044
最近の僕は一つ変化があった。
教楽来は脱落して三週間ほど経過していた。
その後も僕はオシリスゲームに参加していた。
だげど、僕が変わったのはそれだけじゃない。
夏も近づいてきて日の光が強く感じる。家の中に引きこもっていたせいか、外にいるだけで疲れる。
こうしてみると、僕も日の光が弱い。
放課後になって、僕は帰ろうとしていると隣に教楽来の姿があった。
「今日の日差しは強い」
「あら、ちゃんと来るようになったわね。これで七日連続通学ね」
「でもこの日の光は苦手だ、夜型生活もしていたわけだし」
僕の隣には教楽来がいた。今日は委員の仕事はないらしい。
あれから僕は、学校に来るようになった。
真面目に心を入れ変えたわけだが、それだけじゃない。学校に来る理由もできたから。
「最近はよく僕に絡んでくるな」
「そうね、求菩提がいなくなったから。逆に相手にする人間がいないのよ」
「そうだったな」
「あら、これもそれも全部あなたのせいよ」
教楽来は冷たい目で僕を見ていた。
「悪かった、取り下げる」
「取り下げなくていい、だけどやってもらうわよ」
「まあ、気が向いたらな。何か情報は得たのか?」
「そうね、多々連 雅はパソコンソフト会社の社長の一人娘」
「知っている、まあ昔からのつきあいだ」
「へえ、意外ね」
「僕の弟が雅といつもベタベタと一緒にいるからな」
「そう」
「まあ苦手な相手だよ」
僕が頭を掻きながら言う。教楽来は難しそうな顔を見せていた。
「幸神君にも苦手なモノとかあるのね」
「あるよ、人間だし」
「私もあるわ、苦手なモノ」
「へえ、なんだよ」
「当ててごらん」
「めんどくせ」
「あら、私のことが興味ないのね。残念だわ。
じゃあ答えを言うわね。一つは、黒板に爪を立てる音。それとね、もう一つがお化けよ」
「なんというかつまりは普通だな」
僕は普通の答えに、つまらなそうに返事をした。
「あら、普通よ。お化けは理不尽だし、黒板に爪を立てると耳が痛いじゃない。
耳に悪影響を与えるものは、やはり苦手だわ。子供のころに中耳炎になっていたから」
「へえ、耳を大事にしないとな」
「今は影響ないけど、耳に影響のある高音は嫌いなの。
幸神君は、苦手なモノとかあるの?」
「まああるが、普通の人はそこまで気にしないものだけど」
「教えて」
教楽来はなぜか僕の隣から距離を詰めてきた。
教楽来の腕が、僕の腕と当たりそうになったので少し離れていく。
「距離が近い」
「あら、そうかしら?」
「まあ、お前も苦手だよ」
「それは残念だわ、こんなにかわいくて愛想のいい美少女の私が苦手という病におかされているとは」
「そういう病じゃない、雅も苦手だし」
「あら、あなたの弟さんとはどんな関係なの?チュッチュ系?それともズドーン系?」
「なんだ、その例えは。雅と大翔はそんな関係じゃない。
年齢も一個上だし、兄の僕が言うのもあれだけど大翔は変だし」
「そう、幸神君の方がよっぽど変よ」
「お前に言われたくない」
僕が言うと、教楽来は突然悲しそうな顔っを見せた。
それを感じて、苦い顔で僕は頭を掻いていた。
「またか……」
「私だって……失いたくなかった」
「悪かった、悪かったよ」
教楽来の目から涙があふれていた。それと同時に、周りの冷たい目が僕に刺さる。
最近の教楽来は、涙もろくなった。急に泣き出しそうになる。
僕は急いでハンカチを取り出して、教楽来の顔に当てていた。
求菩提のことは生きている時はそこまで思っていなかったのに、いなくなると涙もろくなる。
教楽来も、オシリスゲームの被害者なんだ。
そう思うと、僕は教楽来の言葉を理解しないといけない。
「分かった、オシリスのことは何とかする」
「うん……」
弱気の教楽来は、素直に僕に従った。
よく見ると、教楽来はかなり可愛らしい。
弱っていると口数も少なくて、可憐だ。元々おしとやかで、教楽来は美人の顔立ちだ。
「でも幸神君、本当はむしろ感謝しないといけないの」
「感謝ってなんだ?」
「あなたが素直に毬菜を養ってくれたこと。私はすごくありがたいと思っているわ」
「そうか?毬菜はお前が思っているほど悪い奴ではないぞ」
「そうね、そう言ってくれると助かるわ。何か本格的にお礼をしないといけないわ」
「お礼?いいよ、めんどくさそうだ」
「そう、じゃあ何か考えておくわね」
「なんで顔が赤くなる?」
教楽来と話がかみ合わないし、教楽来自身が顔を赤く恥らっていた。
やっぱり教楽来はわけが分からない。
「あれ、広哉とお姉ちゃん」
僕と教楽来が一緒にいると、後ろから声が聞こえた。
慌てて僕は教楽来から離れた、教楽来は僕のハンカチを持ったまま後ろに振り返った。
そう、そこには毬菜が笑顔で手を振っていた。




