053
オシリスゲームを終えた僕は、八神中の体育館の前で呆然としていた。
僕が持っていたコントローラーが無くなって、毬菜が再び出てきた。
だけど僕は呼吸を乱しながら、静かな体育館の前に立ちつくしていた。
目の前で、僕は震えていた。
「広哉?」
僕を呼ぶ声がしたが、僕は全く反応できなかった。
「なんでこのステージまであるんだ!」
「広哉、どうしたの?」
二度目の毬菜の声に、僕はようやく反応した。だけど目はうつろだった。
そんな僕を見てか、毬菜が僕の頬に手を当てた。
「大丈夫?」
「紗羅……萬……弩」
「広哉?なにかおかしいよ」
「おかしい?おかしい……僕はおかしくない!」
「ううん、おかしいよ」
「怖いんだ、怖い!」
僕は震えながら、その場にしゃがんでいた。両手で耳をふさぎながら、体を震わせていた。
「何が怖いの、広哉はおかしいよ!」
「僕は本当のことをいうと……このゲームが嫌いなんだ」
「嫌い?」
「ああ、僕にトラウマをつけたゲーム……シャッター」
「シャッター、どういうこと?」
「あのステージは、いや、あそこだけは苦手なんだ」
「広哉にも苦手なものがあるんだね」
「どういうつもりだ?」
「いつも強気で、なんでも知っていて、なんでもできる広哉が苦手なものがあるのが……ね」
「僕にだって苦手なものぐらいある、トラウマなんだよ!」
僕は中学校の体育館を口惜しく見ていた。
それを感じたのか、察した毬菜が僕の頭を撫でていた。
「僕はどうしたらいい?」
「広哉、震えているの?」
「怖いんだ、あのシャッター地獄に立ち向かう勇気がない」
「つぶされるのはあたしで、広哉じゃないよ」
「でも、それでも嫌なんだ」
「……どうして?」
「初めて紗羅萬弩でラスボスを倒したとき、気を抜いたらすぐにシャッターにつぶされた。
自機が全滅すると、真のエンディングが見れない。
シャッターにつぶされたショックから、しばらくの間最後のステージまで行かなくなった。
それでも子供ながらに練習を重ねて、再び何とかラスボスを倒した。
だけど、シャッターのところでいつも一機死んでしまう」
「そっか、しょうがないよね」
「しょうがなくない!」
僕は叫んでいた。そんな僕をよそ目にメールが来たスマホを見ていた毬菜。
おそらくゲーム主催者のオシリスによるものだろう。
「誰か脱落したのか?」
「ううん……三日後、ループ2をやることが決まりました」
「そうか……」
二周目が三日後、つまり誰も全滅しなかった。
二周目でもしも最後まで来たら、またあの脱出が待っている。
「何より僕たちは、後一機だ。次死んだらすべて終わり」
僕は現実を見るしかなかった。
シャッターにつぶされた、ビックワイパー。
脱出に失敗した僕は、そこで残機一機の現実に直面した。
そんな落ち込む僕に、毬菜はいつも通り笑顔を見せて僕の手を引いた。
「でも三日あるよ、練習しよっ!」
「お前はなぜ、そうまで前向きでいられるんだ?
次のゲーム、最後まで行けば脱出に失敗すれば終わりなんだぞ。
オシリスのヤツ、あのゲームの中にある隠し1UPまでなくしているし。
スコアの1UPまで無くしていたんだ」
「だからだよ!」
そう言いながら、毬菜は僕の手を引いて笑顔を見えていた。
「三日あれば、トラウマでもシャッターでも克服できますよ」
「それは無理だ、僕は……子供のころからずっとできなかった。
何度も失敗して、成功したことがないんだ。必ず一機死ぬ。
いつもクリアしても緊張して、脱出がとても怖かったんだ」
「じゃあ、これから克服すればいいじゃないですか」
「勝手なことを」
「勝手じゃないです、あたしなりに考えたんですよ。大丈夫、あたしに秘策があります」
毬菜はそんなことを言いながら、やっぱり笑顔を変えずに僕の手を引っ張っていた。
僕はやれやれと思いながらも、毬菜について行くしかなかった。




