036
加布羅兄さんが帰ったのは夜の十時を過ぎていた。
大翔も戻ってきて、加布羅兄さんが持ってきた親戚のおばさんが作った肉じゃがを食べた。
そのまま僕は風呂に入っていた。
手狭な浴室に、僕は一人ではいる。
体はそこまで汚れていないが、僕の表面が汚れていた。
(僕はなぜゲームが下手になったのだろう)
加布羅兄さんに言われて、僕はずっと考えていた。
昔は、マイトナバンジャップがクリアもできた。
真エンディングも出せたし、加布羅兄さんがやっていたボーナスだってとれた。
ジャップも鮮やかに、手足のように動かせた。
なのになぜ、今はできないでいた。
(忘れただけ……それだけじゃない)
僕にはその疑問の答えが分からなかった。
もどかしい自分のふがいなさ、それをぶつける様に湯船の水面を叩いた。
「ああっ、もう!」
大声を上げて、僕は苛立ちをぶつけていた。
だけど僕には時間が残されていない。
明日の夜、オシリスゲームが始まる。それが最後のゲームだ。
通知されたゲームは、あのステージ。参加者全員このゲームを知っている。
ゲーム参加者は今頃、火の海ステージの攻略に乗り出しているだろう。
そう考えると、焦って仕方がない。
(明日……最下位になれば)
僕の考えに、頭の中で教楽来の顔が浮かんできた。
「あなたより小さなかよわい女の子を、あなたはあなたの手で殺す」
教楽来が言ってきたあの言葉が現実になる。
そう明日のゲームも順位が変わらなければ終わりなのだ。
そう考えると、毬菜の顔が浮かんだ。
「広哉っ、いいかな?」
(そう、いつもあいつは笑顔で僕に言ってきた)
僕は湯船のタイルを見ながら、疲れた心を癒すしかない。
(やはり、あそこをクリアしないといけない……のか?)
加布羅兄さんに見本を見せてもらった、僕の参考になるだろうか。
行けるかもしれないが、失敗すると毬菜を傷つけてしまう。
「ねえ、いいの?」
(よくない、僕はこのゲームは勝たないといけないんだ。
ゲームをすべてクリアして、勝ち残ってファラオになる。
現実離れした力なら、僕の願いも叶えられる。
そうなったら、絶対呰見に謝らないといけない)
「じゃあ、行くね」
僕が考え事をしていると、奥の方から毬菜の声が聞こえた。
「毬菜?」
だけど、僕がドアの方を見た瞬間、一人の人間がいた。
そして、ドアが開いた。
開いたドアの先には、笑顔の教楽来 毬菜がバスタオル姿で現れたのだ。




