068
決して狭い応接間ではない、だけど僕はそこが嫌だった。
時間が刻一刻と過ぎていく。もちろん何の抵抗もしないわけにはいかない。
だけど僕は人に見られる程、耐性がついているわけでもない。
「トイレ、行かせてください」
「部屋の中にあるから大丈夫だ」
部屋の中にあるトイレの個室に、こもることにした。
大便器に座りながら、周りは壁だらけの部屋で思考を張り巡らせた。
(さて、どうやって出るか)
僕は超能力者でもないし、特殊な力も持たない。
そばには毬菜が居なければ、どこにでもいる高校生でしかない。
そんな僕が大男を二人相手にしてドアを突破する方法なんかはない。
おそらく、トイレの前にはSPの男が待機しているだろう。
(時間はもうすぐ七時……開始まで一時間)
僕には先の見えない焦りがあった。それと同時に後悔があった。
(ドリコム社長、夢姫がプレイヤーだとすれば……今頃向かっているのだろうか)
ゲーム場所にいる夢姫……それからコントローラー。
(あの感じだと、夢姫のコントローラーは秘書の母親か)
僕は母親の顔を思い浮かべた。
僕にだって、当然母親がいる。だけどその母親はピラミッドの中。
オシリスのゲームに巻き込まれた一人なんだ。
(このまま、ここに閉じ込められたら助けることもかなわないのか)
僕はそう思いながら、トイレの壁を見ていた。
そんな時だった、急にドアが開いた。
いや、トイレのドアじゃなく応接室のドアだ。
「動かないで頂戴、彼女を殺すわよ」
それは聞き覚えのある声だ、僕は急いでトイレから出てきた。
それと同時に、大男たちは道を開けていた。
さっきまでの門番の様な威圧感がない。
何より、部屋の中央にいたのは意外な人物だった。
「きょ、教楽来?雅に毬菜も」
「あら、誰かと思えば幸神君じゃない」
そう言いながらも、なぜか黒いドレスの雅は縛られていた。
そして、縛られた雅に教楽来が持っていたのは拳銃だ。
「大事な娘を殺されたくなかったら、彼を解放しなさい」
「い、言うとおりにするのじゃ」
雅のセリフがちょっとだけ棒読みっぽいが、雅パパはおののいた。
何せ教楽来が持っていた拳銃こそ、リアリティがある本物のように見えたから。
「わ、分かった。分かったから娘を……」
そう言いながらおののく雅パパと対照的に、僕の前に毬菜が小走りにやってきた。
「広哉っ!」
「どういうことだ?」
「話はあとよ、さっさと行くわ」
なぜか教楽来が僕に拳銃を突きつけてきた。
その顔はハンターのような鋭い目をしていた。
僕は思わず教楽来の突きつける拳銃を、見て手を挙げてしまった。




