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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
一話:僕たちのレトロゲームはスタートボタンで始まることもある
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007

一時間半が経過、二十円で思わぬ長いゲームになった。

だけど最後は教楽来姉が簡単なミスをして、教楽来姉の操るネズミ警官が猫に捕まってゲームオーバーだ。

僕は二週目の六面継続中、教楽来も二週目の五面で最後の一機が死んだ。

まさか教楽来が一週目クリアして、二週目まで行くとは思わなかったが。

一応いっておくが僕の残機は、今やっているほかに一機残っていた。


「僕の勝ちだな」

「そうね、じゃあ毬菜」

「お姉ちゃん……」

不安そうな顔を浮かべた教楽来妹。

やっている僕のそばで、立ち上がっていた教楽来姉は冷酷に背を向けた。


「というわけで、あなたは今日から毬菜を預かりなさい。

ちゃんと養うのよ、ご飯も食べさせなさい、いいこと?」

「どうしてだよ、約束が違う」

「最初から負けたら終わりという約束をしていないわ。

単に私は、あなたとレトロゲームの勝負をしたかっただけよ。

やっぱり幸神君が、毬菜の相棒にふさわしいということがよくわかったわ」

立ち上がってそのままカバンを肩にかけたまま、教楽来妹を置いて行った。

俺も思わず立ち上がった、同時にスピードが速くなった猫に捕まってネズミの警官が一機死んだ。


「おい!教楽来姉。騙したな!」

「あなたはこの世界に退屈をしているのでしょ」

「……退屈じゃない、面倒でつまらないんだ」

「同じようなモノよ、あなたが学校に来ないのはそういうことでしょ」

「なんだよ、見透かした言い方をするな!」

僕の後ろで最後のネズミの警官が死んでいた。

それでも教楽来姉は、僕に背中を向けたままだ。


「あなたは何も変えようとしない、チキン幸神君」

「僕はチキンじゃないし、世間的なものも……」

「それはただの逃げにすぎないわ。ううん、あなたは全てを退屈だと思っていろんなものから逃げているのよ。

逃げていては何も始まらないわ、これだけ世界がおかしくなっているというのに」

「なんだよ……お前に何が分かる?」

「分からないわ。だけどあなたが今ここにいる世界に退屈しているのは分かるわ。

去年のあの日だって、あなただけはほかのクラスメイトと違っていたもの」

教楽来姉の言葉に、僕はうつむいてしまった。

去年のことをいまだに根に持たれても、僕は理解ができない。


「お前は何が目的だ?」

「あなたには立ち直ってもらわないと、私の夢が果たせないから。

結局、あの時から私の心は永遠に晴れない。あなたに与えられた屈辱があるから」

「屈辱って……たまたまだ」

「それでも、あなたが立ち直らないと私の夢が果たせない。

オシリスゲームは、最後の一人のプレイヤーをずっと待っていたの」

「最後のプレイヤー?」

「そう、このゲームは八人プレイヤーがそろわないと始まらないの。

しかも全て学生、小学生、中学生、高校生、大学生……男女八名がそろわないとゲームが始まらない」

「また随分と面倒な仕組みだな」

「そういう理不尽な仕組みも、私がオシリスゲームをやりたい理由はあるわ。

学生にゲームをやらせること自体、理不尽じゃない。何の意味があるの?」

「僕に言うな、僕は関係ない」

「だけど、ゲームのプレイヤーが八人いれば、私はあなたの理不尽を一つ解消できる」

相変わらず前のことを引きずっている教楽来姉に、僕は頭を掻いて呆れていた。


「屈辱ってあれはたまたまの偶然だ、あんなものをまだ気にしているのか?」

「それでも記録に残った屈辱よ。

あなたにはあたしの味わった屈辱を、同じように味わってもらわないと理不尽だから。

だからあなたには毬菜と組んでもらうわ、あたしのいらない毬菜と組みなさい。

あなたがやる気になったところを、私が完膚なきまでに叩きのめさないと意味がないわ」

抑揚のない言葉と教楽来妹を残して、教楽来姉は去っていった。

僕の前には、裾を掴んで泣き出しそうな顔の教楽来妹がいた。


「あの……私と組んでください」

「……面倒くさい」

僕は結局、そばにいた教楽来妹に愚痴を吐くしかできなかった。



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