033
――高校一年のある日、僕はたまたま学校に来ていた。
今日は衣替えの日で、僕も白いシャツで学校の廊下をうろついていた。
相変わらず僕を避ける周りの学生が多い。僕の目つきは悪いからな。
僕は昼休み頃にやってきては、勝手にふらついていた。
その日は、中間試験の発表日。
前に受けた中間試験の結果を見に来ていた。
これでも僕は試験だけは受けていた。
高校だけは一応卒業しよう、そんな思いだ。
(ゴミを見る目で見やがるな)
僕はポケットに手をつっこんで、周りを威嚇するように歩く。
この学校も、僕も、世界も全部嫌いだ。退屈で、面倒で、つまらない。
(なんで他人は楽しそうなんだ?)
僕は不満顔をしながら廊下を歩く。
楽しそうな学校生活に、僕は嫌気がさしていた。
(今だけだ、楽しいのは)
そんな僕の目の前には、一人の男が現れた。
「やあ、こんなところで奇遇だな」
それは金髪の男、求菩提だ。外人のハーフの求菩提が、両脇に女子生徒を連れて僕の前に現れた。
僕が一番嫌いなタイプの男だ。勝ち誇った顔で僕を見ていた。
一年の時だから、クラスは別だがイケメン学生ということで学校内の知名度が高い。
「何のつもりだ?」
「いえ、まさか君が来るとはね」
「僕の気まぐれだ」
「そうか、気まぐれか。まあ、君のようなドロップアウトボーイは気まぐれで来るのもありだろう」
「僕に何の用だ?」
「俺にとっては大した用じゃないのだが……」
「女を見せびらかすのなら声をかけるな」
「そうそう……」僕がすれ違う時に、求菩提が背中に言ってきた。
すれ違う生徒の、求菩提に対する目と僕に対する生徒の目が明らかに違う。
「警告をしに来た」
「なんの警告だ?」
「君の家庭は大変なことになるよ、それでもいいのかい?」
「ああ、構わない」
「君は動じないのかい、俺の会社に君たちの家庭が委ねられるのを」
「そうらしいな」
「随分君は立派だ、将来大物になるよ」
「そいつはどうも」
「だけど、君は優秀な会社員にはなれない。力のない大物、つまりは世間はそれをフリーターと呼ぶ」
「それを今から見に来たんだ」
悪態を言った求菩提を背に、僕は廊下の先を進む。
求菩提の嘲笑が聞こえるが、それは無視だ。
元々求菩提の性格が好きではない。嫌味を言うのはいつも通りだ。
(ここか)
僕が立ち止まってようやくたどり着いたのは、自分のクラスだ。
そして、そこではクラスの上位十名が貼り出されていた。
上位十名の中に入っていなければ、何の意味がない。
(さて僕の順位は……)
初めての中間試験に、掲示板で名前を探す。
そんな僕は探して最初に、すぐに名前を見つけた。
(総合順位一位か、分かりやすい)
合計点は五百点満点中四百二十三点、二位とは五十点差をつけていた。
試験自体はかなり簡単だったし、まともにやったらパーフェクトもとれるだろう」。
だけどそんな僕が上を見上げていると、隣でぶつぶつ言っている女がいた。
「な、なんだ……」
「なんであなたが……」
それはブツブツ喋る髪の長い女。知的に眼鏡をかけて、いかにもガリ勉風女子だ。
だけどどこか陰気で、怒っているようにさえ見えた。
僕の視線を見るなり、僕の方に気づいてこっちに向かってきた。
「なぜあなたが一位なのですか?」
「なんだお前は?」
「教楽来 晶菜、クラス委員です」
丁寧に静かに怒りを込めたまま僕の方に頭を下げていた。
僕に対して不満のような視線を送ってくる。
「そのクラス委員がどういうつもりだ?」
「あなたの存在が理不尽です」
いきなり指をさして、僕に言ってきた教楽来という女。
僕はめんどくさそうに首を横に振っていた。
「理不尽?誰がだよ」
「あなたです、あなたは学校に来たのは全部で七日。
初日の早退、四月十八日早退、四月二十五日、試験の日の三回と今日の七日」
「随分細かく覚えているな」
「ええ、あなたがクラスで有名なサボリの幸神君ですね」
「自己紹介しなくていいのは、便利だ。面倒でなくていい」
「でもあなたの存在はとても理不尽だから許せないの。
あなたは学校に来ていない、なのにクラスで一番」
「そうだ、僕は一番だ。成績が全てを物語る。才能がある奴が上、成績で勝ち負けが決まる。
だから僕は一番、誰よりも頭がいい」
「だから嫌なの。ほかの人が私の上なら許せるのに……
才能のある人は、努力も食ってしまう。だから私は天才が嫌い」
そういいながら教楽来は、自分の順位を見せていた。
教楽来の順位は、僕の一つ下。つまり二位だ。
「頭がいいだろ、結局。教楽来だって」
「そうね、頭がいいのは認めるわ。だけど私は、あなたに負けるのだけは許せない」
「ほう、だったらどうする?」
「学校に来なさい、私の前で真面目になりなさい」
「嫌だ、僕は世界に絶望しているから頑張らないことに決めたんだ」
僕は一言そう吐いて、教楽来に背を向けた。それは僕の抵抗だった。
去りゆく僕に対して、教楽来はただ大人しく見守っていた――




