064
体育館でゲームをした日から八日ほど過ぎた。
明日はオシリスゲームのステージ6が始まる。
『魔田村』のゲームソフトをかつて、僕は持っていた。
だけど、このゲームソフトだけはどこかに行ってしまった。
元はゲーセンでこのゲームをワンコインでクリアもしたことがあるので、自信がないわけではない。
が、それも小学生の話だ。
マイトナバンジャップの時からそうだ、できることができなくなっていた。
今、どこまでできるのかが分からない。
そんな僕が来ているのは、僕の部屋よりはるかに広い部屋。
40インチの大型テレビで、自宅から持ってきたニューファ○コンを繋いでいた。
真っ白な壁に、きれいに整った部屋は僕の部屋じゃない。
コントローラー片手に、僕は『魔田村』をやっていた。ここにはゲームソフトだけあった。
真っ暗な洞窟の様な所を、鎧を着た男が進んでいく。
『魔田村』とは、騎士の男が悪魔の王にさらわれたお姫様を助ける話だ。
ただ、悪魔の王がいるのが『魔田村』というホラーチックな場所にいる。
ファ○コン初期のゲームで、二周クリアするとか、攻撃を喰らっても鎧を着ていると生き残るとか。
そう言う画期的なシステムのゲームだ。あれ、有名な配管工のゲームもそうじゃないのか。
そんな僕は、魔田村のゲームソフトを求めてある場所に来ていた。
「ルイ、お茶を持ってきたぞ」
「ああ、雅」
そう言いながら、黒のキャミソールで怪しげな魅力を持った雅がお茶を運んできた。
ここは雅の自宅の部屋、雅の部屋に最近僕は通っていた。
「まさか、雅が『魔田村』のソフトを持っていたとは」
「うむ、持っておるぞ」
「本体はないのにか?」
「そうじゃ、これは呰見の家で譲ってもらったのじゃ」
雅の言葉に、僕は懐かしさと悲しさが入り混じった。
「雅……呰見の話はもう出すな」
「ルイにとってはもう一つのトラウマじゃな」
「ああ……」
僕はそんなことを言っていると、胴長のドラゴンが現れた。
魔田村ステージのボスだ、短剣を手に僕は宙に浮くドラゴンと対峙した。
「ドラゴンは確か頭を狙うとあっさり死ぬんだよな」
「そうなのか」
「それに、こいつは規則的に円を描く。だから安全地帯もあるんだ」
鎧を着た騎士を僕は段差の手前でしゃがませた。
ジャンプしながらドラゴンの頭に短剣を叩きこむ。
中を飛ぶドラゴンは、迫るようだが、円を描くように避けていく。
そのまま僕は短剣を叩きこんでドラゴンを倒していた。
火に包まれたドラゴンを、僕の隣で雅が見ていた。
「やっぱ、覚えているな」
僕はドラゴンを倒して、上から降ってくる鍵を取ってきた。
すると僕が操作していた騎士は、両手を上げていた。そのまま先の門が開く。
「さすがルイじゃ、本当に騎士みたいだ」
「魔田村は、姫様を助ける騎士が主人公だからな」
「ほう、魔田村は奥が深いのじゃ。
じゃが、なぜ一人でわざわざそんなところに向かうのじゃ?
国の姫なら、国中の兵士をかき集めて向かうのがよかろう」
「さあな、それは考えたこともない」
僕は次のステージ画面になるゲーム画面を見ていた。
「毬菜はいないのか?」
「ああ、なんでも忘れ物があるからって……最近は別行動だ。
いいんじゃないか、一週間ぐらいオシリスゲームが開催されないからな」
「三種の神器……か」
「ああ、残ったのは三組。僕以外に二組いる」
僕は次のステージで、青い壁から茶色の壁に変わった中でも騎士を動かしていく。
「ルイは『三種の神器』を持っていないのか?」
「ああ、無い。逆に言えば毬菜には心当たりがあるらしいがな」
「記憶が戻ったという事か?」
「それもあるが、正直あいつのことはよくわからない。そんなことより、雅」
「なんじゃ?」
「例の情報は調べてあるんだろうな」
「無論じゃ、わらわはこれでもできる女じゃ」
「そうだな、これは毬菜に聞かれては厄介だからな」
雅がお盆の下に置いてあった大きな茶封筒を手渡してきた。
僕はそれを受け取りながら、中身を確認する。
「よく、ルイは気づいたものだ」
「お前が本来気づくのじゃないのか?オシリスの格好を見て」
「そうじゃな、あの時はまともな精神状態ではなかった」
「わりぃ」
僕は懺悔の気持ちを雅に見せた。
オシリスが着ていた格好、それはドリコム社専用の背広だ。
ドリコム社のスーツは必ず社章の刺繍を入れていた。
前回の雅の誕生日パーティの時にも、ドリコム社の社員はほぼ背広だった。
「雅の家はドリコムの傘下なんだろ」
「いや、もうすでにドリコムじゃ。
わらわの会社は、ドリコムに乗っ取られたと言ってもいい。
ドリコムはわらわの会社をうばった強盗なのじゃ、魔田村の魔王みたいにな」
「でも、その割にはドリコム社の社員が随分来ていたようだけど」
「あそこにいたのは、かつてわらわの父上が経営した会社にいた人間ばかりだ。
元々ドリコムの社員はほとんどいない」
「そうか、なるほど」
僕は茶封筒の中身を見ながら、一人の人間のプロフィールを見ていた。
「駕与丁 夢我、これが社長の父親か。
こいつがオシリス登場後の失踪リストに載っている、一番偉そうだな」
「そうでもないぞ」
僕の隣から、雅も覗き込んできた。
「どういうことだ?」
「役職を見てみるがいい」
「役職?ああ副社長、どういうことだ?」
「それは分からぬ、ドリコムは謎が多い。後は直接社長に聞くしかなかろう」
「そうだな。雅、連絡はつくのか?」
「ああ、社長は大体ドリコムタワーにおるじゃろう」
「分かりやすい」
ドリコムタワーを知らない福岡県民はいないぐらい、あまりにも有名な観光名所だ。
ドリコムタワーは、ドリコムの本社にある高いビル。塔のような高さからそう言われていた。
「アポイントを取るのなら簡単だ、わらわの父から頼んでおこう」
「うん、それは助かる。明日でも早速頼む。
それから雅、この失踪リストを貰っていいか?」
「よいぞ」
「後、しばらく魔田村のゲームソフトを借りていっていいか?」
「それはダメじゃ」
なぜかそこは拒否をする雅、目が切なそうに訴えてきた。
「なんでだ?雅はもうこのゲームは必要ないだろ」
「いいや、これだけは渡せぬ。ルイが……」
「分かった、またしばらくここに通うぞ。じゃあ、明日もつき合ってもらうぞ」
「うむ、それでいいのじゃ」
雅はやっぱり満面の笑顔を見せていた。
それを見て、僕はやれやれと頭を掻きながらゲームを再開していた。




