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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
六話:僕たちのレトロゲームはマルチエンディングになることもある
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何かに疲れた時、何か割り切れない時に行く場所はここに行く。

だけどそこには、あいつがなぜか来ていた。


UNGAはショッピングセンター、文字通り『運河』をモチーフにした茶色い壁と川が流れた場所。

デートの場所や、買い物に憩いの場所だ。

何より嫌いな事や嫌なことを忘れるにはいい場所だ。

最上階には、ゲーセンがあったから。

いつも通りのゲーセンで、僕はゲームをしていた。

格闘ゲームで雑魚狩りをするのは……正直楽しい。

3Dの格闘ゲームをやっていると、僕の後ろに人の気配だ。


「あら、いつも通り幸神君。また雑魚狩り?」

「なんだよ、いいだろ」

「荒れているのね」

教楽来に言われて、僕は黙々とゲームを続けた。

結局、始めにいた乱入された対戦相手はあの後入ってこない。

格闘ゲームは、既に一人用プレイになっていた。


「僕は弱いんだ、結局過去にすがって、過去から逃げようとしているだけなんだ」

「そう、それでいいじゃない」

「よくない。過去を克服できないと次で終わる」

「何に怯えているの?」

「怯えていない」

「そう、あなたはどうも怯えているしか見えない」

教楽来はいつも通り冷たい目で、僕の隣にいた。

物静かな教楽来は、僕を見透かしているかのようだ。

対戦ゲームを終えた僕は、立ち上がった。


「怯えてなんかいない」

「怯えているわ、だから強がるの」

「じゃあどうすればいい?毬菜みたいに何も考えずに笑っていればいいのか?」

「あら、それは無理よ。あなたのトラウマがなにか分からないけど」

教楽来は意外なことを言っていた。


「トラウマは治すことができないから、絶対に無理」

「無理っていうな、簡単に否定するな」

「トラウマは、あなたの気の持ちようだから」

「どういうことだ?」

「あなたの過去で嫌だったことが、そのままトラウマになるの。

子供のころの教訓や経験、それがあなたのトラウマ。

幸神君のトラウマが何かわからないけど、それを無理矢理克服するのはできないわ。

だってそれはあなたの過去だもの、あなたの過去を否定することはできないわ」

教楽来の言葉は、僕の問題を見透かしていた。


「教楽来、お前の言うとおりだ」

「そうね、私の言うとおりよ」

「だが、それでは解決にはならない」

「そうね、あなたのトラウマはオシリスゲームの事でしょ」

「……まあ、そうだ」

「だとしたら、あなたは一人でゲームをしているわけじゃないわ」

教楽来は冷たい視線を僕に投げかけてきた。

それはいつも通り、落ち着いたオーラをだしながら。


「どういうことだ?」

「人は支え合って生きている、つき並みな言葉。

だけど、今のあなたには必要な言葉よ」

「なんだよ、もったいつけるな」

「あなたの相棒は誰?毬菜でしょ」

「それがどうした?」

「あなたには毬菜がついているわ。あなたのトラウマも、毬菜と一緒に解決するように考えるの。

トラウマは自分の中にあるモノで、自分の中の精神的なモノ。

だけどオシリスゲームの中に出てくるトラウマは、あなただけのモノじゃないわ。

コントローラーでキャラクターの毬菜も、一緒に体験し、経験するの。

だから……言いたいこと分かるでしょ」

「分からんが……何となく理解した」

「そう、それでいいわ」

教楽来は一瞬だけ笑って、すぐにすまし顔になった。


「少し僕は考え直すとするよ。そんなことより……」

「あら、何かしら?」

「毬菜のことで聞きたいことがあるんだ。久しぶりにお前に会ったのだから」

「久しぶりではないわ」

僕は振り返っては、教楽来のことを見ていた。

教楽来は表情を変えずに、ゲームセンターの筐体そばで僕を見ていた。


「ある人間が言うには、毬菜は虚ろだ。

ある人間が言うには、毬菜は疑問の残る存在だ。

ある人間が言うには、毬菜はいつも笑っている人間だ。

お前はこのことについてどう思う、一緒に暮らしていた仲だろう」

「そうね、毬菜は一言で言うと理不尽よ。虚ろという言葉が、一番近いわね。

だけど毬菜はいつも隠していたわ」

「隠していた?」

「そうね、あの子の体にはアザがあるみたい。

大きなけがを負っているけど、それを隠そうとするの」

教楽来の言葉を、僕は真剣に聞いていた。

僕にはその言葉に思い当たるところがあった。


「まさか……頭の陥没か」

「頭の陥没、それは初耳だわ」

驚いた様子の教楽来、すぐに冷静に戻る。

いつも淡々としているが、考え込んでいる様子だ。


「いや、前になんとなく頭を撫でた時、頭が陥没していた。

僕は一瞬ビックリしたよ、まるで頭が変形しているかのように」

「そう、それももしかしたら関係あるのかしら」

「どういうことだ?」

「毬菜はいじめられているの、知っている?」

その言葉に、教楽来がよどんだ目で僕を見てきた。

僕は『いじめ』という言葉に心当たりがなかったのだから。



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