067
ドリコムビルの地下には、狭い部屋があった。
そこに僕は入れられた、ドアの前には大男。夢姫の部屋に待機していたSPだ。
そのSPに入口をガッチリ固められていた。
スマホを奪われて、僕は椅子に座っていた。背中にSPの男つきが頑丈だ。
子供と大人、体格差は歴然だ。
それだけに手錠とかないのが幸いか。
軟禁はされていないので、僕はテーブル越しの椅子に座っていた。
僕の目の前には黒服の大男。これを突破するのは難しい。
もちろんこの黒服の男も、ドリコム会社支給の背広を着ていた。
その部屋は大きなテーブルがあって、食事もとれる大きなテーブル。
テーブルの中には、ファミレスなんかにある呼び出しベルが置かれていた。
他には巨大な本棚、後はタブレットが置かれていた。
「ここに、今日の二十時半までいてもらいます」
大男に監禁された僕は、閉じ込められてしまった。
奴らの目的は、オシリスゲームに参加させない事。
不参加にさせて、脱落させようとしていた。
僕は壁にかけてあった時計を見ていた。
時計は十八時半を指し示していた。オシリスゲーム開始まで後一時間半。
外の様子は……残念ながら見ることはできない。
「天下のドリコム社長が、随分姑息な手を使うんですね」
「上からの指示です」
「そうかい……」
僕は椅子の上に胡坐をかきながら、ベージュの壁を見ていた。
雅との待ち合わせの時間は、とっくに過ぎているが雅の姿を見ることはない。
(毬菜……今日はあそこだよな)
ゲームの場所は、毬菜のスマホにメールが来ていた。
場所のめぼしはついていた。運よくドリコムタワーからかなり近い位置にある。
だけど、SP三人を相手に鍵のかかった部屋を出るのは不可能だ。
ましてやスマホが取り上げられていた。
(このままだと不戦敗か)
唇をかみしめながら周囲の壁を何度も見回した。
「あの、すいません。お食事を食べて行くように社長から言われましたが」
そう言いながら、一人の男がSP警備の厳重な元、現れた。
その人物を僕は見たことがあった。やはりドリコムの背広を着ていた四十代のダンディな叔父さんだ。
ちょび髭がトレードマーク、いかにも紳士風の男。
「あっ、雅パパ」
「ええ、幸神君でしたか」
「雅パパ、すいませんけど僕を……」
「残念ながらそうはいきません」
雅パパにあっさりと断られてしまった。
雅パパは、ドリコムの傘下に入った会社の人間だよな。
「社長から夜九時までの接待を言われましたので。
ですが、安心してください。ここの料理は上手いですよ、もちろんおもてなしですから」
「雅は?」
「大丈夫、帰しました」
「そうか」と口に手を当てて、ぼんやりと雅パパを見ていた。
「何にします?和食、洋食、なんでもありますよ」
「おじさんは、そんなことして楽しいの?」
「ははっ、何を言っているんだい」
「会社を乗っ取られたんだろ」
僕の言葉に、雅パパの言葉が一瞬にして詰まった。
「乗っ取られただなんてそんなもんじゃない、売ったんだ」
「ダサいよ」
「そうだろうね、君には子供だから分からないよ」
落ち込んだ表情を見せた雅パパ。
僕はふてくされて、雅パパを見ていた。
「それでいいのか、アンタの生き方?」
「いい、私には子供も妻もいる。守るものもある。
自分を犠牲にして生きるのは、何とも思わない。
それが私の役目だ。大人になればわかる」
「分かった」
僕はこれ以上雅パパを責めるのはやめた。
「何か飲もう、未成年だからアルコールはダメだぞ」
「レトロゲーム……」
「レトロゲーム、ああ昔やっていたな。君も得意なんだって、幸神君」
「僕は昔、いろいろとやっていましたから。師匠に教わって」
「君の年代で私たちのゲームをやっているとは、驚きだね」
「いい物はいいです」
「だけど、時代は進む。ドリコムは未来型ゲームを作り出そうとしている」
そう言いながら、メニューをしまって本棚からパンフレットを取り出した。
パンフレットには、体感ゲームが書かれていた。
しかも、全部がスマホのアプリだ。
「これはね、新しいゲームだ。スマホの無限大。
スマホの中はゲーム画面だ、覗けばそこに未来が見える。
だけどもっと新しい技術を開発中だ。
そうだな、プロジェクションマッピングのゲームも開発中なのだぞ」
「そうですか」
「未来は明るい、今回の件は相手が悪かったと思うしかないよ」
そう言いながら、雅パパは首を横に振っていた。
僕はパンフレットをちらりと見ながら、SPの位置を確認していた。




