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僕たちのレトロゲームが世界を救うこともある  作者: 葉月 優奈
一話:僕たちのレトロゲームはスタートボタンで始まることもある
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004

地下鉄に乗って向かった先は、『UNGA』という名のショッピングセンター。

名前の通り運河のそばにあったショッピングセンターだ。

いろんな店舗があるが、僕はそれをすべて無視して上を目指す。

一番上には、僕がよく行くゲームセンターがあった。


かつてこのUNGAには、凄惨な事件が起きていた。

三年前の通り魔事件。七人の人間が撃たれた事件。

だけど被害者が出ていない不思議な事件だ。


まあ本州を覆うピラミッドが出る前から、この福岡ではいくつもの奇妙な事件が起きていた。

幽霊事件に、川が干上がる事件、それから上空に浮き上がる謎の光、ほとんどが事件にならない。

むしろ都市伝説のようなものの一つとして扱われていた。

そんな事件があっても、僕達の生活が何も変わることはない。


昼を過ぎて、今二時ぐらいの時間帯。

UNGAのゲーセンは、かなり広いスペースを誇る。

九州の中でも屈指の繁華街福岡市内にありながら、その規模はかなり大がかり。

上の三つのフロアはゲーセン。ここには有名なプリクラや、体感ゲームがそろっていた。

それからビデオゲーム筐体も数多く並ぶし、カードゲームもある。


だけど平日の昼間にゲームセンターにはほとんど人がいない。

ここにいる人間は、ほとんどがフリーターの集合といっていい。

最もフリーターだって、そんなに年がら年中ゲームはやらないだろう。


僕はいつも通りビデオゲームエリアを見回して、やっている人間がいればそこに乱入する。

格闘ゲームが得意な僕は、当然のことながら一本も取らせることなく圧勝。


そんな僕は乱入した格闘ゲームを淡々とやっていた。

このあと乱入されることもなく、僕はあっさりクリアしていた。


(つまらない……)

僕は何度も見た格闘ゲームのエンディングを見ていた。

けだるそうに僕が立ち上がろうとしたとき、一つの視線を感じた。

そこにはセーラー服姿の少女が、じっと僕を見ていた。

足元には大きな通学かばんを置いて。

そして僕とは目を合わせるなり、笑顔に変わっていた。


「あなたはゲームがとても上手いのね、広哉」

「誰だよ?」不機嫌そうな顔で僕は声を吐く。

長い髪をオレンジ色のリボンで飾られた少女の顔に、見覚えはない。

だけど朝に聞いた声とかなり似ていた。

大きな瞳にしかも笑顔で、僕のゲームを黙って見ていた。

それにしても、見ず知らずの女が僕の名前を知っているのがかえって気味悪い。


だけど少女は、近くのゲーム機の椅子に座ったままで僕の方に寄ってきた。

無邪気な笑顔でずっとゲームをしている僕を見ていた。

あまり関心を持つことなく、言葉だけを適当に返す。


「あたしはあなたの相棒になります」

「お前は朝、もしかして僕の家のガラス戸に現れたヤツか?」

「……たぶんそうだと思います」

だけど、どこか曖昧なはっきりとしない顔を見せていた。

ちらりと見た僕は、すぐにゲーム画面に目線を送る。


「そんなこと言われても僕は君を知らない。なぜ僕の名前を知っている?」

「毬菜……何やっているの?」

そう言いながら、今度は聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。

奥から聞こえた声の主は、僕と同じ学校のブレザーを着ていた。

肩に大きなカバンを担いで、知性オーラを出した女。

眼鏡があれば完璧なロングヘアーの女。


僕はそいつをよく知っていたし、なにより『僕中三大不愉快人間』の一人だ。

ちらりと見た後、ゲーム画面をじっと見ていた。流れるスタッフロールを何となく見ていた。


「なんだよ、委員長様か」

「委員長様って言葉は、理不尽な言い方だと思わない?

