005
教楽来姉が指さしたのはレトロゲーム。
それはビデオゲームエリアの中でも、隅に追いやられる古いゲームのことだ。
昔発売されたコンピューターゲームを、ゲーセンに移植しているシロモノ。
普通に考えて、ノスタルジーに浸りたいサラリーマンぐらいしかやらないだろう。
だが、僕は違う。レトロゲームは、やったことがある。
年代的に見ても三十年以上前に発売されたレトロゲームを、高校生の僕は上手いと自負があった。
それは、周りでやっている人が多いから。
通常のビデオゲームは一回百円のゲームも、レトロゲームに関しては値段が違う。
一回十円でできる激安ゲームだ。
そんなレトロゲームコーナーの一つの筐体のそばに来ていた。
「『マッチー』か、こいつでいいのか?」
「ええ、いいでしょう。こう見えても私は最近練習しまくりなの、プロ級と言ってもいいわ、
いいえ、これから本格的にプロになろうと思うの」
「随分な自信だな」
「私は理不尽に打ち勝つため、あなたと勝負よ」
などと言いながら、僕と教楽来姉は椅子を二つ合わせて一つのゲーム筐体の前に座った。
(お前の方がよっぽど理不尽だよ)
それでも僕は引くのも嫌なので、教楽来姉と隣あって座った。
が、ちょっと教楽来姉の長い髪からいい香りがした。
女性らしくシャンプーを使っているみたいだ。これは色仕掛け作戦なのか。
「もしかして私にドキッてしちゃったの?」
「しねえよ」
「発情中?いいのよ、大丈夫。私を心配しないで。
私はあなたが近くにいても興奮……しないわ。私のバージンを奪ってもいいけど。
動物の雄が雌を欲しがるのは理不尽ではないわ」
「だから、そんなわけねぇよ。何言っていやがる!」
僕は初恋のことを思い出してか、首を横に振っていた。
教楽来姉は僕の反応を見て、髪を優雅にかきあげていた。
「そうね、とても残念だわ。私はこう見えても胸がとても大きいほうなのに」
淡々と自分の胸自慢をしながら、ゲーム画面にコインを投入する。
確かに教楽来姉の胸が大きい、ブレザーの上からも胸の輪郭が確認できた。
「作戦だろうがそんなものは無駄だぞ、僕は手を抜かない。
勝負の内容はどうする?何面まで行けるかにするか?」
「そうね、それでいいわ」
かくして、僕と教楽来姉は『マッチー』というレトロゲームを始めた。




