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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
五話:僕のレトロゲームの中にも苦手なものもある
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オシリスゲームを終えた僕は、八神中の体育館の前で呆然としていた。

僕が持っていたコントローラーが無くなって、毬菜が再び出てきた。

だけど僕は呼吸を乱しながら、静かな体育館の前に立ちつくしていた。

目の前で、僕は震えていた。


「広哉?」

僕を呼ぶ声がしたが、僕は全く反応できなかった。


「なんでこのステージまであるんだ!」

「広哉、どうしたの?」

二度目の毬菜の声に、僕はようやく反応した。だけど目はうつろだった。

そんな僕を見てか、毬菜が僕の頬に手を当てた。


「大丈夫?」

「紗羅……萬……弩」

「広哉?なにかおかしいよ」

「おかしい?おかしい……僕はおかしくない!」

「ううん、おかしいよ」

「怖いんだ、怖い!」

僕は震えながら、その場にしゃがんでいた。両手で耳をふさぎながら、体を震わせていた。


「何が怖いの、広哉はおかしいよ!」

「僕は本当のことをいうと……このゲームが嫌いなんだ」

「嫌い?」

「ああ、僕にトラウマをつけたゲーム……シャッター」

「シャッター、どういうこと?」

「あのステージは、いや、あそこだけは苦手なんだ」

「広哉にも苦手なものがあるんだね」

「どういうつもりだ?」

「いつも強気で、なんでも知っていて、なんでもできる広哉が苦手なものがあるのが……ね」

「僕にだって苦手なものぐらいある、トラウマなんだよ!」

僕は中学校の体育館を口惜しく見ていた。

それを感じたのか、察した毬菜が僕の頭を撫でていた。


「僕はどうしたらいい?」

「広哉、震えているの?」

「怖いんだ、あのシャッター地獄に立ち向かう勇気がない」

「つぶされるのはあたしで、広哉じゃないよ」

「でも、それでも嫌なんだ」

「……どうして?」

「初めて紗羅萬弩でラスボスを倒したとき、気を抜いたらすぐにシャッターにつぶされた。

自機が全滅すると、真のエンディングが見れない。

シャッターにつぶされたショックから、しばらくの間最後のステージまで行かなくなった。

それでも子供ながらに練習を重ねて、再び何とかラスボスを倒した。

だけど、シャッターのところでいつも一機死んでしまう」

「そっか、しょうがないよね」

「しょうがなくない!」

僕は叫んでいた。そんな僕をよそ目にメールが来たスマホを見ていた毬菜。

おそらくゲーム主催者のオシリスによるものだろう。


「誰か脱落したのか?」

「ううん……三日後、ループ2をやることが決まりました」

「そうか……」

二周目が三日後、つまり誰も全滅しなかった。

二周目でもしも最後まで来たら、またあの脱出が待っている。


「何より僕たちは、後一機だ。次死んだらすべて終わり」

僕は現実を見るしかなかった。

シャッターにつぶされた、ビックワイパー。

脱出に失敗した僕は、そこで残機一機の現実に直面した。


そんな落ち込む僕に、毬菜はいつも通り笑顔を見せて僕の手を引いた。

「でも三日あるよ、練習しよっ!」

「お前はなぜ、そうまで前向きでいられるんだ?

次のゲーム、最後まで行けば脱出に失敗すれば終わりなんだぞ。

オシリスのヤツ、あのゲームの中にある隠し1UPまでなくしているし。

スコアの1UPまで無くしていたんだ」

「だからだよ!」

そう言いながら、毬菜は僕の手を引いて笑顔を見えていた。


「三日あれば、トラウマでもシャッターでも克服できますよ」

「それは無理だ、僕は……子供のころからずっとできなかった。

何度も失敗して、成功したことがないんだ。必ず一機死ぬ。

いつもクリアしても緊張して、脱出がとても怖かったんだ」

「じゃあ、これから克服すればいいじゃないですか」

「勝手なことを」

「勝手じゃないです、あたしなりに考えたんですよ。大丈夫、あたしに秘策があります」

毬菜はそんなことを言いながら、やっぱり笑顔を変えずに僕の手を引っ張っていた。

僕はやれやれと思いながらも、毬菜について行くしかなかった。



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