046
海の見える浜辺の近くに真っ白な家、それは別荘だ。
真っ白な別荘は多々連家のモノで、僕はここに来たのは二回目だ。
海を背景に見えた白い建物は、まるで教会だ。
両側にはきれいに整えられた池。
ラフな私服で行くわけにもいかず、よそ行きのスーツもなく、制服がまともだと判断して制服で参加した。
隣には毬菜、普段同様こちらもセーラー服だ。結局学校に行く格好と変わらない。
「全く、洋服を用意する余裕がないんだぞ」
「うん、でもすごい人だね」
「ああ、全く雅も誕生日会だけでこんなパーティをしやがって」
「本当にお金持ちだもんね、雅ちゃん」
「会社の社長の娘だからな。僕達なん生活に困っているっていうのに」
「僻み?」
「まあ、そう言うところだ」
「ようこそ、ルイ」
そう言いながら出てきたのが、雅だ。相変わらずのきらびやかな黒のドレス。
蝶をあしらったレリーフは、まさに漆黒の姫君そのものだ。
隣には藍色のスーツを着た執事じゃなく、僕の弟の大翔。
雅お気に入りの黒い傘で、雅のことをエスコートしていた。
「さすがは雅女王様」
「ほう、わらわを女王と言ってくれるのはルイだけじゃ」
「誕生日会、相変わらず豪勢だな。さすが金持ち」
僕は周囲を見回した、昼間にもかかわらず多くの人が集まっていた。
雅と同世代の子供は少なく、どちらかというと大人が多い。
小学生ならいざ知らず、中学生でこのパーティはさすがに大げさだと感じてしまうが。
そう言う意味もあるので、同級生や知人として毎回僕を招待する。
「父上はわらわのために何でもしてくれるのじゃ」
「全く、金持ちの考えることはよくわからない」
「よくわからぬのは、ルイの方じゃ」
そう言いながら雅は、ちらりと隣の毬菜を見ていた。
毬菜はえへへっと、無邪気に笑っていた。
「ルイはわらわという者がありながら、なぜ毬菜と一緒に暮らしておる?」
「僕のクラスメイトが勝手に押しつけたんだ、大翔だって知っているだろ」
「雅様、かのものは……毬菜とこの前一緒に風呂に入っていたそうですぞ」
「な、なんと不埒なっ!」
強く反応したのは雅だ、険しい顔で僕の方を睨んできた。
「お、おい大翔!裏切ったな」
「広哉ったら、裸のあたしのあんなことやこんなことを……あんっ」
「毬菜も悪乗りするなっ!」
照れる毬菜に、僕は思いっきり焦っていた。
前にいる雅は、静かに燃えているようだ。
白い肌の雅が顔を上げると、憎悪の視線を僕に投げかけた。
「ほう……さすがはルイじゃ。ルイは女遊びをしたい年頃じゃからな」
「てか、なにも僕はしていない」
「ほう、まあよかろう。この話はここではやめておこう、後でゆっくり聞くとしよう」
最後に冷たい目線を送ってきたが、すぐに雅はいつも通りに話を戻す。
それにしても雅の肌は本当に白いな。人形みたいだ。
「ああ、そうだ。一応これ」
「プレゼントか?」
「ああ、誕生日だからな。プレゼント」
僕は持っていた長細い箱を渡した。
綺麗にリボンでラッピングされた箱を、雅が優雅に受け取った。
「ありがとうじゃ、ルイ」
「雅だと、本当はいいプレゼントをもらっていると思うが……まあ」
「やはり、毬菜のおかげか?」
再び、雅は毬菜に対して視線を送った。
「いや、多分それは違う」
「昔のルイに戻りつつあるようじゃ、わらわは嬉しいのじゃ」
「それに僕は雅の思っているほど昔も立派ではなかった。そのプレゼントだって毬菜が選んだ」
「……そうか」
プレゼントを持つ手を左手に変えた雅。表情も少しだけ暗くなった。
「雅ちゃんなら、きっと喜んでくれると思って」
「なぜなのじゃ!呰見ではないと思ったら、今度は毬菜なのじゃ?」
いきなり声を荒げた雅、その視線ははっきり毬菜に向けられていた。
強い声を聞いて、毬菜は一瞬笑顔が止まった。
「雅、落ち着け!」
「わらわは知っているぞ、広哉がプレイヤーで、毬菜はコントローラーじゃ。
そうであろう大翔」
「はい、雅様。それがし同様、教楽来 毬菜はコントローラーにございます」
大翔がかしこまった表情で言った。だけど、僕はさらりと言った言葉に驚いた。
「お前、まさかコントローラー?」
叫んだ僕は、思わず自分の弟を指さしていた。




