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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
八話:僕たちのレトロゲームは懐かしいことを思い出すこともある
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翌朝、僕は早く起きていた。

朝五時に一階階段下の収納箱に体を突っ込んでいた。

黒いシャツ姿で、汗をかきながら僕は手を動かす。


昨日の毬菜の言葉が、どうしても忘れられない。

「あたしの自慢のプレイヤーだから」

全く迷いのない毬菜の言葉に、正直僕は心が動かされた。

あんな言葉を、目の前で人のいる前でいられたら何もできないわけにはいかない。

それが毬菜の本心だから、僕は動くしかないだろう。


そんな僕は、今までのゲームを考えていた。

夢姫のプレイヤースキルはかなりのモノだ、だけどそこに立ち向かわないといけない。

おそらく最後の一人も、かなりの強敵だ。

普通のプレイヤースキルでは、なかなか厳しい。


(でもこれはレトロゲームだ)

オシリスが作ったのは、まさにレトロゲームだ。

コントローラーもファ○コンだ。ならばチャンスもある。


(考えろ、このゲームは何を意味しているのかを)

僕にとって、それは必要なことだ。


今、僕たちは劣勢だ。タイム勝負で残機ナシと状況は最悪だ。

香春のところも残機一機だったが、タイムは向こうが三分も進んでいる。

二位は夢姫、彼女からも一分近い差がついていた。


僕達が勝つには、この差をうめないといけない。

魔田村をつけながら、僕はあることを考えていた。


(今までもそうだ、これはファ○コンの初期の画面がゲーム画面になっている。

アーケード版とも違う、ならば……もしかすると)

僕にとってそれは憶測でしかなかった。

だけど、そんな収納の中で僕はようやく一冊の本を見つけた。


「あった~」

それは分厚すぎる辞書のような真っ黒い本。

だけど、僕はその本にかぶった埃を大事そうに払った。


「広哉~、何しているの?」

「毬菜か、宝を見つけた」

「ふぇ?」

パジャマ姿の毬菜は目をこすって、じっと見ていた。

僕は黒い本を誇らしく見せていた。


「なにそれ?」

「ずっと考えていたんだ。このゲームの唯一の勝ち方を」

「お~、どうなの?」

「オシリスゲームは、レトロゲームだったんだ」

「うん、そうだよ」

「それはドリコムが作ったリメイク版じゃない。

前に言っていただろ、アプリ版でもリメイク版が出ているがそれらのゲームをモチーフにしていない」

スマホを見ながら、僕はずっと考えていた。

夢利無が持って行ったスマホ、僕のスマホだ。

ドリコムということで、僕はスマホがなかった。

警察でさえ取り合ってもらえなかった。


「昨日はごめん」

「なにが?」

「毬菜の気持ちは分かった。僕は今日、必ず勝つ」

「その気持ちだけでうれしい……あたしは」

切なそうな顔に変わる毬菜。

前回のリザルトをどうしても産めないといけないが、残機が少ないために無理が簡単にできない。


「じゃあ、あたしは料理を作るね」

「毬菜……」

「広哉はゲームをしていて」

「でもいいのか?」

この家の家事、ほとんど僕がしていた。

僕の家だから当然だし、料理以外の雑用をする大翔さえもいない。


「うん、あたしだって作れるよ」

「そうか……」

「だいぶ料理の記憶も戻ったから」

「え?」

「ううん、なんでもない」

毬菜はやっぱり笑顔を見せていた。


「広哉はゲーム頑張ってね」

「ああ」

僕の言葉を見て、毬菜はいつも通り笑顔を浮かべて台所に向かった。

それを見て、少しだけ僕は表情を柔らかくした。


(僕は変ったのかもしれない)

そう言いながら黒い本片手に、僕は自室へ戻っていった。



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