた。

いつも通り冷静なところは、教楽来といい勝負だ。


「僕の拉致か?」

「助けておいてそれはなかろう」

「じゃあなんだ?」

「母を助けてほしい」

「はあ?」

「助けてほしいって言っている」

夢姫は意味不明なことを叫ぶように言った。

運転手以外僕と夢姫しかいないバスの中は声が響く。


「助けろって言われても」

「ファラオになるのだ、私のために」

「そこで拉致か、どこまで強引なやり方だ?」

「助けられぬのなら、ここで下ろしてもいい」

そんな夢姫は目にうっすら涙を浮かべていた。

涙には結構弱い、だから僕は仕方なくハンカチを差し出す。


「泣くなよ、社長だろ」

「だけど、それでも母を助けてほしい。ゲームによって奪われた母を」

「お前は毬菜を殺そうとしたのに、なぜそこまでやる?」

「母の言葉が、大事に思えるのだ」

「大事に?」

「そう、レトロゲームは古いだけのゲームじゃなかった。

レトロゲームは必要なのだ、今も未来にとっても」

「意味が分からない、お前の母親と何の関係がある?」

「母はレトロゲームを愛していた。だからそのゲームで死ねて本望だそうだ。

それでも私は母がいないのは嫌なのだ」

そこは小学生の顔を見せてくる夢姫。

なんというか、あの年齢で泣くのはずるい。これも夢姫の武器なのかもしれない。

そう考えると、夢姫はある意味究極の社長に見えた。


「仮にそうだとしても僕は母を救うことはできない」

「いいやできる、ファラオになればいい」

「僕はファラオになる目的はお前のためじゃない。

僕だって自分の過去を変えるためだけに、このゲームをしている」

「そうだな、だけど私の過去も変えてほしい。

ファラオになれば、変えられるのだろう。願いが一個だとは限らんのだ」

「僕はそれでも君の願いをかなえる理由はない」

「金か?金はいくらでも用意しよう」

「そうじゃない」

夢姫に厳しく言ってやった。そんな時、僕の乗っていたバスが急停止した。

揺れるバス車内に、僕はつり革につかまってその場をしのぐ。


「私からも頼む」

そして、聞こえてきたのが運転手からの声。

顔を見せたのは四十代の男、だけどどこかで見たことのある顔だ。


「頼まれても……」

「許してくれ」

そう言いながら、夢姫は急に土下座をした。

迷いもなく、バスの中でしゃがみこんだ夢姫。

それを見て、僕は首をかしげていた。


「お前は一体、なんなんだよ」

「悪いのは全部私だ、だけどママはどうしても助けたい」

「勝手な事ばかり言うな」

「勝手は承知だ、だけど助けるのに必要なものを私は持っている」

そう言いながら急に懇願の姿勢から顔を上げた。

完全な嘘泣きだ、最も泣いている様子はないが。


「ファラオになるには、三種の神器が必要だろう」

「それがどうした?」

「ここにそれがある」

そう言いながらランドセルを下ろして中から取り出したのはボロボロの名刺。

それを僕に差し出してきたのだ。


「なんだこれは?」

「母の机を探っていたのだ」

母、それはコントローラーだった夢利無のことだ。

前回のゲームで脱落して、夢利無は消滅した。

毬菜の話だと、銃で撃たれたコントローラーは負けると脱落する。

夢利無のこともそれは例外なく起きていた。


「これを……」

「私には不要だ、お前にやろう」

だけどその名前を見て、僕は固まってしまった。

その名前はなんと僕の名前だったから。


「なぜ『幸神 広哉』」

「そこまでは知らん」

僕は夢姫のバスの中で、迷っていた。

三種の神器たる名刺は、僕の名前だ。

しかもドリコムの社員とまで書かれているではないか。


「僕は高校生だ、ドリコムの社員ではない」

「だけど、これが母の机に置かれていた」

「遊びで勝手に作ったのか?タチの悪い悪戯だろ」

「そうではない」

そう言いながら、バスはいつの間にかドリコム本社ビルにたどり着いていた。



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