079
翌朝、僕は早く起きていた。
朝五時に一階階段下の収納箱に体を突っ込んでいた。
黒いシャツ姿で、汗をかきながら僕は手を動かす。
昨日の毬菜の言葉が、どうしても忘れられない。
「あたしの自慢のプレイヤーだから」
全く迷いのない毬菜の言葉に、正直僕は心が動かされた。
あんな言葉を、目の前で人のいる前でいられたら何もできないわけにはいかない。
それが毬菜の本心だから、僕は動くしかないだろう。
そんな僕は、今までのゲームを考えていた。
夢姫のプレイヤースキルはかなりのモノだ、だけどそこに立ち向かわないといけない。
おそらく最後の一人も、かなりの強敵だ。
普通のプレイヤースキルでは、なかなか厳しい。
(でもこれはレトロゲームだ)
オシリスが作ったのは、まさにレトロゲームだ。
コントローラーもファ○コンだ。ならばチャンスもある。
(考えろ、このゲームは何を意味しているのかを)
僕にとって、それは必要なことだ。
今、僕たちは劣勢だ。タイム勝負で残機ナシと状況は最悪だ。
香春のところも残機一機だったが、タイムは向こうが三分も進んでいる。
二位は夢姫、彼女からも一分近い差がついていた。
僕達が勝つには、この差をうめないといけない。
魔田村をつけながら、僕はあることを考えていた。
(今までもそうだ、これはファ○コンの初期の画面がゲーム画面になっている。
アーケード版とも違う、ならば……もしかすると)
僕にとってそれは憶測でしかなかった。
だけど、そんな収納の中で僕はようやく一冊の本を見つけた。
「あった~」
それは分厚すぎる辞書のような真っ黒い本。
だけど、僕はその本にかぶった埃を大事そうに払った。
「広哉~、何しているの?」
「毬菜か、宝を見つけた」
「ふぇ?」
パジャマ姿の毬菜は目をこすって、じっと見ていた。
僕は黒い本を誇らしく見せていた。
「なにそれ?」
「ずっと考えていたんだ。このゲームの唯一の勝ち方を」
「お~、どうなの?」
「オシリスゲームは、レトロゲームだったんだ」
「うん、そうだよ」
「それはドリコムが作ったリメイク版じゃない。
前に言っていただろ、アプリ版でもリメイク版が出ているがそれらのゲームをモチーフにしていない」
スマホを見ながら、僕はずっと考えていた。
夢利無が持って行ったスマホ、僕のスマホだ。
ドリコムということで、僕はスマホがなかった。
警察でさえ取り合ってもらえなかった。
「昨日はごめん」
「なにが?」
「毬菜の気持ちは分かった。僕は今日、必ず勝つ」
「その気持ちだけでうれしい……あたしは」
切なそうな顔に変わる毬菜。
前回のリザルトをどうしても産めないといけないが、残機が少ないために無理が簡単にできない。
「じゃあ、あたしは料理を作るね」
「毬菜……」
「広哉はゲームをしていて」
「でもいいのか?」
この家の家事、ほとんど僕がしていた。
僕の家だから当然だし、料理以外の雑用をする大翔さえもいない。
「うん、あたしだって作れるよ」
「そうか……」
「だいぶ料理の記憶も戻ったから」
「え?」
「ううん、なんでもない」
毬菜はやっぱり笑顔を見せていた。
「広哉はゲーム頑張ってね」
「ああ」
僕の言葉を見て、毬菜はいつも通り笑顔を浮かべて台所に向かった。
それを見て、少しだけ僕は表情を柔らかくした。
(僕は変ったのかもしれない)
そう言いながら黒い本片手に、僕は自室へ戻っていった。




