057
始めから僕は気づいていたのかもしれない。
薄暗い中学校の校舎、僕はとある教室の机の上に座っていた。
そして、僕が待っていたのは一人の人間。
それは男だ、見ていたスマホをポケットにしまって睨んだ。
顔ははっきり見えないが、僕は確信していた。
「大翔」
「兄貴……なんのつもりだ?」
「ここがお前たちの会場か?」
僕はそう言いながら机の上から飛び降りた。
そのまま、そばにあった黒板を強く叩く。
「どこで知った?」
「当り前だ。僕たちは血のつながった兄弟だ、隠し事はよくない。
お前のスマホを見させてもらった。
コントローラーなら、オシリスからメールが届くからな」
「卑怯だぞ兄貴」
「卑怯なモノか、お前が毬菜をいじめていたくせに」
僕は大翔を険しく睨んでいた。
「関係ない、兄貴は八神中じゃない人間だ」
「お前の何が毬菜をいじめさせる?」
「虚ろだ、毬菜は虚ろなのだ。
他の誰とも違う、間違いなくあいつは虚ろだ」
「意味分からない」
「毬菜は性格が不確定だ。一緒に暮らすことで、それは確信に変わった」
「それでも毬菜をいじめていいことにはならない。
あんなアザまで作って、どれだけ毬菜を追いこむんだ?」
「何のことだ?」
「とぼけるな、お前がやったのは暴行だ。中学になって、そんな分別もつかないのか?」
「……やれやれ」
大翔が首を横に振って、降参のポーズだ。
「さすがは、毬菜。あんな嘘までつくのか」
「嘘じゃない、あいつはいつもあざを消すのにコンシーラーまで塗ってごまかしていた。
お前たちがいじめたのだろう」
「いじめているのは認める……が暴行を振るうことはしない」
「お前は知らないのか?毬菜が体中あざだらけなのを」
「知らない、それがしはネットでしか毬菜を叩いていない」
大翔は詰め寄る僕を、恐ろしく冷静に振り払った。
僕には全く理解できなかった。
「じゃあなぜだ、なんで毬菜は……」
「そのことについてはわらわが説明しよう」
そして、教室に一人の人間が入ってきた。
もちろん、暗闇の中でもドレスを着ているのですぐにそいつが誰かわかった。