委員長っていうのは、肩書きであり、称号であり、そこに様をつけるのは変よ。とても理不尽だわ」

ブレザー姿の女は、いつも通り冷静な顔で僕を見ていた。

ロングヘアーの黒髪を優雅にかき分けて、僕を見下ろした。

彼女の名は、『教楽来(きょうらぎ) 晶菜』。一年の時のクラスメイトだ。


「じゃあ言い方を変える、教楽来。ゲーセンに何しに来た?」

「その呼び方ならこれで対抗するわ、サボリ常習犯の幸神 広哉君。いえ幸神君ね」

「お姉ちゃん、この人なの?」

そばにいたセーラー服の女の子が教楽来の方に顔を見上げた。

教楽来は僕の方を冷たい視線で指差した。


「そうよ。幸神君があなたの相棒になるわ」

お姉ちゃんってことは、どうやら委員長教楽来の妹らしい。

なるほど、ロングヘアーな髪型だけはそっくりだ。


とはいえ顔つきは丸顔だし、教楽来のシャープな顔と随分違う。

どこか穏やかで、目元が垂れていた。

さながら二人の違いを考えると父親似、母親似と言ったところだろうか。

とりあえずセーラー服の女を、『教楽来妹』と僕の中で呼ぶことにしよう。


「相棒ってなんの話だ?」

「あなたはたった今より、毬菜(まりな)とペアを組みなさい。相棒になるの」

「なんだそれ?某ドラマのタイトルか?」

教楽来姉の指示にも似た言葉に、僕は眉をひそめた。

椅子から立って離れようとしたが、教楽来妹がすかさず僕の長そでシャツの袖を引っ張ってきた。


「何をする?」

「あたしは教楽来 毬菜です。

広哉、これから相棒になりますお世話になります。よろしくお願いします」

セーラー服の教楽来妹は、満面の笑みを浮かべながら僕に頭を下げてきた。

笑顔は全く絶やさないし、人懐っこくて僕のシャツを離さない。まるで犬みたいだ。

だけど、面識のない彼女と話すよりも、面識のある教楽来姉に視線を送る。


「勝手に決めつけるな、大体何の相棒だよ?」

「それは毬菜から聞いて。私はこれ以上、彼女の面倒を見たくないの。

あなたが相棒にならないと、話も進まないでしょ」

「相変わらず物を捨てるみたいに言うな、お前は」

俺は委員長である教楽来姉を睨む。

だけど教楽来姉は怒るわけでも、怖がる様子もない。

「あなたのよく言う言葉を借りるなら、私も面倒になったの」


一年の時から知っているが、良くも悪くもマイペースで表情をあまり変えない。

逆に言えば、何を考えているかわからないそういう女だ。

冷たい眼差しで僕をじーっと見返していた。


「え~、お姉ちゃん……あたしはちょっぴり不安だよ」

「理不尽な存在のあなたには、不安がる権利はないわ。

私が議論として問いただしているのは、あくまで幸神君だから」

「そんな簡単に僕が勝手に決められるわけないだろ。

大体得体も知らない女を、男しかいない僕の家に入れるわけにはいかない」

「そう、毬菜をあなたの家の方で預かってくれるのね。これはこれで都合がいいわ」

「な、違うのか?」

「違わないわよ、うふふ」

笑っているが笑い方が棒読みの教楽来姉。全く笑っているようにも見えない。

ゲーム画面は、いつの間にかエンディングロールが流れ終わっていた。


「とにかく僕は預かる義理もない。弟だって納得しないだろう」

「では弟さんが納得すればいいのね、それならば大丈夫よ」

そう言いながら、教楽来姉は僕に近づいてきた。

ズボンのポケットに左手を伸ばしたが、それを僕はつかんでいた。

教楽来姉って結構、腕が細いな。腕だけじゃなく体全体の線が細い気がする。


「あら、何をするのかしら?セクハラ幸神君」

「お前は一体何をしようとした?」

「あなたの弟さんに直接連絡を取るのよ、私は携帯の番号が分からないから」

「で、僕の携帯を奪おうというわけか?」

「そう、分かっているじゃない。さっさと渡して確認させなさい」

「嫌に決まっているだろ」

いかにも嫌そうな顔で僕は立ち上がった。

それでも教楽来姉は、怯えるでも謝るでもない。黙って僕に取られた左手首をさすっていた。


「あら、弟さんが納得すればいいと言ったのはあなたの言葉でしょ」

「やっぱりどうあがいてもダメだ……決裂なのは分かるだろ」

「そう……ならゲームをしましょう。私、格闘ゲームは得意じゃないわ……でもね」

そう言いながら教楽来姉が指さしたのは、ゲームセンターの隅にある筐体を指さした。



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